そもそも親権とは?監護権との違い
親権とは、未成年の子供を監護・教育する権利です。 結婚している間は父母の双方が親権をもちますが、離婚する場合には、父母のどちらかを親権者として決める必要があります(単独親権)。 親権は、「身上監護権」と「財産管理権」という2つの権利から成り立っています。 身上監護権とは、子供の養育や身の回りの世話をしたり、社会の一員としての社会性を身につけさせるためにしつけ・教育をしたりする権利です。 財産管理権とは、子供のお金を管理したり、子供に代わって法的な手続を行ったりする権利です。
権利は子供の利益を守るために行使される権利なので、義務の側面があります。親権はあくまで「子供の利益になるのかどうか」という観点から行使されます。
親権者を決める方法は?子供の意思は何歳から聞かれる?
協議離婚の場合、親権者は夫婦の話し合いで決めます。離婚届には親権者を記載する欄があり、記入しないと受理されません。 話し合いがまとまらない場合には、家庭裁判所に調停を申し立てます。調停でもまとまらなければ審判、裁判で決めることになります。 離婚調停とともに、親権者を決める調停を申し立てることもできます(親権者を決める調停だけを申し立てることもできます)。 調停での話し合いでも決まらないときは、審判や裁判で、裁判所に親権者としてふさわしい人を決めてもらうことになります。裁判離婚の場合は、裁判所が離婚を認める時に同時に親権も指定します。 親権を決める手続きの費用は、協議離婚の場合には特にかかりません。調停や裁判をする場合には、家庭裁判所に納める費用や弁護士費用などがかかります。
子供の意思は尊重される?
調停や裁判で親権者を決める場合に、子供は親権者を選べるのでしょうか。弁護士ドットコムに寄せられた相談と弁護士の回答を紹介します。
相談者の質問
夫婦が離婚するに際して、子供が「父、母のどちらと暮らしたいか」の意思表明をした場合、その意見が尊重されることはあるのでしょうか?尊重される場合、それは何歳くらいからなのでしょうか?
弁護士の回答中間 隼人弁護士
親権を決める際には、「15歳以上」の子の意見の陳述は聞く必要がある、とされています。
子の意見の通りにすると決まっているわけではありませんが、15歳以上の子の意見はかなり重視されます。
実務上は、10歳以上であれば、ある程度自分の意見を表明する能力があると考えられており、10歳以上の子の意見はある程度尊重されます。
子供の年齢がある程度高く、物事を判断したり、自分の意思を伝えたりすることができる場合は、子供の意思を尊重して親権者を決定します。 子供が15歳以上の場合は、法律(家事事件手続法・人事訴訟法)上、親権者を決める審判や裁判では子供の意向を聞き、これを考慮しなければなりません。 ただし、必ずしも子供の希望通りに親権者が決まるとは限りません。
養子縁組した子供の親権の決め方
配偶者の連れ子など、養子縁組をした子供がいる場合にも、配偶者と離婚する際には親権者を父母のどちらかに決める必要があります。 養親が親権者にならない場合でも、親権以外の養親と養子としての親子関係(養親子関係)は継続します。たとえば、相続権や扶養義務はそのまま残ります。 養親子関係を終了するには、別途、離縁の手続きが必要です。
親権は父親と母親どっちが有利?親権者を決めるときに重視されるポイント
夫婦の話し合いで親権者をどちらにするか決まらない場合、調停や裁判で決めることになります。 一般的に、調停や裁判では、主に次のような事情を重視して、父母どちらを親権者にすべきか判断されることになります。離婚の有責性(不倫・浮気、DV、うつ病などの病気、別居など)については、あまり考慮されません。
親側の事情
- 監護能力
- 精神的・経済的家庭環境
- 居住・教育環境
- 子に対する愛情の度合
- 従来の監護状況
- 実家の資産
- 親族の援助の可能性など
子側の事情
- 年齢
- 性別
- 兄弟姉妹関係
- 心身の発育状況
- 従来の環境への適応状況
- 環境の変化への適応性
- 子の意向
- 父母及び親族との結び付きなど
これまでの監護状況
親権者を決めるときには、子供のこれまでの生活環境が変わらないかどうかが重視されます(継続性の原則)。 親権を決める時点で同居している親や、これまで主に育児を担当してきた親の方が、親権者となる可能性が高いといえるでしょう。 親権者には、必ずしも母親が選ばれるとは限りません。父親が子供と一緒に暮らし、子育てに母親より深く関わっているといった場合は、父親が親権者とされることもあります。
子供の年齢、意向
子供がまだ幼く、自分で身の回りのことを十分にできない場合、親権者を決めるときには、育児により多く関わってきた親はどちらか、ということも重視されます。 「食事を作って食べさせていたのはどちらか」「保育園の送り迎えを担当していたのはどちらか」などの具体的な事実が、親権者を決めるときの判断材料となります。 先述したとおり、子供の年齢がある程度高い場合には、子供の意思も考慮されます。
親権は父親と母親どっちが有利?
このように親権を決めるには、様々な事情を総合的に考慮し、どちらがより「子の利益」になるかを判断します。 かつては「母性優先の原則」といって、乳幼児については母親を親権者とした方が子供の利益になると考えられていました。しかし、子育てにおける父母の役割が多様化していることから、近年では、個別のケースごとに具体的な事情を元に、どちらの親が親権者としてよりふさわしいかを判断する傾向にあります。つまり、一概に父親だから有利、母親だから有利ということはありません。 とはいえ、現状では、母親が親権を取得する割合が8割を超えています。 父親、母親の立場別により詳しく知りたい場合はこちらの記事をご覧ください。父親と母親それぞれの立場から親権を獲得するためのポイントを、具体的なケースを元に解説しています。
子供が2人いたら親権は1人ずつ分ける?
子供が2人いる場合、親権は2人とも同じ親に決めることもできますし、1人ずつ分けることも可能です。 離婚調停や離婚裁判で親権を決める際には、兄弟姉妹が別々に暮らすことにならないようにという点も考慮されています(兄弟不分離の原則)。 兄弟不分離の原則は、離婚の際に、子供たちが父親や母親との別れに加えて、兄弟との別れも経験させることになるのは一般的に好ましくないという理由から採用されています。 ただし、子供の年齢が上がると、兄弟不分離の原則はそれほど重視されなくなります。 たとえば、15歳と12歳の子供の親権が裁判で争われたケースで、「一般に、複数の未成年の子はできるだけ共通の親権に服せしめる方が望ましいが、或る程度の年令に達すれば、その望ましさは必ずしも大きいものではないと考えられる」として、父親が片方の子供にのみ暴力を振るっていることなども考慮した上で、親権を1人ずつ分けた裁判例があります(東京高等裁判所昭和63年4月25日判決)。
子供が3人以上の場合、親権はどうなる?
子供が3人以上の場合にも、子供1人1人につき、父母どちらを親権者にするか決めていきます。 3人とも同じ親を親権者にすることもできますし、バラバラに分けることもできます。
「子供の親権はいらない」親権は放棄できる?
悲しいことですが、父親も母親も親権を放棄するケースがあるようです。そうした場合、親権者はどうなるのでしょうか。
相談者の疑問
不倫をしている夫から離婚を迫られています。
私は離婚になるなら、子供は夫側に引き渡すつもりですが、夫も仕事を理由に子供は引き取れないといいます。
今後、調停や裁判になったとき、親権の件で、夫は私が子供を育てるべきだと主張してくると思うのですが、私が拒否したらどうなりますか?
弁護士の回答川崎 政宏弁護士
離婚にあたっては、両親のいずれかを親権者に指定する必要はありますから、離婚訴訟の中で裁判官が判決で指定します。
ただ実際はどちらも監護養育を放棄しているわけですから、子の福祉の観点から家庭裁判所と児童相談所が連携して、児童養護施設等への措置を検討することになります。
両親とも親権は不要という意思を示している場合、裁判所によって、児童養護施設などへの入所が検討されるようです。
離婚後に親権を取り戻すことはできる?親権変更できる場合とは
離婚後に親権を取り戻したいと考えた場合は、親権者変更の手続きを検討します。 親権者の変更は、父母の話し合い(協議)では決められません。家庭裁判所の調停や審判を経る必要があります。 親権者変更が認められるのは、「子の利益のために必要がある」とあると認められた場合です。離婚する際に、様々な事情を検討した上で親権を決めたはずと考えられることから、離婚後に事情が変化したことが重視されます。具体的には、次のような事情が考慮されます。
- 居住環境・教育環境・家庭環境などの養育環境
- 現在の親権者の子供への愛情・監護態度
- 現在の親権者の心身の健全性
- 子供の年齢・心身の状況
- 子供の精神状態
- 子供の意思
親権者が死亡したら親権はどうなる?相続される?
離婚後に親権者が死亡した場合、子供の親権はどうなるのでしょうか。
相談者の質問
離婚して、母親の私が子供の親権者になりました。もし私が事故などで亡くなったら、親権者は誰になりますか?元夫になるのは嫌なので、私の母親(子供にとっては祖母)にすることは可能ですか?
弁護士の回答榎本 克巳弁護士
この場合は、親権者がいない状態になります。父は、家裁に親権者変更又は未成年後見を申立てることができます。 祖母は、親権者にはなれませんが、未成年後見人にはなれますので、家裁にその申立てをして認められれば未成年後見人になり、父親は未成年後見人にはなれないことになります。今現在の親権者である人(つまり、あなたは)は、例外的に遺言で未成年後見人を指定することができます(民法839条)ので、あなたがこの遺言を作っておけば適切であることになります。
親が亡くなった場合、親権の有無にかかわらず、子供は相続権を有します。法律上の親子であることには変わりないからです。 反対に、子供が亡くなった場合にも、親は親権の有無にかからわず相続人となる場合があります。
親権が子供の苗字や戸籍に与える影響とは
親権者の苗字や戸籍と、子供の苗字や戸籍とは、当然には連動しません。 離婚すると、結婚時に改姓した人は原則として旧姓に戻ります。旧姓に戻りたくない場合には、結婚時の姓を選択できます。 子供の姓は、何もしなければ変更されず、今までの姓を名乗ることになります。親権者と子供の姓が異なることになっても、法律上は問題ありません。 戸籍も同様です。離婚すると、戸籍筆頭者ではない人は、結婚前の戸籍に戻るか、新たに自分1人の戸籍を作るか選択できます。一方、子供の戸籍は、何もしなければ戸籍筆頭者の元にとどまります。もし、親権者が戸籍筆頭者ではない場合で、子供を自分と同じ戸籍に入れたい場合には、離婚時に新たな戸籍を作成した上で、そこに子供を移籍する手続きが必要です。 社会保険や健康保険の扶養については、親権者が子供を扶養することが一般的ですが、親権のない親が扶養することも可能です。親権のない親は、離婚後も子供への扶養義務があります。
まとめ
自分も配偶者も親権をとることを希望している場合、話合いが難航し、なかなか親権者が決まらないこともあるでしょう。 夫婦間で話し合っても折り合いがつかない場合、弁護士などの第三者を間に入れて、専門的なアドバイスを受けながら話合いを進めることで、解決の糸口が見つかる可能性があります。 また、子供の親権をめぐって調停や裁判へと発展した場合、申立ての手続きや書類の収集・作成などを弁護士が代行してくれるので、手間が省けます。調停などでの対応方法についてアドバイスを受けられることもメリットの1つです。
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親の離婚に伴い、子供には様々な影響や変化が生じます。以下の記事では「離婚をすると子供の苗字と戸籍はどうなるのか」「離婚は子供の心身にどんな影響を与えるのか」といったポイントを詳しく解説しています。面会交流のルールの決め方も紹介します。