弁護士なしで離婚裁判できるのか?
離婚調停で離婚や親権などの条件について合意できなかった場合、裁判所に訴えを提起し、裁判官に判断してもらうことになります。離婚裁判は弁護士を代理人として手続きを進めることが一般的ですが、弁護士なしで本人が手続きを進めることができます。 弁護士なしで本人が訴えを提起した裁判のことを「本人訴訟」と言います。
弁護士なしで離婚裁判をするメリット
弁護士なしで離婚裁判をするメリットは、費用を抑えられることです。 離婚裁判を弁護士に依頼すると、離婚だけを請求しても30万円〜60万円程度の弁護士費用がかかります(慰謝料や養育費を求めたり、親権を争う場合はプラスアルファの費用が発生します)。 弁護士なしで離婚裁判をする場合、費用は裁判所に支払う手続き費用のみで、2万円〜4万円程度におさえることができます。
弁護士なしで離婚裁判をするデメリット
一方、弁護士なしで離婚裁判をすることは、以下のようなデメリットも考えられます。
- 書類の準備や裁判に出席する時間・労力の負担
- 正しい主張ができず、敗訴する可能性がある
- 和解に応じるべきかどうかの判断ができない
- ひとりで対応することによる精神的なストレス
書類の準備や裁判に出席する時間・労力の負担
弁護士なしで離婚裁判をする場合、離婚裁判に必要な作業・手続きをすべて自分で行う必要があります。 離婚裁判では、離婚調停よりも多くの書類が求められます。 具体的には、裁判官に離婚を認めてもらうために必要な主張と証拠をすべて書類として提出しなければなりません。 また、離婚裁判の期日に出席しなければなりません。原告であれば、すべての期日に、被告であれば、第1回口頭弁論期日以外のすべての期日に出席する必要があります。離婚裁判を弁護士に依頼すれば、これらの作業をすべて弁護士に代行してもらえます。
正しい主張ができず、敗訴する可能性がある
弁護士なしで離婚裁判をすると、法的な知識が足りないことで正しい主張・立証活動ができず、敗訴したり、不利な条件の判決が下される可能性があります。 離婚裁判では、法律で決められた離婚原因があると裁判官が判断しないと離婚は認められません。 また、慰謝料の金額や親権、養育費などの条件についても、適切な主張・立証活動をしなければ望み通りの結果は得られない可能性があります。 配偶者だけが弁護士に依頼していたような場合、配偶者側の言い分が認められる可能性も高くなります。
和解に応じるべきか正確な判断ができない
離婚裁判では、判決まで争うより、条件について妥協して和解に応じた方がよい場面もあります。 弁護士なしの場合には、和解に応じた方がよいか正確な判断ができず、判決まで争った方がよい場面で和解に応じてしまったり、和解したほうが有利な条件で離婚できたので和解に応じなかったりしてしまう可能性があります。 弁護士に依頼すれば、和解に応じるべきかどうか、正確に判断してもらうことができます。
ひとりで対応することによる精神的なストレス
弁護士なしでひとりで離婚裁判に対応した場合、精神的なストレスのかかる場面が少なからずあります。 裁判所で裁判官とのやりとりは緊張しますし、配偶者と顔を合わせる場面もでてきます。配偶者が嘘や誇張を交えた主張をしてきたりしたら、憤りを覚えるでしょう。 また、離婚裁判は、弁論準備など一部の手続きを除けば誰でも傍聴できる公開の法廷で行われます。離婚というプライベートな問題を、公の場で議論することについてストレスを感じる方もいるでしょう。 弁護士に依頼すれば、手続きや弁護士に対応してもらえるし、本人尋問など自分で話さなければならない場面でもバックアップしてもらえます。さまざまな場面でひとりで行うより精神的な負担は少なくできるといえるでしょう。
DVなどの理由により配偶者と顔を合わせたくない場合には、弁論準備などの非公開の手続きなどで顔を合わせないように交互に部屋に入るように調整してもらえることがあります。また、本人尋問の際にも、つい立てを使ったり別の部屋からモニター越しに話したりして、相手方の姿が見えないように対応してもらえることもあります。
弁護士なしで離婚裁判した場合の費用は?
戸籍謄本の費用
離婚裁判を提起するには、原告と被告が夫婦であることを証明するために、戸籍謄本が必要です。戸籍謄本は、本籍地の市区町村で入手できます。費用は450円です。
収入印紙代
収入印紙は、裁判の手数料として、家庭裁判所に納めます。 必要な収入印紙の金額は、裁判の内容によって異なります。
離婚のみを求める場合に印紙代
離婚のみを請求する場合の収入印紙額は、13,000円です。
離婚と慰謝料を求める場合の印紙代
離婚と慰謝料を請求する場合には、請求する慰謝料の金額によって、収入印紙額が変わります。 請求する慰謝料の金額が160万円までの場合、収入印紙額は13,000円です。 請求する慰謝料が160万円を超える場合には、慰謝料の請求額を基準に収入印紙額が変わり、以下の表のようになります。
慰謝料の請求額 | 収入印紙額 |
---|---|
180万円 | 14,000円 |
200万円 | 15,000円 |
220万円 | 16,000円 |
240万円 | 17,000円 |
260万円 | 18,000円 |
280万円 | 19,000円 |
300万円 | 20,000円 |
320万円 | 21,000円 |
340万円 | 22,000円 |
360万円 | 23,000円 |
380万円 | 24,000円 |
400万円 | 25,000円 |
420万円 | 26,000円 |
440万円 | 27,000円 |
460万円 | 28,000円 |
480万円 | 29,000円 |
500万円 | 30,000円 |
離婚と養育費/財産分与を求める場合の印紙代
養育費と財産分与を請求する場合、それぞれ1,200円ずつ追加で印紙代がかかります。 たとえば、裁判で離婚と300万円の慰謝料と養育費と財産分与を求めた場合、印紙代は2万2400円になります。
郵便切手代
郵便切手は、裁判所が裁判の相手方などに書類を送付するための費用としてあらかじめ一定額を納めます。裁判が終わると、余った分は返却されます。金額は裁判所によって異なり、東京家庭裁判所の場合は6,000円です。
証人の日当・旅費・交通費など
そのほか、証人尋問で証人や鑑定人に来てもらう場合には、日当・旅費・交通費がかかります。 以上が弁護士なしで離婚裁判をする場合にかかる費用です。証人の日当等を除くと、離婚のみを請求する場合であれば2万円程度、離婚とあわせて慰謝料や財産分与などを請求する場合には多くて4万円程度になります。
離婚裁判を弁護士に依頼した場合の費用は?
先述したように、離婚裁判を弁護士に依頼すると、離婚だけを請求しても30万円〜60万円程度の弁護士費用がかかります。ここでは費用の内訳を紹介していきます。
法律相談料
法律相談では、弁護士に現状を伝え、離婚裁判が可能なのか、どのような点が争点となるのか、勝訴の見込みはあるのかなどを相談します。 法律相談料は、30分5000円(税別)程度が一般的です。弁護士によっては、相談料を無料にしている場合もあります。
離婚裁判の着手金
弁護士に実際に依頼した場合の費用については、「着手金」と「成功報酬金」を定めているケースが多いことから、ここでは着手金と成功報酬金について解説します。このほかに、裁判期日への出廷料として1回あたり3〜5万円とするケースや、月額いくらというように月額制を定めるケースもあります。 着手金は、弁護士に離婚裁判を依頼するときにあらかじめ支払う費用です。途中で解任したり、裁判で望み通りの結果を得られなかったとしても、基本的には返金されません。 着手金の相場は、20万円〜40万円程度となっています。 ただし、次のような事情がある場合には、着手金や後述する成功報酬金が増額するケースもあります。
- 離婚裁判の争点が多い
- 配偶者が遠方に住んでいるなどの理由で裁判が遠方で行われる
離婚裁判の成功報酬金
成功報酬金は、離婚裁判で望み通りの結果を得られた場合に弁護士に支払う費用です。 どんな結果を望み通りの結果が得られたとするかは、弁護士や事件の内容によって異なります。 一般的には、原告側(離婚したい側)で、判決により離婚が認められた場合の成功報酬金は、10万円〜20万円です。 また、慰謝料などのお金を得られた場合は、そのうちの一定割合(10〜20%程度)を成功報酬として支払います。 このほか、財産分与や養育費などについても、成功報酬金が発生する場合があります。
弁護士によって成功報酬の計算方法は異なる場合があります。弁護士に依頼する場合は、事前に成功報酬の計算方法について詳しく確認しておくことをおすすめします。
離婚裁判の実費
弁護士費用の実費には、弁護士が裁判所へ行く際の交通費や、裁判所や相手方に書類を送ったり電話をしたりする場合の通信費などが含まれます。 弁護士に依頼する際に、実費に充てる費用として「預かり金」を支払うケースがあります。この場合、弁護士は預かり金から交通費などを支払います。余った預かり金は依頼完了後に返却されます。 以上が弁護士に離婚裁判を依頼した場合にかかる弁護士費用です。実費を除くと、離婚のみを請求する場合であれば30万円〜60万円程度になります。離婚とあわせて慰謝料や財産分与などを請求する場合には、さらに得られた金額に応じて成功報酬金が発生します。
弁護士なしで離婚裁判をする場合の流れ
訴状作成・書類準備
まずは訴状を作成します。訴状は、裁判所のホームページに書式と記入例がありますので、ダウンロードして印刷し、記入します。 訴状の書き方がわからない場合には、無料法律相談などを利用しましょう。訴状は2部用意します。裁判所に提出する分と、裁判所から配偶者に送達する分です。 また、訴状と一緒に提出する次の書類を用意します。
- 調停離婚不成立証明書
- 夫婦の戸籍謄本とそのコピー
- 離婚裁判で年金分割を求める場合には「年金分割のための情報通知書」とそのコピー
- 源泉徴収票や預金通帳などの証拠とする書類のコピー2部
裁判所に提出する書類は自分用にコピーしておきましょう。
訴状提出
訴状などの書類を家庭裁判所に提出します。
第1回口頭弁論の日程調整
裁判所から、口頭弁論の日程が書かれた「呼び出し状」が届きます。
被告が答弁書を提出
被告は、訴状の内容に対して、「この主張は認める」「この主張は認めない」などの認否をする書類(答弁書)を作成し、裁判所に提出しなければなりません。主張に対して反論があれば、それも答弁書に記載します。
第1回口頭弁論期日
訴状提出から約1か月後に、第1回口頭弁論が開かれます。公開の手続きなので第三者が傍聴する可能性があります。 口頭弁論では、訴状と答弁書をもとに、主張と証拠を整理していきます。 この後、約1か月おきに第2回口頭弁論、第3回口頭弁論と進んでいきます。原告と被告は主張・反論・再反論を繰り返し、それらを裏づける証拠も提出していきます。
弁論準備手続き
第1回口頭弁論期日のあとは、第2回口頭弁論ではなく「弁論準備」という手続きで審理が進むことがあります。弁論準備は、公開の法廷ではなく、準備室と呼ばれる小さな会議室で行われます。非公開の手続きなので、第三者に傍聴されることはありません。 準備書面という書類を提出して、その書類をもとに争点と証拠を整理していきます。口頭弁論のように厳格なルールはなく、原告・被告・裁判官が同じテーブルについて話し合います。和解できそうな場合は、裁判官から和解を勧められることもあります。
先述したように、DV被害などを理由に配偶者と顔を合わせたくないような場合は、夫婦が顔を合わせないですむように配慮してくれることがあります。
証人尋問・本人尋問
原告と被告の主張と証拠がある程度出揃うと、それまでに提出された証拠では足りない部分を補うために、証人尋問や本人尋問が行われます。 離婚裁判の場合、家庭内で起きた出来事が争点になることが少なくないので、本人尋問だけなされる場合もあります。 弁護士なしの場合、本人尋問は、裁判官が本人に対して質問します。その後、配偶者が本人に対して質問します。これを原告・被告の順で行います。 本人尋問で質問に回答した内容も、これまで裁判所に提出してきた主張を裏づける証拠のひとつとなります。気持ちの思うままに話すのではなく、裁判官に離婚原因があると認めてもらうために必要なことを、これまでの主張や証拠と矛盾のないように話す必要があります。
結審
口頭弁論や弁論準備を経て、原告と被告のすべての主張と証拠が出揃うと、裁判官が判決を書くタイミングになります。ここで、今までの主張と証拠をまとめた「最終準備書面」を裁判所に提出する場合があります。 また、裁判官から改めて和解を勧められることがあります。和解が成立しなければ判決となるので、和解をした方がよいのか、和解をせずに判決になる方がよいのか、よく考えて判断する必要があります。
判決
判決は、裁判所が指定した期日に公開の法廷で読み上げられます。判決日に欠席しても、特に不利益はありません。後日、判決書が送付されます。 判決の内容に不服がある場合には、控訴を検討します。控訴できる期間は、判決書が送付された日の翌日から2週間です。 原告も被告もどちらも控訴せずに、控訴できる期間が経過すると、判決が確定します。離婚を認める判決の場合、判決が確定したら、離婚届を提出します。
弁護士なしで離婚裁判に勝つためには
これまで見てきたように、弁護士なしの離婚裁判で望む結果を得るためのハードルは高いと言えるでしょう。それでも本人訴訟にチャレンジしたいと希望する場合は、弁護士の法律相談を活用することと、裁判で意味のある主張・立証をすることを意識するとよいでしょう。
弁護士の法律相談を活用する
法律相談は、30分〜1時間を5000円程度で受けられます。初回の法律相談は無料という弁護士も少なくありません。 1回の相談で裁判で必要な知識をすべて得ることは難しいですが、裁判の経過に即して、都度相談に行くという方法もできます。 弁護士によっては、「本人訴訟プラン」などという名称で、依頼しなくても継続的に法律相談にのってもらえるプランを用意している場合があります。このようなプランを活用してもよいでしょう。
法的に意味のある主張をする
先述したように、離婚裁判では、法律で決められた離婚原因があると裁判官に認めてもらえなければ離婚は認められません。また、離婚と同時に慰謝料や養育費の支払い、親権なども求める場合も、適切な主張と主張を裏付ける証拠が必要になります。 裁判では、「不倫した妻が許せない」「DVを奮った夫に二度と会いたくない」など感情のままにあなたの考える配偶者の落ち度を主張しても望む通りの結果は得られません。 自分が望む結果を得るためにどのような主張が必要なのか、その主張を認めてもらうためにどんな証拠が必要なのか、配偶者はどんな反論をしてくるのか、冷静に考えて裁判に望むことを心がけましょう。
まとめ
弁護士なしで離婚裁判をすることは、弁護士費用が抑えられるメリットがある反面、離婚裁判を手続きを自分ひとりで進めていく負担が重く、望み通りの結果が得られない可能性が高まるなどデメリットが少なくありません。 経済的理由で本人訴訟を検討しているのであれば、法テラスを利用することで費用を抑えられる可能性があります。また慰謝料などで金額を獲得できれば弁護士費用を支払ったとしても、金銭的にプラスになる可能性は十分にあります。 どうしても自分一人で弁護士なしで離婚裁判を起こしたいと考えている方も、いきなり裁判を起こそうとせず、まずは弁護士に一度相談することをおすすめします。 法テラスを利用できる条件などについて詳しくは次の記事で詳しく解説しています。本人訴訟を検討している方も、ぜひ参考にしてみてください。