
DVを振るう配偶者から避難した後に生活費を確保する方法
配偶者から暴力(DV)を受けている場合、まずは別居して身の安全を確保することが最優先です。 しかし、収入や貯金が少なく、DVから避難した後の生活に経済的な不安がある人もいるでしょう。 生活費を確保するための1つの方法が、配偶者への婚姻費用請求です。子どもがいる場合は、児童扶養手当の受給を検討してもよいでしょう。また、最後の手段として、生活保護、公的な貸付金制度といった、公的なサポートを受ける方法もあります。 この記事では、DVから避難した後の生活費を確保するための手段について、詳しく解説します。
目次
DVから避難した後の生活費を確保するには
DVから避難した先での生活費を確保するための方法としては、以下のような選択肢が考えられます。
- 配偶者に婚姻費用を請求する
- 児童扶養手当を受給する
- 生活保護を受給する
- 公的な貸付金制度を利用する
それぞれ、手続きの流れなどを詳しく解説します。
配偶者に婚姻費用を請求する
婚姻費用とは、結婚生活を営む上で必要な費用のことです。配偶者と離れて暮らしていても、婚姻関係は続いています。
そのため、自分に収入がない(少ない)場合や、配偶者より収入が多くても子どもを連れて別居したような場合は、婚姻費用を支払ってもらえる可能性があります。
婚姻費用の金額の目安
婚姻費用の金額は、家庭裁判所が参考にしている算定表を目安として決まります。 子どもの年齢、人数、お互いの年収、会社員か自営業かなどで額が変わります。 一例をあげると、次のようになります。
婚姻費用が月額6~8万円(「算定表」の「第3 婚姻費用・子2人表(子0~14歳)」参照)・夫:会社員で年収600万
・妻:パートで年収150万円
・第1子:12歳
・第2子:10歳
※妻が子ども2人を引き取って育てていて、夫から妻に婚姻費用を支払うケースを想定
婚姻費用が月額4~6万円(「算定表」の「第2 婚姻費用・子1人表(子15~19歳)」参照)・夫:自営業で年収450万
・妻:会社員で年収400万
・子ども:17歳
※妻が子どもを引き取って育てていて、夫から妻に婚姻費用を支払うケースを想定
配偶者に直接請求できない場合は、調停を利用しよう
DVから避難している状況では、配偶者との話合いで生活費を請求することは難しいでしょう。そのような場合、家庭裁判所に対して「婚姻費用の分担請求調停」を申し立てることができます。
婚姻費用の支払い義務は、請求した時点から発生すると考えられています。調停を起こすならなるべく早い方がいいでしょう。
婚姻費用分担請求調停の流れ
申立て先
申立て先は、配偶者の住所地を管轄する家庭裁判所か、当事者が合意して決めた家庭裁判所です。 住所地とは、生活の本拠、つまり「主に生活をしている場所」のことです。本籍地とは関係ありません。 裁判所の管轄区域はこちらから確認できます。
申立てに必要な書類
申立てには、次の書類が必要です。
- 申立書とそのコピー1通(裁判所のホームページからダウンロード可能)
- 夫婦の戸籍謄本(全部事項証明書)
- 申立人の収入に関する資料(源泉徴収票、給与明細、確定申告書などのコピー)
- 連絡先等の届出書(裁判所のホームページからダウンロード可能)
- 進行に関する照会回答書(裁判所のホームページからダウンロード可能)
この他、追加書類の提出が必要な場合もあります。また、申立ての費用として、収入印紙1200円分と連絡用の郵便切手が必要です。
配偶者に住所を知られたくない場合の手段
提出書類には、「連絡先等の届出書」などをはじめ、申立人の現在の住所や連絡先が書かれた書類があります。 この書類を、配偶者が申請することによって、閲覧やコピーされるおそれがあります。 そのため、配偶者に連絡先や住所を知られたくない場合には、「非開示の希望に関する申出書」(裁判所のホームページからダウンロード可能)に非開示を希望する理由などの必要事項を記入して、開示されたくない書類の上にホチキスで止めて提出する必要があります。 「連絡先等の届出書」以外の書類で、配偶者に知られたくない住所などが書かれている場合(源泉徴収票に書かれた住所など)は、その部分を黒塗りしてコピーをとり、コピーの方に「非開示の希望に関する申出書」を付けて裁判所に提出します。 配偶者からの申請を許可するかどうかは、個別に裁判官が判断するので、「非開示の希望に関する申出書」を提出したとしても、閲覧・コピーが認められてしまう可能性は否定できません。 しかし、「連絡先等の届出書」に関していえば、原則として、開示することはしない取扱いになっています。 一度届け出た連絡先などに変更があった場合、この「連絡先等の届出書」の変更届欄にチェックを入れたうえで、必要事項を記入し、改めて裁判所に提出する必要があります。 その際、変更した連絡先を配偶者に知られたくない場合には、「非開示の希望に関する申出書」も一緒に提出することを忘れないようにしましょう。
「非開示の希望に関する申出書」が付けられていない書類は、非開示を希望していないものとして取り扱われます。配偶者に住所や連絡先を知られたくない場合は、必ず申出書を付けて提出しましょう。
調停で配偶者と顔を合わせたくない場合
調停で配偶者と顔を合わせたくない場合には、申立てのときに提出する「進行に関する照会回答書」に事情を記入しましょう。 この書類には、調停の進め方についてあなたの希望を書くことができます。配偶者に開示されることはありません。 書類の、「進め方等について」という欄に、「相手方と顔を合わせたくない」「裁判所に来る時間や帰る時間を相手方とずらしてほしい」という項目があるので、希望する場合はチェックを入れましょう。 配偶者から暴力を受けた時期や、暴力の内容を書く欄もあるので、併せて記入します。 こうすることで、配偶者と顔を合わせずに調停を進められるように、裁判所から配慮してもらえることがあります。 たとえば、呼出しの時間をずらしてもらったり、待合室を別館や別の階にしてもらえたりします。 具体的にどのような配慮をしてもらえるかは、申立て後に、担当書記官(調停の手続きなどについて説明する裁判所の職員)と電話で打合わせをして決めることになります。 必ずこうした配慮をしてもらえるとは限りませんが、DV被害を受けている場合であれば、配慮を受けられる可能性は高いといえるでしょう。 ただし、各裁判所の規模や設備によって対応が異なるので、絶対に顔を会わせたくない場合には、申立て先の裁判所に必ず確認するようにしましょう。
調停ではどんなことをするのか
調停は平日に行われ、1回にかかる時間は2時間ほどです。申立人と配偶者はそれぞれ別の待合室で待機し、交互に調停室と呼ばれる部屋に入ります。 実務上、調停が始まる時に、申立人と配偶者が同席のもとで、調停という手続きについて説明を受けることが原則ですが、同席を拒否することもできます。 調停室では、夫婦の資産・収入・支出、子どものために必要な費用がどのくらいあるのか、といったあらゆる事情について、調停委員による聞取りが行われます。 調停委員とは、弁護士や医師など豊富な専門知識と経験をもつ人です。当事者それぞれの事情をニュートラルな立場で聞き取り、婚姻費用の算定表を参考にしながら、双方の合意を目指して解決案やアドバイスを提示します。 調停での話合いがまとまらない場合、調停は不成立となり終了します。その後、自動的に審判という手続きに移ります。審判では、裁判官が一切の事情を考慮して、婚姻費用の金額を決定します。 調停で解決すると「調停調書」、審判で解決すると「審判書」という文書が家庭裁判所で作られます。 審判の決定に納得できない場合は、2週間以内に不服申立てをすれば、審判は確定せず、高等裁判所で判断がやり直されます。
子どもがいる場合は児童扶養手当の受給を検討してみよう
子どもがいる人の場合、児童扶養手当を受給できる場合があります。
児童扶養手当は、離婚などによって、父か母どちらか一方からの養育しか受けられない家庭(一人親家庭)の子どもの生活の安定と自立を促すための公的な給付金です。
受給できるのは、子どもが満18歳になる年度の3月31日までで、市区町村から認定を受ける必要があります。
DVで避難して、離婚する前に児童扶養手当を受給するには、裁判所から配偶者に対して「近寄ってはならない」などの命令(保護命令)が出されていることが必要です。
保護命令の内容や発令してもらうための手続き方法は、この記事の下の「次に読みたい記事」で詳しく説明しています。
手続きの流れ
児童扶養手当を受給したい場合、住んでいる地域の市区町村役場で申請手続きを行います。その後、どのように生計を立てているか、といった生活状況の調査が行われます。条件を満たしていると認められれば受給することができます。 申請に必要な書類は以下の通りです。
- 認定請求書(申請するときに記入します)
- 戸籍謄本(請求者と子ども、請求に至った事情を確認できる日から1か月以内に発行されたもの)
- 世帯全員の住民票
- 預金通帳 (請求者名義のもの)
- 健康保険証(請求者と子どものもの)
- 年金手帳
- 印鑑
この他、個々のケースに応じて追加の書類を求められる場合もあります。 手当は、4月、8月、12月の3期に、それぞれの前月までの分が指定した口座に振り込まれます。たとえば、8月分の手当は、12月に支払われます。
- 8・9・10・11月分…12月に支払い
- 12・ 1 ・ 2 ・ 3月分…4月に支払い
- 4 ・ 5 ・ 6 ・ 7月分…8月に支払い
どのくらいの金額を受給できるのか
手当を受給する人の所得に応じて、受給できる金額と、「全部支給」か「一部支給」かが決まります。受給する人の所得が一定以上ある場合は、手当を受給できない場合があります。
- 児童1人の場合…全部支給:月額42,500円、一部支給:月額42,490円~10,030円
- 児童2人目の加算額…全部支給:月額10,040円、一部支給:月額10,030円~5,020円
- 3人目以降の加算額(1人につき)…全部支給:月額6,020円、一部支給:月額6,010円~3,010円
生活保護や公的な貸付金制度を利用する方法も
婚姻費用を請求したくても、自分に暴力をふるった配偶者と関わることをおそれて、請求に向けて踏み出せない人もいるでしょう。
配偶者に婚姻費用を請求することができず、子育てや病気などの理由で就労することも難しい場合には、生活保護や公的な貸付金制度を利用することを検討してもよいでしょう。
生活保護
生活保護では、申請をした人の収入と厚生労働大臣が定める基準(最低生活費)を比べて、収入が最低生活費に満たない場合に、最低生活費から収入を引いた差額を、保護費として受給できます。 収入が最低生活費を超える場合は、生活保護を受けることはできません。 最低生活費の額は、住んでいる地域や世帯構成などによって異なります。具体的な額を知りたい場合は、 住んでいる地域を管轄する福祉事務所の生活保護担当窓口に相談してみましょう。
仕事に就いている人でも、収入や資産が最低生活費に満たない場合には、生活保護を受けることができます。
手続きの流れ
生活保護を利用したい場合、住んでいる地域を管轄する福祉事務所の生活保護担当窓口に申請をします。福祉事務所がない地域に住んでいる場合は、町村役場でも申請ができます。 申請をするときに、書類などを用意する必要はありません。ただし、生活保護の申請をした後の調査をするときに、世帯の収入・資産などの状況がわかる資料 (通帳のコピーや給与明細など)の提出を求められる場合があります。 申請をした日から、原則として14日以内(調査に時間がかかる場合は最長30日)に、生活保護を受給できるか、できないかの結果が出ます。
どのくらいの金額を受給できるのか
たとえば、東京都内に住んでいる母子世帯(母親30歳、子ども4歳と2歳)の場合、食費や光熱費、洋服代などとして188,140円を受給できます。必要に応じて、アパートなどの家賃や医療費を支払うためのお金も受給できる場合があります。 ただし、実際にいくら受給できるかは、地域ごとの最低生活費の金額や、世帯の収入などによって変わります。必ずしも上記の例と同じ金額を受給できるとは限らないので、注意しましょう。
公的な貸付金制度(生活福祉資金貸付金制度)
生活費を確保するために、公的な貸付金制度を利用して、お金を借りることも1つの方法です。 生活福祉資金貸付金制度は、一定の条件に当てはまる場合に、生活費などを一定の限度額内で借りることができる制度です。低所得世帯などが対象となっています。 生活を立て直すまでに必要な生活費のほか、敷金・礼金など家を借りるために必要なお金、子どもが高校や大学などに入学するときに必要なお金などを借りることができます。 利用したい場合、住んでいる地域の社会福祉協議会に対して手続きを行います。 借入申込書などの必要書類(どのような資金が必要かによって異なります)を提出したのちに審査が行われ、貸付対象と認められれば、お金を借りることができます。