有責配偶者からの離婚請求が認められるケースを裁判例をもとに解説

離婚したい理由は人によって様々ですが、「不倫相手と結ばれたい」という理由の人もいるでしょう。 配偶者に離婚を切り出したけれど拒否された場合、離婚を求めて調停や裁判を起こすことになります。不倫していた配偶者は「有責配偶者」といって、離婚を請求しても、裁判で離婚が認めてもらえない可能性があります。 有責配偶者はどんな場合に離婚を認めてもらえるのか、裁判例をもとに詳しく解説します。

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目次

  1. 不倫した配偶者からの離婚請求が認められるまでの流れ
  2. 不倫をした側からの離婚請求が裁判で認められたケース
  3. どのくらい別居すれば離婚が認められるのか
    1. 別居期間6年で有責配偶者からの離婚請求が認められた事例(東京高平成14年6月26日判決)
    2. 別居期間20年で有責配偶者からの離婚請求が認められなかった事例(東京高平成9年2月20日判決)
  4. 未成熟の子の有無
    1. 夫婦間に未成熟子がいても有責配偶者からの離婚請求が認められた事例(最判平成6年2月8日判決)
    2. 長男は成人しているが未成熟子と同視すべきとして有責配偶者からの離婚請求を認めなかった事例(東京高平成19年2月27日判決)
  5. 離婚後、相手方配偶者が過酷な状況に置かれるかどうか
    1. 過酷状態が認められるとして、有責配偶者からの離婚請求が認められなかった事例(福岡高裁平成16年8月26日判決)
    2. 過酷状態が認められないとして、有責配偶者からの離婚請求が認められた事例(東京高平成元年2月27日判決)
  6. 悩んだら弁護士に相談を

不倫した配偶者からの離婚請求が認められるまでの流れ

alt 配偶者との話合いで合意できれば、どのような理由でも離婚することはできます。「他に好きな人ができてその人と一緒になりたい」という理由でも、合意できれば離婚できます。 配偶者との話合いで離婚に合意できない場合、家庭裁判所に離婚調停を申し立てることになります。 調停とは、裁判所で裁判官などの第三者をまじえて話合いを行う手続きのことです。ここでも、夫婦で合意できれば離婚が成立します。 調停でも離婚の合意ができない場合には、裁判を起こします。裁判で離婚が認められれば、配偶者の合意がなくても離婚できます。 裁判で離婚を認めてもらうためには、法律で定められた離婚理由(法定離婚事由)が必要になります。 不倫(不貞行為)は、法定離婚事由のひとつにあたります。自分が法律で定められた離婚原因をつくった配偶者のことを「有責配偶者」といいます。

不倫をした側からの離婚請求が裁判で認められたケース

alt 以前は、裁判などで有責配偶者が「離婚したい」と請求しても認められないと考えられてきました。 自分で離婚原因を作っておきながら離婚を求めることは、社会常識的に身勝手だと考えられていたからです。 この原則を貫くと、別居期間が長期間にわたり、また、夫婦が協力して養育すべき子どももいないような場合でも、有責配偶者からの離婚請求は認められないことになります。 しかし、こうしたケースでも離婚を認めず夫婦関係を続けさせることに、どれだけ意味があるかは疑問に思う方もいるでしょう。 そこで、最高裁は、次の要件を満たせば、有責配偶者からの離婚請求も認められる場合があるという判断を示しました(昭和62年9月2日判決)。

  1. 別居期間が相当の長期間に及んでいる
  2. 夫婦間に未成熟の子がいない
  3. 離婚により相手方配偶者が、精神的・社会的・経済的に過酷な状況におかれるような事情がない

どのくらい別居すれば離婚が認められるのか

有責配偶者の離婚請求が認められるための別居期間に明確な基準はなく、裁判例でも判断は様々です。 具体的なケースを紹介します。

別居期間6年で有責配偶者からの離婚請求が認められた事例(東京高平成14年6月26日判決)

  • 別居期間は6年
  • 同居期間は22年
  • 夫51歳、妻50歳、子ども2人(社会人と大学4年生)

このケースでは、不貞行為をした夫が妻に対して離婚を求めました。

  • 夫婦はもともと会話が少なく、意思の疎通が不十分だった
  • 夫の不貞行為以前から、妻に外国人男性との不倫疑惑があった
  • 夫の不貞行為をきっかけに別居に至り、別居期間は6年を超えている
  • 妻は語学能力を活かして仕事をしている

このような事実を認めたうえで、裁判所は、夫婦関係が破綻していることは明らかであり、その原因は夫だけにあるとはいえないと判断しました。 また、2人の子どもについても、未成熟子とはいえないと判断し、妻は語学能力を活かせる仕事に就いているため、離婚を認めても経済的に過酷な状況に置かれないとしました。 結論として、夫からの離婚請求が認められました。

別居期間20年で有責配偶者からの離婚請求が認められなかった事例(東京高平成9年2月20日判決)

  • 別居期間は20年(夫は不倫相手と同棲)
  • 婚姻期間は27年
  • 夫77歳、妻74歳

このケースでは、不貞行為をした夫が妻に対して離婚を求めました。

  • 夫と不倫相手の同棲期間は20年
  • 夫は別居中も、月に何度も上京して妻がいる家に帰り、食事や身の回りの世話を受けていた
  • 夫は別居中も、妻に贈り物をしたり小遣いを与えたりするなど、ねぎらいの行動を取っていた
  • 夫が妻に対して離婚調停を申し立てた後も、夫婦間の交流は途絶えていない

このような事実を認定したうえで、裁判所は、不倫相手との同棲期間は「20年という長きにわたっている」としながら、その他の事実も考慮すると、夫婦関係はいまだ形骸化しているとはいえないとして、夫からの離婚請求を認めませんでした。

未成熟の子の有無

未成熟の子とは、親から独立し、自分で収入を得て生活することができない子どものことです。 未成熟の子について、明確な基準はありません。介護が必要なケースで、成人していても未成熟の子と判断した裁判例もあります。

夫婦間に未成熟子がいても有責配偶者からの離婚請求が認められた事例(最判平成6年2月8日判決)

  • 別居期間は15年
  • 婚姻期間は13年11か月
  • 夫56歳、妻54歳、子ども4人(3人は成人、1人は高校生)

このケースでは、不貞行為をした夫が妻に対して離婚を求めました。裁判所は主に次のような事実を認定しました。

  • 夫は会社の経営に行き詰まって家出をし、その後、不倫相手と知り合い同棲を始めた
  • 妻は夫が家出をした後、生活保護を受ける状態になった
  • 4人の子どものうち、1人は高校2年生だが、3歳から妻のもとで育てられ、まもなく高校を卒業する
  • 夫は別居中も妻に毎月15万円の送金をしている
  • 夫は妻に対して、離婚にあたって700万円を支払うと申し出ている

裁判所は、高校生の子どもについて、未成熟の子にあたると判断しました。しかし、夫が生活費の送金を続けていたことなどの事情を考慮して、未成熟の子がいても、離婚を認めない事情にはならないと判断しました。 結論として裁判所は、夫からの離婚請求を認めました。

長男は成人しているが未成熟子と同視すべきとして有責配偶者からの離婚請求を認めなかった事例(東京高平成19年2月27日判決)

  • 別居期間は14年
  • 婚姻期間は9年
  • 夫54歳、妻54歳、子ども1人(成人)

このケースでは、不貞行為をした夫が妻に対して離婚を求めました。

  • 夫婦の別居期間は9年を超えている
  • 長男は成人に達しているが、着替えや食事、入浴などの日常生活全般にわたり介護が必要
  • 妻は長男の日々の介護を行なっている

このような事実を認めたうえで、裁判所は、長男は実質的には未成熟子と同視するべきであり、妻は長男の介護を行うため、働いて収入を得ることは難しいと判断しました。 結論として、裁判所は、夫婦が離婚した場合、妻は精神的・経済的に過酷な状況に置かれると判断し、夫からの離婚請求を認めませんでした。

離婚後、相手方配偶者が過酷な状況に置かれるかどうか

裁判例では、主に、経済的に過酷な状態になるかどうかが重視される傾向があります。具体的にみていきましょう。

過酷状態が認められるとして、有責配偶者からの離婚請求が認められなかった事例(福岡高裁平成16年8月26日判決)

  • 別居期間は21年
  • 婚姻期間は9年
  • 夫56歳、妻56歳、子ども1人(成人)

このケースでは、不貞行為をした夫が妻に対して離婚を求めました。

  • 夫は不倫相手とその子どもの生活を援助するために、月15万円を送金している
  • 妻の月収(パート)は約7万円
  • 妻はパート収入と、夫から支払われる月額20万円(毎年7月と12月にはそれぞれ30万円を加算)によって生活をしている
  • 夫は妻に対して、離婚するときに800万円を支払うと提案した

このような事実を認めたうえで、裁判所は、妻は夫から支払われるお金によって、ようやく生活できていると判断しました。 また、妻はその職歴や年齢から考えると、経済的に自立できるだけの仕事につくことは難しく、離婚によって経済的に困窮する状態に追い込まれることが予測できるとしました。離婚に伴って夫が支払うと提案した金額についても、十分ではないと判断しました。 これらのことから、裁判所は、夫からの離婚請求を認めませんでした。

過酷状態が認められないとして、有責配偶者からの離婚請求が認められた事例(東京高平成元年2月27日判決)

  • 別居期間は22年
  • 婚姻期間は8年
  • 夫60歳、妻58歳

このケースでは、不貞行為をした夫が妻に対して離婚を求めました。

  • 妻は甲状腺腫瘤の治療中。自己所有のマンションで生活している
  • 妻は資産として、複数の不動産を取得し、複数の生命保険の受取人になっている
  • 夫は妻に対して、一時期を除いて生活費を送金しており、今後も一生の間、月20万円を送金する意向を示している
  • 夫は離婚にあたって、妻に4000万円を支払うと提案している

このような事実を認めたうえで、裁判所は、妻が夫から生活費の援助を受け続けることができれば、夫と離婚しても生活自体にはさしたる変化をきたさないと判断しました。 離婚によって、妻が精神的・社会的・経済的に過酷な状態に置かれるとはいえないことから、夫からの離婚請求を認めました。

悩んだら弁護士に相談を

alt このように、有責配偶者からの離婚請求が認められる要件は最高裁によって示されていますが、具体的にどのような場合に認められるかは、さまざまな判断が出されており、自分があてはまるのかどうか、判断に迷う人もいるでしょう。 弁護士に相談することによって、離婚請求が認められるかどうか判断できる可能性があります。また、裁判までもつれずに、協議や調停などの手続きで解決できる可能性もあります。 判断に悩んだ方は、まずは弁護士に相談することをおすすめします。弁護士から受けられるサポートや弁護士費用などについて、詳しくは以下の記事で解説しています。

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