退職

弁護士監修記事 2019年04月26日

退職時に研修費用や留学費用を返すよう求められたら支払う必要はあるのか

会社によっては、就業規則で「研修を実施した後、半年以内に退職する場合は、研修費用を全額返還すること」といったルールを設けているところがあります。従業員に誓約書を書かせて合意させる場合もあります。 このようなルールがある場合に、退職時に会社から研修費用の返還を求められたら、支払う必要はあるのでしょうか。この記事で詳しく解説します。

目次

  1. 退職する時に研修費用の返還を求められたら支払わなければならないのか
    1. 研修費用の返還は「違約金」なのか
  2. 「研修費用を返す」という就業規則や誓約書が有効かを判断するポイント
    1. 研修などを受けるか受けないかを従業員が自由に決められるか
    2. 研修で学ぶことが業務に関係するか
    3. 研修などの実施後どのくらい勤務すれば費用の返還が免除されるか
  3. 裁判で争われたケース
    1. 会社からの返還請求が認められたケース
    2. 会社からの返還請求が認められなかったケース
  4. 判断に迷ったら弁護士に相談を

退職する時に研修費用の返還を求められたら支払わなければならないのか

会社に入社すると、勉強会やセミナーなど、職種に応じて一定期間研修を受けることがあります。海外の研修への参加や留学ができる会社もあるでしょう。 会社によっては、研修や留学が終わってから間を置かずに退職すると、研修などにかかった費用の返還を求められることがあります。 たとえば、会社の就業規則に、「研修を実施した後、6か月以内に退職する場合は、研修費用を返還すること」というルールが定められていたり、入社時に従業員に誓約書を提出させているような場合です。 このような場合に、就業規則や誓約書を根拠として「研修費用を返せ」と会社から要求されたら、従わなければならないのでしょうか。

研修費用の返還は「違約金」なのか

労働基準法16条では、使用者(会社など)が労働者に対して、違約金を支払わせることや、損害賠償額をあらかじめ決めておくことを禁止しています(賠償予定の禁止)。 たとえば、「入社してから1年以内に退職する場合は違約金として10万円を支払う」といったルールを定めた就業規則や誓約書は、賠償予定の禁止に反するため、無効です。会社から請求されても10万円を支払う必要はありません。 こうした就業規則等を認めてしまうと、違約金という制裁をおそれて、従業員が会社をやめたいのに、会社にしばりつけることになるからです。このように、従業員の退職の自由を侵害するため、賠償予定の禁止ルールが設けられています。 そのため、研修費用などの返還を定めた就業規則や誓約書も、実質的に雇用の継続を強要することが目的であるような場合は、従業員の退職の自由を侵害するので無効になります。その場合、研修費用を返還する必要はありません。

「研修費用を返す」という就業規則や誓約書が有効かを判断するポイント

では、研修費用の返還を定めた就業規則が従業員の退職の自由を侵害するかどうかは、どのように判断すればよいのでしょうか。 裁判例では、主に、以下のような点に着目して研修費用返還ルールの有効性を判断しています。

研修などを受けるか受けないかを従業員が自由に決められるか

研修などを受けるかどうかを従業員自身が自由に決められず、研修を受けることが義務付けられていたような場合、費用返還のルールは無効と判断される可能性があります。 研修が義務付けられるなら、それは業務との関係が深いということなので、本来会社が負担する費用だと考えられるからです。 一方、たとえば社外の勉強会の費用を負担する福利厚生としての制度である場合、利用するかどうかは従業員自身が自由に決めることができるので、費用返還のルールが有効と判断される可能性があります。

研修で学ぶことが業務に関係するか

研修で学ぶことが、業務と関係が深いなら、やはりそれは本来会社が負担する費用と考えられるので、費用返還のルールは無効と判断される傾向があります。

研修などの実施後どのくらい勤務すれば費用の返還が免除されるか

返還が免除されるまでの期間が長過ぎるような場合は、費用返還のルールが無効になる可能性があります。

裁判で争われたケース

会社からの返還請求が認められたケース

このケースで、従業員(被告)は、退職時に、留学終了後5年以内に自己都合退職する場合は留学費用を全額返還するという誓約書を根拠に、会社から留学費用を返還するよう要求されました。裁判では、留学が業務の一環といえるかどうかに焦点が当たりました。

  • 留学に参加するかしないかは、被告が自由に決めることができた
  • 留学中の受講内容や学位の取得は、被告の担当業務に直接役立つわけではなかった
  • 被告は留学中、ほぼ自由に行動できた
  • 留学によって学位を取得することで、被告個人としてもメリットを得られた

裁判所は、こうした事実をもとに、留学することは業務ではなかったと評価して、会社からの返還請求を認めました(東京地裁平成15年12月24日判決)。

会社からの返還請求が認められなかったケース

このケースでは、就業規則で、「海外留学終了後5年以内に自己都合退職した場合は留学費用を全額返還する」というルールが定められていました。 従業員(被告)は、退職時に、就業規則に基づいて、会社(原告)から、留学費用の返還を請求されました。

  • 被告は、業務命令として海外留学を命じられた
  • 被告は留学中、原告の業務に関連する学科を専攻していた
  • 留学中の給与などの待遇は、会社に勤務している場合に準じて定められていた

裁判所は、こうした事実などから、留学することは業務の一環だったと評価して、会社からの返還請求を認めませんでした(東京地裁平成10年9月25日判決)。

判断に迷ったら弁護士に相談を

これまで説明してきたポイントは、法律で定められた要件ではなく、裁判例の積重ねでできあがってきた判断基準です。 また、最高裁による判断もまだ示されていません(最高裁の判断は先例として、そのほかの裁判でも判断の指針になります)。 裁判所によっても温度差があり、「こうした事情があれば必ず有効(無効)になる」と言い切ることができないのが現状です。 自分だけで判断することが不安な場合は、弁護士など専門家への相談も検討してみましょう。

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