本人訴訟とは?
「本人訴訟」とは、弁護士に依頼をせず、自分自身で民事裁判の手続きを進めることです。日本の民事裁判では、誰でも自分一人で裁判を行う権利が認められており、特別な制限もありません。
実際、やり取りする金額が少ない裁判(少額訴訟)や簡易裁判所では、自分一人で対応している人もいます。裁判所の窓口へ行けば、手続きの流れを教えてもらえますし、書き込むだけで完成する書類のひな形も用意されています。
ただし、裁判所は中立の立場であり、どのような主張をすべきか、どの証拠を出せば有利になるかといった法律相談には応じません。裁判所に提出する書類(訴状)の作成から、証拠集め、法廷での意見発表まで、すべてを自分で行わなければなりません。
法律の知識や裁判の経験がない中でこれらをやり遂げるのは、想像以上に大きな負担になる可能性があることも、心に留めておく必要があります。
本人訴訟の手続きと流れ
自分で裁判を行う場合、まずは「訴状(そじょう)」という書類を作って、担当の裁判所に提出することから始まります。この書類には、相手に何を求めるのか、なぜそう言えるのかという理由を書き、証拠となる資料も添えます。
訴状が受け付けられると、裁判所から被告(相手)に訴状等が送達され、裁判の日(第1回口頭弁論期日)が指定されます。訴えられた被告は、期日までに答弁書を提出する必要があります。訴えを提起した原告は、被告の答弁書や反論を踏まえて、必要に応じて追加の主張や証拠を準備します。
裁判当日は、裁判官の前で自分の意見を伝えたり、証拠を出したりします。内容によっては、関係者や自分自身への質問(尋問)が行われることもあります。その後、何度か裁判所に通い、お互いが納得して解決(和解)するか、裁判官による最終的な判断(判決)を待つことになります。
これらすべてのステップを自分だけでこなすには、法律のルールを知っていることはもちろん、専門的な書類を作る力や、証拠を整理して説得力のある説明をするスキルが必要です。また、裁判は平日の昼間に行われるため、仕事や家庭の予定をやりくりして裁判所へ通う時間を作るのも、大きな負担になることがあります。
本人訴訟のメリット
本人訴訟のいちばん大きなメリットは、弁護士費用がかからないことです。着手金や成功報酬を支払う必要がないため、金銭的な負担をぐっと抑えることができます。
また、自分の言葉で直接思いを伝えられることに良さを感じる人もいます。弁護士を通さず、自分自身の口で裁判官に事実を説明できるため、納得感を持って進められるという側面もあります。
本人訴訟のデメリット
一方で、注意すべきデメリットもたくさんあります。
本人訴訟では、単に裁判所に行けば良いというものではありません。訴状や準備書面など、裁判所に提出する書面を自分で作成し、必要な証拠を整理した上で、期日に裁判所へ出頭する必要があります。
さらに、期日では、裁判官から事実関係や主張の内容について確認を受けたり、相手方の主張に対してその場で対応を求められたりすることもあります。法律や裁判手続に慣れていない方にとって、これらをすべて一人で行うことは、時間的にも精神的にも大きな負担となります。
書類作りや証拠の整理、裁判所への移動などには膨大な時間とエネルギーが必要です。平日の昼間に仕事を休んだり、家事や育児の時間を削ったりしなければならず、精神的にもかなり疲れを感じてしまうでしょう。
また、法律の専門知識がないと、自分の正しさを証明するための「法律的な組み立て」がうまくできず、苦戦することが多いです。どの証拠が重要なのかを正しく判断できず、大切な証拠を出し忘れたり、逆に関係のない書類を出してしまったりするリスクもあります。
そして、最も気をつけたいのが「不利な結果を招く場合もある」という点です。主張の内容に不備があったり、手続きを間違えたりすることで、本来なら勝てるはずのケースでも負けてしまう可能性があります。特に相手に弁護士がついている場合は、知識や経験の差がはっきりと出てしまい、思うような結果を得るのが非常に難しくなります。
自分で裁判できるケースと弁護士に依頼した方が良いケース
法的トラブルの中には、理論上は自分で対応できるケースもあれば、弁護士に依頼した方が良いケースもあります。ただし、「できる」ことと「うまくいく」ことは別問題です。
ここでは、どのようなトラブルが自分で対応可能か、また弁護士に依頼した方が良いのはどのようなケースかを見ていきましょう。
自分で裁判・交渉ができるケース
裁判や交渉は、すべて自分一人で行うことができます。たとえば、ちょっとしたお金の貸し借りや、ご近所との小さなトラブル、消費者トラブルなどは、必ずしも専門家に頼まなければいけないわけではありません。
特に、やり取りする金額が少なく、何が問題なのかがはっきりしている場合、また相手に弁護士がついていない場合などは、自分で裁判を進められる可能性があります。裁判所には手続きを教えてくれる窓口があり、書き込むだけで使える書類も用意されているので、まずは自分で動いてみるという選択肢もあります。
例えば以下のようなケースは、自分で対応できる可能性があります。
- 数万円から数十万円くらいの、少額の金銭トラブル
- 争いごとの内容がシンプルで、事実関係がはっきりしている場合
- 相手も弁護士を立てていない場合
ただし、「自分一人で手続きができる」からといって、「自分に有利な結果が出る」とは限りません。法律の知識や経験がないまま進めてしまうと、本来もらえるはずのお金がもらえなくなったり、思わぬ損をしたりするリスクがあることも、あわせて知っておくことが大切です。
弁護士に依頼した方がいいケース
一方で、専門家である弁護士に任せたほうが安心なケースもたくさんあります。特に、法律の解釈が難しい問題や、やり取りする金額が大きい場合、お互いの感情が激しくぶつかっているときなどは、弁護士の知識と経験が大きな助けになります。
例えば以下のようなケースは、弁護士に依頼するのがおすすめです。
- 交通事故の慰謝料や損害賠償(特にケガの後遺症がある場合)
- 離婚や遺産相続の争い
- 仕事の悩み(不当解雇、残業代の未払いなど)
- 不動産のトラブル(土地の境界線や、アパートの立ち退きなど)
- 会社同士の契約トラブル
- 相手にすでに弁護士がついている場合
- 請求する金額が高額な場合(数百万円以上など)
- 法律の判断が難しく、内容が複雑な場合
- 感情的なもつれが激しい場合
法律のルールや証拠の使い方が難しいケースでは、どのように自分の正しさを伝えるか、どの証拠を出すかによって、結果がガラリと変わってしまいます。
弁護士に依頼することで、法的に整理された主張や適切な証拠提出が可能となり、結果として有利な展開を導き、不利な解決を避けやすくなるメリットがあります(ただし、結果が有利になるか不利になるかは、事案の内容や証拠関係によっても左右されます)。
弁護士はプロの視点で説得力のある主張を組み立て、適切な証拠を提出します。たとえば交通事故の場合、保険会社が提示する示談金は本来もらえる額より低いことが一般的です。そこで弁護士が代わりに交渉することで、金額が数十万円から数百万円アップするケースは少なくありません。
また、もし相手に弁護士がついているなら、あなたも弁護士に依頼することを強くおすすめします。専門家を相手に一人で立ち向かうと、知識や交渉力の差で不利な条件を押し付けられてしまう危険があるからです。
さらに、トラブルは心にも大きな負担をかけます。特に離婚や相続など、身近な人との争いでは冷静でいられなくなることも多いでしょう。
そんなとき、弁護士があなたの代わりに客観的な視点で状況を整理してくれるので、精神的な余裕を取り戻し、もっとも良い解決策を見つけることができます。
弁護士に依頼すれば、訴状や準備書面などの裁判書類の作成、証拠の整理、裁判所とのやり取り、期日対応などを任せることができます。
特に、どの事実を主張すべきか、どの証拠を提出すべきか、裁判官にどのように説明すべきかは、裁判の結果に大きく影響します。
弁護士が関与することで、法的に整理された主張を行いやすくなり、本人の時間的・精神的負担を大きく軽減できる点は、弁護士に依頼する大きなメリットです。
費用ゼロ=得ではない|弁護士依頼による「費用以上の価値」
「弁護士費用がもったいない」と感じる方もいるでしょう。しかし、弁護士費用を単なる「支出」と捉えるのではなく、「労力の負担の軽減、時間の節約、精神的安定」、さらに、「損を防ぐための投資」と考えることが重要です。
たとえば、100万円の損害賠償を請求するケースで、弁護士費用が30万円かかるとします。一見、30万円の支出は大きく感じるかもしれません。しかし、弁護士に依頼することで100万円の全額を回収できる一方、本人訴訟で50万円しか回収できなければ、実質的には弁護士に依頼する方が20万円の得になります。
さらに、弁護士に依頼することで、手続きミスによる請求棄却や、不利な和解を避けることができます。これらのリスクを回避できること自体が、大きな価値です。
また、何よりも労力の負担の軽減、時間の節約、精神的な安心感も重要な価値です。法律の専門家に任せることで、「これで大丈夫だろうか」という不安から解放され、日常生活に集中できます。この安心感は、金銭では測れない価値があります。
このように、弁護士費用は「支出」ではなく、「労力の負担軽減、時間の節約、精神的安定」、さらに「より良い結果を得るための投資」であり、「損失を防ぐための保険」と考えるべきです。目先のコストだけでなく、最終的に得られるリターンを総合的に判断することが大切です。
自分でやるか弁護士に任せるかを判断する方法
法的トラブルに直面したとき、「費用を抑えて解決したい」と思うのは自然なことです。しかし、目先の節約だけで判断すると、結果的に大きな損失を被る可能性があります。
重要なのは、「最終的に、総合的に、最大のリターンを得られる手段は何か」を冷静に考えることです。弁護士費用という目に見えるコストだけでなく、時間・労力・精神的負担・結果の確実性といった目に見えにくい要素も含めて、トータルで判断する必要があります。
弁護士に依頼することで、有利な結果をもたらすことができる場合も多くあります。また、弁護士費用を上回る金銭的なメリットだけでなく、精神的な安心感や時間の節約という形でも現れます。
もちろん、すべてのケースで弁護士に依頼する必要があるわけではありません。しかし、「自分でやるべきか、弁護士に任せるべきか」を判断する際には、まず専門家の意見を聞くことが賢明です。
無料相談で弁護士に依頼すべきかアドバイスをもらう
法律事務所、自治体、法テラスなどでは、無料相談を実施している場合があります。「自力で解決したい」と考えている段階であっても、まず弁護士の無料相談を利用することをおすすめします。
無料相談では、あなたのケースが本人訴訟で対応できるのか、それとも弁護士に依頼すべきかを、専門家の視点でアドバイスしてもらえます。
また、弁護士に相談したからといって、必ず依頼しなければならないわけではありません。相談だけで終わっても問題ありませんし、話を聞いた上で「やはり自分でやってみよう」と判断することもできます。
無料相談では以下のようなことがわかります。
- 自分の問題がどのくらい難しいのか、勝てる見込みはあるか
- 自分だけで進めた場合に、どんなリスクがあるか
- 弁護士に頼んだ場合の費用と、それによって得られるメリット
- いちばんスムーズな解決方法のアドバイス
- 解決までにかかる期間や手続きの流れ
- どんな証拠や書類が必要か
無料相談を賢く使うことで、「自分のケースはどの程度の難易度か」「本人訴訟で対応した場合のリスクは何か」「弁護士に依頼した場合の費用と得られるメリットは何か」といった判断材料を得ることができます。
これらの情報を得た上で、冷静に判断することが、最終的に損を防ぐための最善の方法です。
弁護士ドットコムで「最適な弁護士」を見つけるには?
弁護士ドットコムの「弁護士検索」なら、あなたの悩みや希望条件に合った弁護士を3ステップでスムーズに探せます。
分野ごとの専門性や相談対応のスタイル、料金の目安なども比較できるため、はじめての方でも安心して選べます。
ステップ1 地域・分野を絞り込んで検索
まずは、相談したい分野と地域を指定します。
希望する「地域」と、相談したい「ジャンル(離婚・相続など)」を指定するだけ。地元の事情にも詳しく、そのトラブル解決に強い弁護士が一覧で表示されます。
ステップ2 解決事例・人柄・利用者の声を確認
弁護士の「解決事例」や「利用者の口コミ」を見てみましょう。過去にどんな問題を解決したか、話しやすい人柄かなどを事前に確認でき、ミスマッチを防げます。
ステップ3 無料相談の申し込み・一括見積もりを活用
気になる弁護士がいれば、Webや電話ですぐに相談予約が可能です。
費用が心配な場合は「一括見積もり」がおすすめ。複数の提案を比較して、納得のいく弁護士を選べます。
無料相談申し込み後の流れ
相談当日に依頼するかどうかを決める必要はありません。弁護士のアドバイスや提示された費用などを踏まえてゆっくり検討できます。安心してご相談ください。
よくある質問
裁判に弁護士は必須ですか?
いいえ、必須ではありません。民事訴訟では誰でも自分で裁判手続を行えます。ただし、法律知識や経験がないと不利な結果になるリスクが高まります。特に相手方が弁護士を立てている場合や争点が複雑な場合は、弁護士に依頼することを強く推奨します。
お金がなくても弁護士に依頼できる方法はありますか?
法テラスの民事法律扶助制度を利用すれば、収入や資産が一定額以下の方は弁護士費用の立替えを受けられます。
審査に通れば月ごとの分割払いで返済できます。原則として月額5,000円、7,000円、10,000円から選択する形式で、具体的な金額は、援助が終わった日から原則3年以内に完済となるように法テラスが決めます。生活保護受給者は返済が免除されることもあります。
法テラスの利用条件を教えてください
収入と資産が一定基準以下であることが条件です。単身者の場合、月収が20万200円以下(東京・大阪などの地域に住んでいる場合)、資産が180万円以下である必要があります。
また、報復・宣伝・権利濫用の目的ではないことと、勝訴の見込みがないとは言えないことも条件です。詳細は法テラス窓口で確認できます。
自分で交渉するより、弁護士に依頼した方が有利になりますか?
弁護士に依頼した方が有利な結果を得られることも多くありますが、結果は、事案や証拠の有無等によって異なります。
弁護士は適切な法的主張を組み立て、有利な証拠を効果的に提出します。交通事故の損害賠償や離婚の財産分与など金額が大きいケースでは、数十万円から数百万円の増額が実現することもあります。
弁護士に相談すると、すぐに依頼しなければいけないですか?
いいえ、相談だけで終わっても問題ありません。多くの弁護士は無料相談を実施しており、相談の結果「自分で対応できそうだ」と判断すれば依頼しなくても構いません。まずは気軽に相談して専門家の意見を聞き、依頼するかを冷静に判断することが大切です。
入江貴之弁護士
入江・置田法律事務所
京都市生まれ。立命館大学経済学部を卒業後、信用金庫での勤務を経て同大学法科大学院を修了。2009年に弁護士登録し、2015年に現在の事務所を開設。交通事故や離婚、相続、刑事事件など幅広い事案に対応する。「依頼者第一」をモットーに掲げ、どんな悩みにも分かりやすく丁寧な説明とアドバイスを行うことを心がけている。当日・土日祝・夜間の相談にも応じ、初回相談は30分を超えても無料。
登録番号41479(大阪弁護士会)