
弁護士と司法書士、税理士等の業務の違い
司法書士、行政書士、税理士は、弁護士と一部同じ業務が行えます。法律トラブルが起きた場合に専門家に依頼するとなると、まず弁護士を思い浮かべることが多いでしょう。相談・依頼内容によっては、他の専門家に相談・依頼できる場合もあります。
以下ではそれぞれの士業の業務内容の違いをもとに、どの専門家に依頼するべきなのか、専門家の選び方について紹介します。
目次
各専門家の役割
弁護士、司法書士、行政書士、税理士。それぞれ聞いたことはあるかもしれませんが、どのような仕事の違いがあるのでしょうか?法律トラブルを抱えたときに依頼することを想定して以下にまとめました。

※1.認定司法書士に限ります。また、取り扱える額に条件があります。詳しくは後述の説明をご覧ください。
※2.特定行政書士に限ります。詳しくは後述の説明をご覧ください。
大枠を把握したところで、詳しくみていきましょう。
司法書士の仕事
司法書士は、主に登記手続き(不動産登記と法人登記)の代理業務を行っています。登記手続きだけを行っている弁護士は少ないため、登記に関しては司法書士のほうが専門性が高いといえるでしょう。
他にも裁判所に提出する公的な書類作成や、成年後見に関する手続きを行っています。また、認定司法書士に限り、目的の価額が140万円以下であれば簡易裁判所での手続きの代理が可能です。
法務大臣の認定を受けた「認定司法書士」とは
認定司法書士とは、特別研修を受けたのちに認定試験に合格し、「必要な能力がある」と法務大臣に認められた司法書士のことです。具体的には、簡易裁判所管轄の民事事件で訴訟、民事調停、裁判外和解の代理人を弁護士と同様に務めることができます。
ただし認定司法書士が代理できるのは、目的の価額が140万円以下のケースのみです。依頼したあとで140万円を超えてしまった場合は、認定司法書士が代理できなくなります。例えば過払い金請求などで、返ってくる金額が140万円を超えた場合などが該当します。
依頼したい内容によっては、認定司法書士に依頼できるのか否か、判断するのが難しい場合もあるでしょう。訴訟などで争いとなってしまった場合も含めて、新たに弁護士への依頼が必要となり、更に手間と費用がかかるケースもありますので注意してください。
行政書士の仕事
行政書士は、主に申立書や契約書などの公式書類の作成・代理業務をしています。官公署に提出する書類の場合は、許可申請や届け出まで行うことができます。書類作成に関する業務のみを依頼したい場合は、行政書士が適切な場合もあるでしょう。
ただし弁護士とは異なり紛争に発展した場合は代理人になれないため、行政書士では取り扱えなくなっていまいます。紛争の可能性が拭えない場合や、見通しが立たない場合は弁護士と比較検討したほうがよいでしょう。
不服申立ての代理ができる「特定行政書士」とは
2014年の法改正で、行政書士の一部は、公式書類の作成・代理業務のほかに、行政の処分に対して不服を申し立てる手続きを代理できるようになりました。
行政機関に対する不服申立ては、たとえば、「飲食店を開業するために営業許可を行政機関に申請したら不許可処分を受けた」というような場合に、行政の判断を見直してもらうためにおこないます。
不服申立ての代理業務をおこなうことができるのは、日本行政書士会連合会が実施する「特定行政書士法定研修」という研修を修了し、試験に合格した行政書士に限られます(特定行政書士)。
税理士の仕事
税理士は、主に税務に関する代理業務を行っています。具体的には税務書類の作成や、税務相談、会計業務や地方公共団体の外部監査などです。弁護士も同様の業務が行えます。
相続税の申告に関しては、税理士のほうが専門性が高いので税理士にお願いしたほうがよいです。相続税の申告書が必要になるか否かを見極めたうえで依頼しましょう。
弁護士は何でもできるのか?
弁護士資格があれば、基本的には資格として司法書士、行政書士、税理士の仕事ができることとなっています。資格としては「何でもできる」存在といえるでしょう。厳密には、税理士業務をする場合は税理士登録または国税局長への通知が必要など、諸条件があります。
弁護士の主な仕事内容については、「弁護士とは?仕事内容と依頼するメリット」をご覧ください。
他の士業のほうが適切な場合もある
弁護士が「何でもできる」存在とはいえ、依頼したい内容によっては他の専門家のほうが適切な場合もあります。例えば資料作成のみを依頼したい場合は、司法書士や行政書士に依頼できますし、費用も比較的おさえられるでしょう。
一般的には同じ業務を依頼する場合(全者が取り扱える書類作成など)、弁護士、司法書士、行政書士の順で費用が高いとされています。
ただし、紛争が関わる事案を取り扱えるのは弁護士のみ
司法書士、行政書士、税理士に共通して言えるのは、「争いとなった場合の代理業務ができない」ということです。
今後の展開を見込んだ上で、依頼内容に合った専門家を選ぶようにしましょう。選び方を間違うと新たに弁護士への依頼が必要となり、費用や手間がかかってしまいますので注意してください。
どの専門家に依頼するべきか
前述のとおり、紛争となっている、または紛争が予想される場合は弁護士に依頼するのが望ましいです。紛争とは争いのある状態ということですが、例えば以下のような状態です。
- 遺言書の内容に納得できず、遺言書の効力に疑問があり、不満に思っている人がいる
- 離婚協議をしているが、慰謝料や養育費の希望額に相違がある
特に争いがない場合は、ご自身の依頼内容や予算に合わせて専門家を選ぶとよいでしょう。
取り扱える業務内容は要確認
なお、取り扱える業務の範囲を超えて、弁護士以外の人が報酬を得る目的で弁護士業務を行うこと(非弁行為)は禁止されています。実際に、司法書士が非弁行為を行ってトラブルとなったケースもあります。
中には取り扱えない仕事が発生するのがわかっているのに、業務範囲の仕事のみを受ける専門家もいます。結果的に弁護士に依頼した場合よりも手間や費用がかかり、損をするケースもありますので注意しましょう。
どの専門家に依頼すべきか迷うことが多い手続きをピックアップして、それぞれの専門家ができることを以下にまとめました。依頼する際の参考にしてください。税理士については相続についてのみ触れています。
離婚の場合

登記業務について、弁護士には法律上の権限はありますが、専門性が高いのは司法書士と言えるでしょう。なお、司法書士と行政書士は依頼者のいうとおりに代筆して書面を作成することはできますが、離婚の権利義務に関する相談にのることはできません(※1、2)。
相続の場合

登記業務、相続税の申告について、弁護士には法律上の権限はありますが、専門性が高いのはそれぞれ、司法書士、税理士と言えるでしょう。 税理士は税を扱う専門家です。相続税の申告が不要な場合は、税理士に依頼する必要はないでしょう。
債務整理の場合

過払い金の請求と任意整理について目的の価額が140万以下であれば認定司法書士に依頼することができます。しかし、司法書士は請求額が140万を超える場合、交渉権や訴訟代理権がありません。借金を抱えてしまってどうしたらよいかわからない、目的の価額がいくらになるかわからないという場合はまずは弁護士に相談してみるのがよいでしょう。
債権回収の場合
督促のための内容証明郵便の作成は弁護士、司法書士、行政書士に依頼することができますが、実際に回収するための法的手続きは弁護士か認定司法書士でないとできません。ただし、認定司法書士が代理できるのは前述の通り目的の価額が140万円までの案件のみです。140万円を超える債権回収は弁護士へ依頼しましょう。
司法書士、行政書士、税理士に依頼したあとで弁護士に依頼する事態にならないよう、依頼の際は慎重に検討してください。紛争になりそうかどうか分からなければ、まずは弁護士に相談だけでもしてみるといいでしょう。