【交通事故】人身事故扱いにしないとどうなる?物損事故からの切り替え方法や示談の慰謝料相場を解説

交通事故には、大きく分けて「物損事故」と「人身事故」があります。物損事故と人身事故のどちらで処理されるかによって、利用できる保険の種類や事故の損害として支払ってもらえるお金の範囲まで、さまざまな違いが出てきます。この記事では、人身事故への切り替え方法や示談の慰謝料相場を詳しく解説します。

目次

  1. 人身事故と物損事故の違い
  2. 人身事故扱いにしないと示談はどうなる?
    1. 支払われるお金の範囲が狭まる
    2. 人身事故で支払われる慰謝料の相場は?
    3. 使える保険の種類が少なくなる
    4. 実況見分がおこなわれない
  3. 物損事故から人身事故に切り替える手続きの流れ
    1. 必要書類
    2. 加害者に協力してもらう必要はある?
    3. 切り替えが認められたあとの流れ
  4. 人身事故への切り替え後、加害者が負う責任は?
    1. 刑事上の責任 懲役・禁錮刑や罰金刑の可能性も
    2. 民事上の責任 治療費や慰謝料などの支払い責任が発生
    3. 行政上の責任 免許の取消しや停止などを受けることも
  5. 切り替えが認められなかった場合の対処法
    1. 人身事故証明書入手不能理由書とは
    2. 人身事故証明書入手不能理由書の入手方法・記入のポイント
  6. まとめ
  7. 次はこの記事をチェックしましょう

人身事故と物損事故の違い

物損事故とは、人が死亡したりケガを負ったりすることなく、車などの物のみに被害が生じた交通事故のことです。 一方、人身事故とは、人がケガや死亡にいたる結果が生じた交通事故のことをいいます。ケガが軽い場合であっても、基本的には人身事故として取り扱われます。

  • 物が壊れただけ → 物損事故
  • 人が死傷する結果が生じた → 人身事故

このように、物損事故と人身事故の違いは、「ケガ(死亡)をしているか・していないか」という点です。 いったん物損事故として処理されたとしても、「その症状が事故によって生じた」という関係性(因果関係)があれば、警察で物損事故から人身事故に切り替えてもらうことができます。

人身事故扱いにしないと示談はどうなる?

ケガをしているのに物損事故のままだと、次のような不利益があります。

  • 保険会社から支払われるお金の範囲が狭まる
  • 利用できる保険の種類が減る
  • 実況見分がおこなわれない

支払われるお金の範囲が狭まる

物損事故の損害として支払ってもらえるお金の範囲は、「物」について発生した被害の弁償に限られます。 たとえば、事故で破損した車を修理するための費用や、廃車になった場合は、事故当時の車の時価(中古価格)です。この他にも、車を修理する間に必要となった代車を利用する費用なども含まれます。 これに対して、人身事故の場合、「物」にかかった費用に加え、治療費や逸失利益(交通事故に遭わなければ得られていたはずの利益)など「人」に発生した費用、損害についても支払ってもらうことができます。 このほか、「交通事故で精神的苦痛を受けた」ことを理由に、慰謝料を求めることもできます。 一方で、物損事故の場合、原則として慰謝料の支払いを求めることはできません。

物損事故でも例外的に慰謝料が認められるケースもあります。たとえば、家族同様の存在であったペットを失ったりした場合などです。

人身事故で支払われる慰謝料の相場は?

人身事故で支払われる慰謝料は、入院・通院や後遺症の有無によって変わります。 交通事故の慰謝料を計算する方法は複数ありますが、その中で最も高額な賠償金を期待できる計算方法は、「裁判基準」と呼ばれる算定方法です(「弁護士基準」と呼ばれることもあります)。 裁判基準は、過去の裁判で示された判断(裁判例)の積み重ねをもとにした算定方法で、保険会社が示す算定方法(任意保険基準)よりも、一般的に賠償金額は高額になります。 以下のリンク先で、ケガの程度や入通院の期間などを入力すると、弁護士基準で慰謝料・賠償金をどのくらい受け取れるかが算出できます。 あなたが受け取れる慰謝料・賠償金の額を計算する

使える保険の種類が少なくなる

交通事故の損害は、保険を利用することで被害者に支払われることが一般的ですが、利用できる保険の種類も、人身事故と物損事故とで異なります。 交通事故の保険の種類は大きく2種類に分けられます。 一つは、「自賠責」と呼ばれる保険です。損害保険会社で契約する「自動車損害賠償責任保険」と、共済組合で加入する「自動車損害賠償責任共済」があります。 自動車を利用する人が必ず加入しなければならない保険なので、「強制保険」とも呼ばれています。 もう一つが、自動車の利用者が各々任意で加入する自動車保険(任意保険)です。 人身事故の場合、自賠責でカバーしきれない額の被害が発生した場合でも、残りの部分を任意保険でカバーすることができます。つまり「2段階」の補償が受けられます。 一方、人が死傷する結果が生じていない物損事故は、自賠責を利用することができません。任意保険のみで対応することになるのです。

  ケガ・死亡
自賠責 ×
任意

人身事故の場合、車の持ち主にも賠償請求できる

「加害者が任意保険に加入していない。財産も少ないため損害額を自腹で支払ってもらえる可能性も低い」。 人身事故として取り扱われると、こうしたケースでも他の人から損害分のお金を支払ってもらえる可能性があります。 人身事故の場合、自動車を他人に貸した持ち主、レンタカーの貸主など、車を運転していた直接の加害者以外の人(「運行供用者」といいます)にも損害賠償を請求できるのです。 一方、物損事故では、運行供用者に損害賠償を請求することはできません。加害者が「無保険・支払い能力なし」というケースでは、損害を回収することが難しくなる可能性が出てきます。

実況見分がおこなわれない

「交差点に進入した時、正面の信号は青だった」「いや、赤だった」ーー。事故当時の状況について加害者との間に食い違いが生じ、過失割合(事故の責任の割合を数値化したもの)をめぐって争いが生じているケースなどでは、事故当時の状況を詳細に記録した証拠の存在が重要になります。 人身事故の場合、こうした事故の状況を詳細に記録した「実況見分調書」という書面が作成されます。 人身事故は刑事事件として処分を検討する必要があるので、捜査機関は事故状況を詳細に記録する「実況見分」という手続きをおこないます。 実況見分とは、当事者や目撃者が立ち会いのもとで、捜査機関が事故当時の状況について詳細な調査を事故現場で行うことです。実況見分の内容を記録した書面が実況見分調書です。 一方、物損事故の場合、原則として実況見分は行われないのが通常です。 物損事故でも、事故の概要を簡単にまとめた「物件事故報告書」が作成されますが、事故状況を証明する手段としては不十分な場合もあります。 このように、事故の状況を証明するに当たっては、人身事故において作成される実況見分調書が有益なのです。 ただし、この実況見分調書は、警察から当然に被害者に交付されるというものではなく、自ら(または弁護士を通じて)申請して取り寄せる必要があります。 実況見分調書は、加害者の刑事処分(自動車運転過失致死傷罪など)を決めるための証拠となりますが、捜査段階(起訴・不起訴処分の前)では取り寄せることができないので、注意してください。

物損事故にするか、人身事故にするか

相談者の疑問 先日、中学生の子供が、自転車で信号のある十字路を直進中、反対車線の車が右折をしてきて、ぶつかってしまいました。こちらも自転車ですので、10:0ではありません。

けがは、右鎖骨骨折と右下顎骨に亀裂です。鎖骨骨折は完治まで1~3カ月かかると思います。相手の方は誠実に対応いただきましたが、物損事故にしていただきたいということでした。相手の保険会社の方からは、物損にしても人身にしても保障額は変わらないと言われました。

ですが、知り合いに聞いたところ、骨を折っているなら人身にしないと不利になるのではと言われました。今は警察には物損ということにしてありますが、相手方の意向もあり、実況見分はしてあります。

「物損でもいいのか、やはり人身にしないと後々不利になるのか」教えてください。

好川 久治の写真 弁護士の回答好川 久治弁護士 人身にできるなら人身にしておいたほうがよいです。

保障の関係では任意保険会社が物損扱いでも保障すると言っているなら問題ありませんが、事故態様について争われる可能性があるなら人身事故にして、きちんとした実況見分調書を作っておくのがベストです。

実況見分をしたとのお話ですが、物損事故では物件事故報告書という警察官のメモ程度の書類しか作成されませんので、万が一細かい事故の態様について争いをされた場合には過失の認定で影響を受ける可能性がないともいえません。

特に、衝突時の信号のサイクル、どの時点で何がどこに見えたかの細かい記録がないと、例えば右折時に青から黄色に変わったというような主張がされると、過失割合は大きく変わってきます。怪我の程度も大きいですから人身事故にしておいたほうがよいです。

物損事故から人身事故に切り替える手続きの流れ

人身事故への切替えは、事故が起きた現場を管轄(担当)する警察署に届け出ます。事故現場を担当した警察官が在籍しており、事故当時の状況や事情を把握しているからです。 現場を担当した警察官をいきなり訪ねても、不在ということもあるでしょう。担当警察官がいる日時を警察署の交通捜査係であらかじめ確認し、事前に連絡してから訪ねるようにしましょう。

必要書類

人身事故に切り替えるためには、医師による診断書が必要です。事故後に身体に痛みなどの症状が出てきたら、すぐに医師の診断を受け、診断書を書いてもらいましょう。 症状が事故によって生じたことを説明するために、診断書の中では、事故と症状の因果関係について触れてもらうよう頼むとよいでしょう。 また、診断書に記載された氏名や生年月日に間違いがあると、医師の訂正印が必要になります。診断書を書いてもらう際によく確認しておきましょう。 その他にも、事故車両、運転免許証、車検証、保険関係の証書、印鑑などが必要になります。 事故車両が修理中で走らせることが難しい場合などは、破損した部分や程度がわかるように写真を撮っておき、プリントアウトするなどして持参しましょう。写真を撮影する際には、必ず車のナンバーがわかるようにしておきましょう。

加害者に協力してもらう必要はある?

切替え手続きを進めるためには「加害者と被害者が双方とも来署してください」などと警察署のホームページに記載されていることがあります。 人身事故に切り替わると、警察は事故を刑事事件として捜査するため、被害者・加害者双方に詳しい事情を聞く必要が出てくるからです。 ですが、人身事故への切替えは、交通事故によってケガを負った、症状が生じたということが明らかになれば認められることが多いです。 加害者の協力が得られないような場合でも、あきらめずに警察で切替え手続きを進めましょう。 加害者と同行しないことを理由に切替えを拒否されたようなケースでも、弁護士などの専門家に間に入ってもらうことで切替えが認められるケースもあります。

切り替えが認められたあとの流れ

人身事故に切り替えられると、警察は改めて実況見分(事故状況の詳細な調査)を行います。 実況見分が行われると、事故の詳細を記録した実況見分調書が作成されます。当事者の言い分や目撃者がいる場合には目撃者の証言を聴取した供述調書も作成されます。 また、警察から提供された資料に基づいて、自動車安全運転センターが人身事故の交通事故証明書を発行してくれます。「事故があったこと」を証明する大事な書類です。

人身事故への切り替え後、加害者が負う責任は?

人身事故の場合、加害者は、被害者にケガを負わせたり、死亡させたりしたことについて、民事上の損害賠償責任、刑事責任の他、運転免許の取り消しなど行政上の責任を負う可能性があります。

刑事上の責任 懲役・禁錮刑や罰金刑の可能性も

自動車やバイク、原動機付自転車(原付バイク)を運転しているときに、運転に必要な注意を怠り、人にケガをさせた場合は「過失運転致傷罪」、人を死亡させた場合は「過失運転致死罪」という罪に問われる可能性があります。いずれの罪も、刑罰は、7年以下の懲役・禁固または100万円以下の罰金です。 被害者のケガの程度が軽い場合は、有罪判決を受けても、情状により刑罰が免除されることがあります。 アルコールの影響で泥酔しているなど、正常な運転ができない状態で運転して、人にケガをさせたり、死なせてしまったりした場合は、刑罰が重くなる可能性があります。また、妨害運転(あおり運転)のような危険な行為によって、人にケガをさせたり、死なせてしまったりした場合にも、刑罰が重くなる可能性があります。この他、無免許での運転などの事情が加わると、罪が重くなる可能性があります。

民事上の責任 治療費や慰謝料などの支払い責任が発生

人にケガをさせたり人の車などを壊したりして、損害を与えた場合、加害者は、民法上の不法行為として損害賠償責任を負うことになります。損害賠償責任とは、簡単に言うと、人に与えた損害を、お金を支払うことによって償う責任です。 具体的には、被害者に対して、ケガの治療費や、事故で受けた精神的苦痛に対する慰謝料、逸失利益(後遺障害を負ったり死亡したりしたために得られなかった収入)、修理費などを支払う責任が生じます。 これらのお金は、加害者が加入する自動車保険から、保険金の形で支払われることが一般的です。賠償金の額が自賠責保険で賄われる限度額を超える場合は、加害者が任意保険に加入していれば、超過分について任意保険から補填されます。 なお、車などのものが壊れた場合の修理費は自賠責保険でカバーされないため、任意保険から支払われます。

加害者が任意保険に加入していない場合、自賠責保険の限度額を超過する分や車の修理費は、加害者自身に請求することになります。

行政上の責任 免許の取消しや停止などを受けることも

交通事故の加害者は、事故の被害の程度や、それまでの交通違反の状況などに応じて、免許停止や、免許取り消しの処分を受ける可能性があります。物損事故では、基本的に点数は加算されません。 具体的には、交通事故を起こすと、事故態様に応じて、まず、基礎点数(信号無視など交通違反をしたことに対する点)が付きます。さらに、事故の不注意の軽重や被害の程度に応じて、以下の表の点数が付きます。 加害者は、過去3年間の合計点数(累積点数)に応じて、免許の取消しや停止などの処分を受けることになります。 免許取消し処分の期間は1年〜10年、免許停止処分の期間は30日〜180日です。処分の期間は合計点数に応じて決まります。

切り替えが認められなかった場合の対処法

警察において物損事故から人身事故に切り替えるためには、警察に診断書などの書類を提出して手続きをする必要がありますが、事故から日数が過ぎているなどして事故とケガ・症状との関係(因果関係)が不明な場合、切り替えてもらえないことがあります。 また、後になって事故が原因と思われる症状が出てきたけれど、切替え手続きをせず、物損事故として処理されたままになっているという方もいるでしょう。 その場合、加害者が加入している損害保険会社あてに「人身事故証明書入手不能理由書(理由書)」を提出することで、警察では物損事故の取り扱いのまま、治療費や慰謝料など人身事故の損害を保険金で支払ってもらうことができます。

人身事故証明書入手不能理由書とは

「警察では物損事故の扱いのまま、治療費や慰謝料など人身事故の損害を保険でカバーする」というのは、おおまかに説明すると、次のような意味です。 警察に交通事故が起きたことを届け出ると、警察(自動車安全運転センター)は、人にケガが生じている場合は人身事故として、人にケガはなく、物(車など)だけが破損したという場合は物損事故として、交通事故が起きたことを証明する書類(交通事故証明書)を発行してくれます。 ケガの治療費や慰謝料など人身事故の損害を保険金で支払ってもらうためには、本来は、保険会社に人身事故であることの交通事故証明書(人身事故証明書)を提出する必要があります。

人身事故証明書入手不能理由書の入手方法・記入のポイント

人身事故証明書入手不能理由書は、保険会社が用意するものもありますが、おおむね内容が共通した書式が用意されています。 保険会社とのやり取りの中で、保険会社から送られてくることがありますが、インターネット上から自分で書式を手に入れることもできます。 たとえば、山梨県の甲府市は次のような理由書の書式を公開しています。

理由書を記入する際のポイントは?

記入する内容で最も大切なことは「なぜ人身事故の交通事故証明書が入手できなかったか」という理由です。 たとえば、先ほど紹介した書式には、人身事故の交通事故証明書を入手できなかった理由として、次のような選択肢が用意されています。

  • ケガが軽く、検査で病院に通っただけだったから
  • 短期間でケガの治療が終わったから
  • 駐車場や私有地など、公道以外の場所で発生した事故だったから

どれにもあてはまらないときは、その理由を具体的に記入します。たとえば、「事故当初は特に痛みもなく、物損事故として処理されたけど、後日症状が出てきたので病院で診断を受けた」といった理由です。

この他にも、事故を届け出た警察署や担当の警察官、事故の目撃者、加害者などの記名・押印などを記載する必要がありますが、保険会社に依頼し、保険会社においてこれに対応するのが一般的です。

まとめ

「物損事故として処理されたけれど、人身事故に切り替えたい」「加害者が人身事故の切り替え手続きに同行しないので切替えを拒否された」…。このような悩みを抱えている人は、弁護士への相談を検討しましょう。 加害者が同行しないことを理由に切替えを拒否されたようなケースでも、弁護士などの専門家に間に入ってもらうことで切替えが認められるケースもあります。また、その後の示談交渉についても、ノウハウや経験の有無によって最終的な結果が変わる場合があります。 弁護士に依頼することで、保険会社との示談交渉をはじめ、様々な手続きを代わりにおこなってもらうことができます。交通事故案件に注力する弁護士のサポートを受けることで、自分だけで対応するよりも手間やストレスをかけずに、より満足できる結果を得られるでしょう。

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