休業損害とは
休業損害とは、交通事故の賠償金の費目のひとつで、交通事故でケガが治るまでの間、または症状固定(これ以上治療を続けても症状が改善しないと医学的に判断されたこと)までの間、仕事を休むことによって減ってしまった分の収入のことをいいます。 給与所得者(サラリーマン)だけではなく、自営業者や専業主婦(主夫)などでも、休業損害を受け取ることができます。
有給を使った場合も受け取れる
有給休暇を利用して通院した場合、収入は減りませんが、休業損害は認められています。 この場合、休業損害の計算方法は、有給休暇を利用しないで休んだ場合と同じです。
休業損害と休業補償の違い
休業損害と混同されやすい賠償金の費目に、「休業補償給付」があります。休業補償給付は、業務中や通勤中の事故でケガをし、働けなくなった場合に、労災保険から支払われるお金です。 業務中や通勤中に事故に遭った場合は、労災保険と、自賠責保険・任意保険は、両方に請求して、どちらからも補償を受けることができます。 ただし、休業損害と休業補償は同じ内容の補償であるため、労災保険と自賠責保険の両方から二重取りをすることができません。どちらから支払いを受けるか選ぶ必要があります。
自賠責基準による休業損害の計算方法
休業損害は、交通事故の賠償金(保険金)の費目のひとつです。賠償金の金額は、保険会社や裁判例などによって、ある程度の目安となる基準が作成されています。その基準をもとに、個別のケースで慰謝料がいくらになるかを計算していきます。 賠償金の目安となる基準は、大きく3つあります。
自賠責基準
任意保険基準
弁護士基準(裁判基準)
一般的には、自賠責基準・任意保険基準より、裁判例をもとにした基準(弁護士基準)のほうが高額です。 まず、自賠責保険を利用する場合、休業損害をいくらもらえるのか見ていきましょう。裁判基準での休業損害の計算方法については、この次の項目で詳しく解説します。
自賠責基準
自賠責保険から支払われる休業損害は、原則として、仕事を休んだ日数1日につき6100円です。2020年3月31日以前の事故の場合は、1日5700円が支払われます。被害者の職業にかかわらず、一律この金額です。 仕事を休んだことによる収入の減少が1日につき6100円を超えることが資料などにより証明できる場合には、1日につき1万9000円を上限として支払ってもらうことができます。
ケガの様子や、実際に治療した日数なども考慮して、治療期間の範囲内で仕事を休んだ日数とは違う日数になることもあります。
任意保険基準
任意保険保険会社の基準による算出方法です。一般的に公開されていませんが、裁判基準よりも低額であることが少なくありません。
裁判基準(弁護士基準)による休業損害の計算方法
裁判基準は、過去の裁判例をもとにした基準で、他の基準より高額になる可能性があります。給与所得者や自営業者といった被害者の職業によって、計算方法が異なります。 休業損害を含め、裁判基準(弁護士基準)で算出するとどの程度の保険金を受け取れる可能性があるのか、以下のリンク先でいくつかの項目に入力すると計算することができます。 慰謝料・損害賠償金計算機 以下では、職業別に計算の考え方を紹介します。どのような考えに基づいて計算するのか知りたい方は参考にしてください。専業主婦や学生、失業者など、収入がない方でも休業損害を請求することはできます。
給与所得者の休業損害の計算方法
給与所得者の休業損害は、原則として、交通事故のケガを理由に仕事を休んだことで収入が減った場合の、実際に減った分の金額です。 収入がいくら減ったのかがわかる場合には、その金額が休業損害となります。 わからない場合には、事故にあう前に実際にもらっていた給与をもとに、休んだ日数分の給与を計算していきます。給与には、基本給のほかに、残業代などの手当も含まれます。 給与所得者の場合、休業損害の計算方法は、次のようになります。
- 事故前の給与から1日あたりの収入を計算する
- 仕事を休んだ日数を数える
- 次の計算式に当てはめて計算する
休業損害の計算式1日あたりの収入×仕事を休んだ日数
1日あたりの収入は次のように計算します。
1日あたりの収入の計算式事故にあう前の一定期間の収入÷その期間の日数
例として、事故にあう前の一定期間(1月から3月までの3か月間)の収入が90万円の人が、4月の1か月間仕事を休んだ場合の休業損害を計算してみましょう。 1月から3月までの3か月間の休日を含めた日数は、31日(1月)+28日(2月)+31日(3月)=90日です。1日あたりの収入は、90万円÷90日=1万円となります。 この1万円に、仕事を休んだ日数を掛けると、休業損害の金額がわかります。 1日あたりの収入の計算で休日を含めた場合、実際に仕事を休んだ日数も休日を含めて計算します。 この場合は30日(4月)なので、1万円×30日=30万円が休業損害となります。
会社役員
会社役員の休業損害の計算方法は給与所得者と同様ですが、休業損害の計算のもととなる収入の考え方が異なります。 会社役員の役員報酬が、サラリーマン(給与所得者)の給与と異なるのは、役員報酬の中に、役員の働きへの対価として支払われる部分と、それ以外の部分があるという点です。 それ以外の部分というのは、たとえば次のような部分です。
- 利益が出た場合に株主へ支払う配当金を役員報酬という形で支払った部分
- 親族のよしみで通常より多めに支払われる部分
- 法人税対策として経費となる役員報酬が多めに設定されている部分
これらのうち、休業損害の計算のもとになる被害者の収入は、役員の働きへの対価として支払われる部分に限られます。 たとえば、役員報酬(年収)が1200万円、役員の働きへの対価部分が80%の場合、960万円(1200万円×0.8=960万円)をもとに休業損害を計算していくことになります。 役員報酬のうち役員の働きへの対価として支払われる部分がどのくらいなのかは、会社の規模や役員の職務内容などの事情をふまえて、何パーセントという形で、事案ごとに判断されます。
自営業者
自営業者の休業損害は、原則として実際に収入が減った場合に認められます。 事故前の収入は、確定申告で申告した所得をもとに計算します。 収入がいくら減ったのかは、次のように計算します。
- 事故前の収入から1日あたりの収入を計算する
- 仕事を休んだ日数を数える
- 次の計算式に当てはめて計算する
休業損害の計算式1日あたりの収入×仕事を休んだ日数
たとえば、事故前年の確定申告の所得が500万円だった場合、1日あたりの収入は、500万円÷365日=約1万3698円となります。この場合、休んだ日数を30日とすると、1万3698円×30日=40万940円が休業損害として支払われます。
収入が減らなかった場合でも、たとえば入院中に家族の努力で営業を続けられたような場合には、事故後の収入は実質的には家族の収入であるとして、被害者本人の休業損害が認められる場合があります。
専業主婦(主夫)
主婦・主夫の場合には、交通事故によるケガが理由で家族のために家事ができなかったことについて、平均賃金をもとに休業損害を計算することが認められています。 平均賃金を調べるには、「賃金センサス」とよばれる統計を参照します。 賃金センサスとは、厚生労働省が毎年出している「賃金構造基本統計調査」のことです。性別、年齢、学歴、産業ごとの平均賃金がわかります。 専業主婦・主夫の休業損害の場合には、「女性」の「全ての年齢」の平均賃金を使います。2019年の賃金センサスによる平均賃金(女性・全年齢)は、388万円です。 たとえば、交通事故によるケガが理由で3か月間(90日)家事ができなかった場合の計算は次のようになります。 まず、平均賃金から1日あたりの賃金を計算します。 388万円÷365日=約1万630円 次に、1日あたりの賃金に家事ができなかった期間を掛けます。 1万630円×90日=95万6700円 この95万6700円が休業損害となります。 兼業主婦の場合には、実際の収入額と、女性労働者の年齢ごとの平均賃金のどちらか高い方をもとに計算します。
学生
学生の休業損害は原則として認められませんが、アルバイトなどで収入がある場合には実際にアルバイトを休んで収入が減った分の休業損害が認められます。
失業者
失業者の休業損害は原則として認められませんが、労働能力と労働意欲があり、再び職に就く可能性が高かったと認められる場には、交通事故にあわなければ仕事を始めていたといえる時期以降の収入について、休業損害が認められます。 たとえば、「事故当時に就職先が内定していた」「事故直後に内定が決まった」といった事情がある場合に、休業損害を認めた裁判例があります。
休業損害の請求方法
休業損害の請求にあたっては、多くの場合、保険会社から「休業損害証明書」が送られてきて、勤務先に記入してもらい、その内容をもとに保険会社が休業損害を計算するというのが大きな流れです。 休業損害証明書とは、「仕事を休んだことでどのくらい収入が減ったのか」を示すための書類です。仕事を休んだ日数や減った収入のほか、事故前3か月間の支給金額や社会保険料など、給与に関する詳しい情報を記入します。 勤務先の総務や給与厚生を担当している部署に、保険会社から送られてきた休業損害証明書のひな形を提出して作成してもらうことが一般的です。アルバイトやパートでも、休業損害を請求する際には休業損害証明書が必要です。 休業損害証明書のひな形をネット上で公開している保険会社もあるので、気になる方は確認してみましょう。
自営業者や専業主婦の場合
自営業者や専業主婦は、休業損害の請求にあたって、休業損害証明書の提出は求められません。ただし、自営業者の場合、所得の計算にあたって、確定申告書などの提出を保険会社に求められることがあります。
相談者の疑問
信号待ちをしているところ、後続車に追突されました。私(妻)と主人と子供の3人で搭乗しておりました。
念のため、翌日に病院へ行きましたが、私はむちうちと腰の打撲、主人はむちうち、子供は顔面打撲との診断でした。
私は専業主婦です。主人は会社員と自営業を掛け持ちしております。
①専業主婦でも休業損害はもらえるのでしょうか?その場合は何か証明書が必要でしょうか?
②主人は会社は休むことができませんが、自営業はしばらく休業します。その場合も休業損害は出るのでしょうか?また、自営業の休業をどのように証明するばよろしいでしょうか?店舗を構えているわけではなく、ネット上でデザイン会社から作業を依頼されております。
弁護士の回答松本 篤志弁護士
夫その他の家族と同居していて住民票も同一であれば、特に問題なく主婦休損は認められるのが通常です。
相手方任意保険会社も主婦休損の発生自体は争わないでしょう(ただし期間だとか範囲について争うことはあり得ます)から、特に証拠等は求められないのが一般です。
夫の自営業者の部分も休業損害は出ますが、現実に休業して減収があったことなどの立証も問題になります。
休業損害の発生が認められる場合の算出の基礎は申告所得となりますが、それ以前に減収が生じているのかや減収が事故での休業によるものなのかなどの立証については場合によっては工夫が必要となってきます。
休業損害の請求を弁護士に依頼するメリット
裁判基準で算出される休業損害の金額は、自賠責基準や任意保険基準よりも高額になることが一般的です。 任意保険会社から提案された額に納得できない場合に、「裁判基準であれば金額はいくらになるのか」ということを把握して保険会社と交渉を進めれば、休業損害の増額を見込める可能性があります。 ただし、専門家ではない被害者が「裁判基準で休業損害の金額を算定してほしい」と保険会社に求めても、応じてもらえる可能性は高くありません。 「示談交渉の段階での賠償金額と、時間と手間のかかる裁判で認められる賠償金額を同列に扱うことはできない」などといった理由で、裁判基準での算定を拒否されることが少なくないのです。 一方で、弁護士が交渉相手となれば、保険会社は、裁判を起こされることも見越して交渉に臨みます。そのため、示談交渉の段階でも、裁判基準か、もしくはそれに近い金額で示談が成立する可能性があるのです。 また、加害者側の保険会社に対して損害賠償請求をするにあたって、弁護士は、休業損害以外の賠償の費目(治療費、慰謝料、逸失利益など)についても適切な金額で算定してくれます。 このように、弁護士が交渉を担当することで、事故で受けた損害を適切に算定し、裁判基準に近い金額で賠償金を獲得できる可能性が高まります。 費用面が不安な場合、弁護士費用特約を利用すれば、ほぼ自己負担なしで弁護士のサポートを受けることができます。交通事故被害の解決を弁護士に依頼するメリットは他にもあります。詳しくは、記事末尾のリンクで解説しています。
休業損害を請求できる期間はいつまで?
休業損害は、事故で負ったケガが治るか症状固定するまでの間、仕事を休むことによって減ってしまった分の収入のことです。 そのため、休業損害は、ケガが治るか症状固定するまで認められます。 なお、症状固定した後、残った症状について後遺障害等級認定を受けた場合は、逸失利益を請求することができます。 逸失利益は、治療しても後遺障害が残った場合に、そのことによって減少する将来の収入を補償する意味があります。 つまり、症状固定日(これ以上治療を続けても症状が改善しないと医学的に判断された時点) までの収入の補償が休業損害で、それ以降の損害が逸失利益という関係にあります。逸失利益は、休業損害とは別の費目として請求することになります。
まとめ
「交通事故に遭ったが、加害者とどうやって交渉すればいいのかわからない」「保険会社から提示された賠償金が妥当な額なのか判断できない」…。このような悩みを抱えている人は、弁護士への相談を検討しましょう。 交通事故の賠償金の計算は複雑で、専門知識が必要です。また、示談交渉や後遺障害等級申請についても、ノウハウや経験の有無によって最終的な結果が変わる場合があります。 弁護士に依頼することで、加害者との示談交渉をはじめ、様々な手続きを代わりにおこなってもらうことができます。交通事故案件に注力する弁護士のサポートを受けることで、自分一人で奮闘するよりも手間やストレスをかけずに、より満足できる結果を得られるでしょう。