交通事故の被害者になったら…事故発生から保険会社に慰謝料を請求するまでの流れ
交通事故でケガをした場合、以下のようなプロセスで、治療費や慰謝料などの保険金請求を進めていきます。
それぞれのフェーズでおこなうことについては、このあとの項目で詳しく解説します。
交通事故の被害者が利用できる保険の種類
事故が起きたときには、通常、加害者が自分の加入している保険会社に連絡し、その保険会社の担当者から被害者に連絡が来ます。 加害者が加入している保険には、「自賠責保険」と「任意保険」の2種類があります。 事故の被害は、加害者が加入するこれらの保険から保険金を支払ってもらうことで回復します。
自賠責保険とは
自賠責保険とは、法律で全ての自動車の所有者などに加入が義務付けられた保険です。 自賠責保険には、「自賠責基準」と呼ばれる支払基準があり、この基準に従って保険金が支払われます。自賠責基準では、被害者救済のための最低限の金額が保証されています。 自賠責基準を詳しく確認したい方は、こちらを参考にしてください。
任意保険とは
任意保険とは、車を運転する人が各々任意で加入する保険です。任意保険から支払われる保険金は、事故の損害のうち、自賠責保険の限度額を超える部分です。 加害者が任意保険に加入している場合は、任意保険会社の示談代行サービスによって、加害者の代わりに任意保険会社の担当者が示談交渉を行います。 任意保険会社の担当者が提案する保険金の内容は、自賠責保険から支払われる保険金と、任意保険会社から支払われる保険金の両方が含まれています。 任意保険会社は、自賠責保険の分も含めて先にまとめて被害者に支払いをしてから、後で自賠責保険の分を自賠責保険会社に請求します。 このように、自賠責の分もまとめて支払う任意保険会社の対応を「一括対応」といいます。
加害者が任意保険に加入していない場合、自賠責保険の限度額を超過する分は、加害者自身に請求することになります。
通勤・仕事中に事故に遭った場合、労災保険も利用できる
通勤中や仕事中に交通事故にあい、労働災害(労災)と認められた場合、「労災保険」を使って治療費などの支払いを受けることができます。 さらに、通常の交通事故と同じように、加害者が加入している自賠責保険・任意保険からも補償を受けることができます。 ただし、同じ内容の補償は、労災保険と自賠責保険の両方から二重取りをすることができず、どちらかのみから支払いを受けることになります。 事故後はまず勤務先に連絡し、その後、それぞれの保険で受けられる補償内容を確認して、利用の仕方を検討するとよいでしょう。
治療費、慰謝料…保険会社に請求できる費目
交通事故の被害に遭った場合、加害者側の任意保険会社との話し合い(示談)により保険金の金額を話し合っていくことが一般的です。 示談で請求できるのは、治療費、慰謝料、休業損害、逸失利益などです。 慰謝料は、交通事故でケガなどをした場合、入院や通院を余儀なくされて精神的な苦痛を受けたことに対して支払ってもらうことができます。 休業損害とは、交通事故の賠償金の費目のひとつで、交通事故でケガが治るまでの間、または症状固定(これ以上治療を続けても症状が改善しないと医学的に判断されたこと)までの間、仕事を休むことによって減ってしまった分の収入のことをいいます。 ケガが完治せず、後遺症が残ってしまった場合には、後遺症にならなければ得られたはずの利益として「逸失利益」が支払われます。 示談金の相場や、示談で提示された金額に納得ができない場合の対処法などについては、記事末尾のリンクで詳しく解説しています。
事故発生直後の対応
警察に連絡する
事故発生後は、すみやかに、交通事故が起きたことを警察に連絡します。 通常は事故の加害者が連絡をしますが、加害者が重傷を負って動けない場合や、連絡できる状態でも連絡してくれない場合があります。あなたが連絡をすることが可能な状態であれば、代わりに連絡しましょう。 その際、以下のようなことを警察に伝えられるように、情報を整理しておくとよいでしょう。
- 交通事故が発生した日時と場所
- 自動車や物の破損の程度
- 事故が起きてから取った措置
警察に連絡をしないと、交通事故が起きたことを証明する「交通事故証明書」という書類が発行されません。 加害者の保険会社に保険金を請求する際、交通事故証明書を提出しないと、「事故があったかどうか確認できない」という理由で、支払いを受けられない可能性があります。 交通事故が起きたときは必ず警察に連絡するようにしましょう。
加害者の連絡先などを聞く
警察に連絡し到着を待つ間に、加害者の素性、現場と事故の状況、目撃者の有無などをできるだけ確認・記録しておきましょう。 加害者の素性とは、具体的には次のような項目です。
- 加害者の住所、氏名、連絡先
- 加害者が加入している自賠責保険(共済)、任意保険会社(組合)名
- 加害者の車のナンバー
- 加害者の勤務先と雇主の住所、氏名、連絡先
可能であれば、以下の情報も記録できるとよいでしょう。
- 加害者の車の車種、車体の色
- 加害者の車の所有者
- 加害者の車の車検証、自賠責保険証書の証明書番号、加入年月日
- 事故が起きるまでの経緯(信号無視、一時停止無視、スピード違反など)
- 加害者の言い分
- ドライブレコーダーの有無
このような情報を確認・記録しておくと、「事故発生状況報告書」という書類を作成する際に役立ちます。 「事故発生状況報告書」とは、保険会社に保険金を請求するにあたって、事故発生当時の状況を詳しく説明するための書類です。 先ほど解説した交通事故証明書は「交通事故があったという事実」を証明するための書類で、道路図や車の配置など、事故の詳しい状況については記載されません。 事故当時の詳しい状況に関する情報が必要な場合には、事故発生状況報告書を作成することになります。作成に備えて、事故の状況をできるだけ詳しく確認、記録しておくとよいでしょう。
目撃者がいれば連絡先などを聞いておく
事故の目撃者がいれば、その人の住所、氏名、連絡先を聞いておきましょう。事故の当事者ではない第三者の証言は、警察や保険会社に信用されやすい傾向があります。 事故状況をめぐって加害者と意見が対立した場合も、目撃者の証言が重視されることがあります。 警察が到着するまで待ってもらい、現場での事情聴取のときに証言してもらえるとよいですが、難しければ、目撃した内容をメモに残してもらいましょう。
自分が加入している保険会社に連絡する
保険会社への連絡も忘れずに行いましょう。 交通事故はお互いの不注意が原因で起きることも多く、どちらが被害者でどちらが加害者とは言い切れない場合があります。 「私は被害者だ」と考えていても、自分が加入している保険会社があれば連絡をしておきましょう。 場合によっては、自分が加入している保険を利用する可能性もあるので、契約内容を確認するためにも重要なことです。 また、多くの任意保険には「示談代行サービス」がついていて、保険会社の担当者が示談交渉を代わりに行ってくれます。 自分で加害者側の保険会社とやりとりせずにすむので、利用できる場合は利用することをおすすめします。
事故現場での示談には応じない
交通事故の示談交渉は通常、加害者が加入している保険会社の担当者と行います。示談内容に当事者が納得できれば、保険会社が用意した書類に署名捺印をし、示談が成立します。その後保険金が支払われます。 しかし、一見したところ軽傷または無傷で、物損の程度も軽い事故では、加害者が保険会社に連絡をせずその場で被害者に示談交渉を持ちかけ、お金のやりとりをするケースがあります。 事故現場で当事者だけで示談交渉をすると、適切な賠償を受けられない可能性があります。 たいていの場合、事故直後は、お互いの過失の程度や正確な損害額がわかりません。「たいした事故ではないと思っていたのに、車を修理に出したら、想定より何倍も高額の修理代がかかった」ということもあります。 また、事故直後は身体に痛みがなく、ケガをしていないと思っていても、数日後にむち打ちなどの症状が出てくることもあります。 交通事故の当事者が成人であれば、事故現場での口頭のやりとりであっても、法的には有効に成立します。示談を一度成立させてしまうと、後からやり直したり、取り消したりすることはできません。 事故からしばらく経った後で、「修理費が思ったよりも高額だった」「実はケガをしていた」といったことが判明しても、すでに示談が成立している場合、加害者にそれらの損害を賠償してもらうことは難しいでしょう。 事故現場で加害者に示談を持ちかけられても応じず、加害者の保険会社と連絡を取り合った上で、担当者を介して、適切な賠償を受け取れるよう交渉を進めていきましょう。
軽傷でも人身事故として届け出る
事故でケガをした場合、たとえ軽傷であっても、「人身事故」として届け出ましょう。 交通事故は、警察によって「人身事故」または「物損事故」のどちらかで処理されます。 死傷者が出た事故が人身事故、車などの物が壊れたけれど誰もケガをしていない事故が物損事故です。 人身事故と物損事故のどちらで処理されるかによって、その後の手続きに大きな影響があります。 人身事故として処理されると、損害として支払ってもらえる金額の範囲が広がります。利用できる保険の種類も、人身事故の場合の方が多く用意されています。 また、人身事故として処理されると、事故の状況を証明する際に有効な「実況見分調書」という書類が作成されます。 たとえば、過失割合(事故の責任の割合を数値化したもの)をめぐって争いが生じた場合、実況見分調書があるかないかで、賠償金の金額などに影響が出る可能性があります。
相談者の疑問
交通事故に遭いました。私はバイク、相手は普通車です。私はスピード違反と追い越しをし、相手は一方通行の車線に間違って入ってきました。
警察はお互い違反をしているからか、人身事故にして罰金などを払うよりは、物損事故にしておいたらどうかと提案してきました。
私は顔のケガ、手の骨折等があり最低5日間の入院をしなければならず、仕事も少しの期間休まなければいけません。
この場合、物損事故で処理をすることのデメリットを教えていただければ幸いです。
弁護士の回答佐々木 一夫弁護士
この事故であれば、必ず人身事故にしておいた方がよいでしょう。物損事故扱いにした場合には、警察は最低限の捜査しかしてくれません。しかし、人身事故扱いにした場合には、実況見分調書を作成してくれます。
今後ご質問者様が治療を行い、最終的に賠償金の請求を相手方にする場合、この実況見分調書が事故状況を立証する重要な資料になります。
賠償金の請求の際には、お互いの過失に応じて賠償金の過失相殺が行われますが、この際に事故状況が立証できないばかりに不利な過失割合を押し付けられる可能性があります。
ご質問者様のお怪我はかなり大きなものですから、賠償金の金額も大きなものとなり、過失割合が10%でも不利になれば、最終的に受け取る賠償金の金額に数十万円から場合によっては数百万円の差が出てくる可能性があります。
相手は普通車と言う事ですから、怪我をしたのはおそらくこちらだけだと思います。
その場合に自動車運転過失傷害罪で罰金刑を受けたりする可能性があるのは、相手方だけです。
確かに、道路交通法違反での免許の点数と言う意味での行政罰を受ける可能性は、ご質問者様にもありますが、それはあくまでも免許の点数に関するものだけですから、最終的に受け取る賠償金の金額が相当不利になる可能性があることを考えれば、人身事故にしておくことを強くお勧めします。
なお、事故直後は特に外傷や痛みなどがなく、物損事故として届け出たけれど、後になって症状が出てきたような場合は、人身事故に切り替えることが可能です。 切り替えの方法について、詳しくは記事末尾のリンクで解説しています。
治療開始後の流れ
交通事故の被害に遭った場合、治療費や慰謝料といった保険金は、加害者側の任意保険会社との話し合い(示談)により請求することが一般的です。 ただし、交通事故でケガをした場合、すぐに示談交渉を始めたとしても、ケガの治療費がいくらかかるのかその段階では確定できません。 ケガの治療費については、ケガが完治した時点か、または症状固定(これ以上症状が改善しないと医師が認めた時)の時点で確定することになります。 そのため、示談交渉は、ケガの完治または症状固定のとき(これ以上回復困難であると医師が認めたとき)から本格的に始めたほうがよいでしょう。まずは、速やかにケガの治療を始めましょう。 被害者が入院治療、あるいは通院治療をしている間、任意保険会社が被害者の治療費を病院に直接支払う対応をしてくれることがあります(「一括対応」といいます)。 一括対応してもらえない場合でも、支払った治療費は、後から保険会社に支払いを求めることができます。 仕事を休むことになって、経済的に不安な方は、保険金を一部先に支払ってもらうなどの手段をとることもできます。 保険会社と連絡をとりながら、ケガの治療を進めていきましょう。
保険会社から治療費の打ち切りを告げられたら
治療が長期間に及ぶと、任意保険会社が「治療はそろそろ終わるはず(完治した)」あるいは、「これ以上回復しないところまで治療した(症状固定した)」と主張して、治療費の一括対応の終了を告げてくることがあります。 治療費が打ち切りになると、任意保険会社から病院への治療費の支払いが止まるため、被害者は病院から治療費を請求されることになります。 治療費の打ち切りを告げられた場合の対処法については、記事末尾のリンクで詳しく解説しています。
医師から完治を告げられたら
医師から「怪我が完治している」と告げられた場合、治療は終了することになります。 治療が終了したことによって、慰謝料や休業損害などの損害額が確定するため、それらを計算した上で、任意保険会社と交渉を進めていくことになります。
医師から症状固定を告げられたら
症状固定になった後は、残った症状について「後遺障害等級認定」の手続きを進めていくことになります。 後遺障害等級認定の制度は、後遺障害の症状の程度に応じて14の等級に分け、損害の額を算定する仕組みです。 等級が認定されると、等級に応じて後遺障害慰謝料や後遺障害逸失利益(後遺障害が残らなければ得られたはずの利益)を保険会社から支払ってもらうことができます。 後遺障害等級認定の申請方法は、記事末尾のリンクで詳しく解説しています。
示談交渉の流れ
ケガが完治し、または症状固定して後遺障害等級認定の手続きが済んだあとは、保険会社との示談を進めていきます。 加害者が任意保険に加入している場合、加害者の代理人として任意保険会社の担当者から示談交渉の連絡が来ます。 被害者が任意保険会社に加入している場合は、被害者の任意保険会社が示談交渉の窓口になってくれることがあります。 保険会社からは、ケガの治療費などの費目をまとめて保険金額として提案されます。提案された金額が適切かどうかを検討し、納得ができない場合は増額のための交渉を行います。 交渉の結果、最終的にお互いが合意できれば、示談が成立して保険会社から保険金が支払われます。
示談を弁護士に依頼するメリット
「保険会社との示談を自分で進められるか不安だ」「保険会社から提示された賠償金が妥当か判断できない」…。このような悩みがある場合、弁護士への相談を検討することも1つの方法です。 弁護士に依頼することで、保険会社との示談を代行してもらうことができます。また、個人で交渉するよりも高額の保険金を獲得できる可能性が高まるというメリットもあります。
気になる費用も、弁護士費用特約でカバー
弁護士に依頼したいという気持ちはあっても、弁護士費用の支払いが不安な人もいるでしょう。「弁護士費用特約」を使えば、実質的負担なしに弁護士に依頼することができます。 弁護士費用特約とは、弁護士に依頼した場合にかかる法律相談料や着手金、報酬金などの費用を、保険会社が負担してくれる、という内容の特約です。自動車保険や火災保険についていることが多いです。 被害者自身が加入している保険の弁護士費用特約を使うこともできますし、家族が加入している場合でも利用できる可能性があります。
弁護士に依頼するタイミングは?
基本的には、弁護士に依頼するタイミングは、早ければ早いほどよいといえます。 とはいえ、保険会社との交渉が続いている段階で、弁護士に依頼することが遅すぎるということはありません。 保険会社から保険金額を提示された後のタイミングであっても、弁護士に依頼することで保険金の増額が見込める可能性は十分にあります。 事故後のどのタイミングであっても、保険会社との交渉を負担に感じ、保険会社の対応に納得できない思いを抱いたときは、弁護士に依頼することを検討するとよいでしょう。
弁護士に依頼するメリットについてより詳しく知りたい方に向けて、記事の末尾に弁護士に依頼することのメリットや費用などについて詳しく解説した記事へのリンクがあります。ぜひ参考にしてみてください。
まとめ
交通事故のトラブル解決にあたり、弁護士に依頼すると、保険会社との示談交渉をはじめ、様々な手続きを代わりにおこなってもらうことができます。交通事故案件に注力する弁護士のサポートを受けることで、自分だけで対応するよりも手間やストレスをかけずに、より満足できる結果を得られるでしょう。 弁護士への依頼を検討している方に向けて、弁護士ドットコムでは、 この検索サービスを使うと、あなたの希望する条件に合った弁護士のプロフィールが一覧で表示されます。弁護士のプロフィールには、自己紹介や料金表、解決事例などの豊富な情報が掲載されているので、弁護士探しにぜひお役立てください。 弁護士検索サービスの使い方は、こちらの動画でも解説しています。