全損事故とはどのような事故か
全損事故は、次の3つのうちのどれかに当てはまる場合をいいます。
物理的全損
物理的全損とは、事故によって、車が修理できないほど激しく壊れてしまったケースです。
経済的全損
車が事故で激しいダメージを受けた場合、修理費が高額になることがあります。修理費が車の時価額以上にかかってしまうような場合、車を修理することができても全損事故として扱われます。この状態を「経済的全損」といいます。 たとえば、車の修理費が120万円として、車の時価額は50万円しかなかったというような場合です。
車の本質的な構造部分が壊れたケース(社会的全損)
見た目にはダメージがあるように見えないが、車の本質的な構造部分(フレーム部分など)が壊れた場合も、修理が難しいため全損事故として扱われます。
全損は「時価額」を限度に保険金が支払われる
保険会社から全損事故として判断された場合は、車の時価額を限度として保険会社から保険金が支払われます。 修理工場の見積もりが120万円であるのに対して車の時価額が50万円の場合(経済的全損)、車の被害について保険会社から支払われる保険金の限度額は50万円ということになります。
事故車(スクラップとなっても)でも売却する可能性があるため、厳密にはその売却代金が時価相当額から差し引かれることになります。
車の時価額の計算方法
車の時価額の算定には、主に以下の2つの方法が考えられます。
市場価格方式
一般的な計算方法として「市場価格方式」があげられます。 市場価格方式では、事故にあった車と同じ車種・年式・走行距離などの車を、中古車市場で購入するために必要な価額を時価額と考えます。 市場価格方式で時価額を計算するときには、中古車検索サイトの情報が参考になります。事故にあった車と同じ車種・年式・走行距離の車を検索し、時価額を計算します。 また、「レッドブック」という中古車市場価格の情報誌も参考になるでしょう。 レッドブックにはあらゆるメーカーの車種の中古車市場価格が、年式別、型式別に掲載されています。損害保険会社向けに発行されているため、一般的な中古車情報誌よりも信頼性が高いと考えられています。 裁判でも、レッドブックをもとに計算した時価額が認められたケースがあります。 ただし、古い年式の車などは、必ずしもレッドブックに掲載されていない可能性があります。掲載されていない車については、新車価格の1割を時価額と考えることが多いようです。
減価償却定率法
市場価格方式ではなく、税金の申告などの際に用いられる減価償却を利用して時価額を算定する場合もあります。 減価償却とは、簡単に言えば、時間が経過することによって減少していく「モノの価値」を算定する方法です。会社の資産などを予算計上するときなどに使われます。 「モノが使える期間(耐用年数)」は法律で定められていて、普通自動車の新車は6年とされています。 たとえば、新車から使い始めて6年後に事故にあった場合、残存率(残っている価値の割合)が10%で、新車車両価格の10%が時価額となります。市場価格方式の時価額よりも低くなる可能性があります。
最高裁の考え方
時価額の評価方法について、昭和49年4月15日の最高裁の判決では、中古車が事故で全損した場合の時価額は、原則として市場価格方式で算定すべきで、減価償却定率法はよほどの事情がない限り許されないとしています。 そのため、保険会社に対しては、原則として市場価格方式にもとづいて算出した額を主張していくことになるでしょう。 具体的には、事故車と同程度の中古車の成約事例や広告などで、できる限り高額なものを根拠として主張していくことになります(反対に、保険会社からは低額な事例が根拠として主張されることがあります)。
時価額の他に請求できる費目
保険会社に対して請求できるのは、必ずしも車の時価額だけとは限りません。以下の費用についても、請求が認められる可能性があります。
車の買換え諸費用
車を買い換えるにあたっては、車の時価額以外にもさまざまな費用がかかります。たとえば、以下のような費用です。 こうした買替えのための諸費用も全損の損害として認めた裁判例もあります。
- 検査登録費用
- 車庫証明取得費用
- 自動車取得税
- 車両整備費用
- 廃車費用
代車費用(レンタカー代)
車を修理している間や、買い換えて納車されるまでの間は、車が手元になくなってしまうため、代車(レンタカー)が必要になることがあるでしょう。 レンタカー代は、時価額とは別に保険会社に請求できる可能性があります。
代車費用については、この記事の下の「あわせて読みたい関連記事」で詳しく説明しています。