
新型コロナウイルスに関する労働問題Q&A集
新型コロナウイルスの感染拡大による従業員のテレワークなどの企業対応を受けて、弁護士ドットコムには労働者の方からさまざまな法律相談が寄せられています。テレワーク導入にかかる費用負担や休業を命じられた場合の補償など、よくある悩みをQ&Aの形にまとめました(政府が新しい支援制度などを発表した場合など、情報は随時アップデートしていく予定です)。 ※確定申告期間の延長など、新型コロナウイルスの影響による税務の悩みについては以下の記事を参考にしてください。 【税理士Q&Aも】確定申告期間の延長や助成金の特例措置はどうなる?新型コロナウイルスの影響まとめ
目次
- 休業について
- 発熱や咳などの症状があるとき、どうすればよいですか?
- 新型コロナウイルスに感染して会社を休んだ場合、休業手当はもらえますか?
- 発熱のため自主的に会社を休んだ場合、休業手当はもらえますか?
- 発熱があると会社に伝えたら、自宅待機を命じられました。休業手当はもらえますか?
- 同居の家族が感染したと会社に伝えたら、自宅待機を命じられました。休業手当はもらえますか?
- アルバイトでも有給休暇を取得できますか?
- 社内で感染者が出たら出社を拒否できますか?
- 風邪の症状により欠勤が続いた場合、どのような不利益がありますか?
- 子どもの休校を理由に有給休暇を取得できますか?
- 子どもの休校のために休職する必要があります。支援制度はありますか?
- 労働環境について
- その他
休業について
発熱や咳などの症状があるとき、どうすればよいですか?
Q
発熱や咳などの症状があります。新型コロナウイルス感染症かもしれません。まずはどうすればよいでしょうか?
A
会社に症状等を報告した上で仕事を休み、外出などを控えてください。仕事を休むのは、感染拡大の防止のためにも重要です。仕事を休む際には、有給休暇や病気休暇制度を活用することも考えられます。病気休暇制度の有無は会社によって異なります。利用を検討する場合は、就業規則などの規定を確認しましょう。場合によっては休業補償の対象になるので、休業補償に関して解説したQ&Aも参考にしてみてください。
新型コロナウイルスに感染して会社を休んだ場合、休業手当はもらえますか?
Q
検査の結果、新型コロナウイルス感染症にかかったことがわかったため、会社から休業を命じられました。休業手当は支払われますか。
A
新型コロナウイルス感染症は2月1日、感染症法上の「指定感染症」となりました。感染症法に定める「就業制限」により、感染者が休業する場合は、一般的には「使用者の責に帰すべき事由による休業」に該当しないため、休業手当は支払われません。ただし、被用者保険に加入している場合は、保険者(健保協会など)から傷病手当金(おおよそ直近12か月の平均の標準報酬日額の3分の2)が支給されることがあります。具体的な申請手続きや支給要件などは、加入する保険者に確認してください。
発熱のため自主的に会社を休んだ場合、休業手当はもらえますか?
Q
発熱があるため、新型コロナウイルス感染症かどうかはわかりませんが、念のため自主的に会社を休もうと思います。休業手当は支払われますか。
A
新型コロナウイルス感染症かどうかわからない状態で自主的に会社を休む場合、休業手当の支払いの対象とはなりません。会社に事情を説明して有給休暇を取得することや、有給の病気休暇制度が会社にあれば、そちらを活用することも考えられます。病気休暇制度が設けられているかどうか、就業規則などの規定を確認してください。会社は、就業規則の内容を従業員に周知することが法律で義務付けられています。就業規則をどこで確認すればよいのかわからない場合は、会社の労務部門などに問い合わせてみましょう。
発熱があると会社に伝えたら、自宅待機を命じられました。休業手当はもらえますか?
Q
微熱があるため会社に報告したところ、新型コロナウイルス感染症の可能性も否定できないとして、会社から自宅で待機するよう休業命令が出されました。勤務することは可能でしたが、休業手当は支払われますか。
A
会社の指示で休業することが、「使用者の責に帰すべき事由による休業」であれば休業手当が支払われます。業務が可能な従業員を使用者の判断で休業させる場合には、一般的に「使用者の責に帰すべき事由による休業」にあたるので、休業手当が支払われると考えられます。
同居の家族が感染したと会社に伝えたら、自宅待機を命じられました。休業手当はもらえますか?
Q
同居する家族が新型コロナウイルス感染症にかかりました。会社に報告したところ、自宅で待機するよう休業命令が出されました。私自身は元気ですがテレワークはできない職種です。休業手当は支払われますか。
A
会社の指示で休業することが、「使用者の責に帰すべき事由による休業」であれば休業手当が支払われます。厚労省の公表した資料によれば、感染が疑われる状況だったとしても、通常通り業務が可能な従業員について、使用者の判断で休業させる場合には、一般的に「使用者の責に帰すべき事由による休業」にあたるとされています。休業手当が支払われると考えられます。
アルバイトでも有給休暇を取得できますか?
Q
接客業のアルバイトをしています。感染のリスクを避けるためにしばらくシフトに入ることを避けたいのですが、アルバイトでも有給休暇を利用することはできるのでしょうか。
A
(1)雇い入れの日から6か月経過している、(2)その期間の全労働日の8割以上出勤した、という2つの要件を満たしていれば、有給休暇を取得することができます。「全労働日」とは、労働契約上で労働義務が課されている日のことです。たとえば週3回勤務のアルバイトであっても、8割以上出勤していれば、半年後には年次有給休暇が付与されます(週3回の場合は5日分)。
社内で感染者が出たら出社を拒否できますか?
Q
社内で感染者が発生しましたが、会社は「出社して問題ない」といって何も対応してくれません。窓口業務なので業務をするには出社する必要があります。出社を拒否できますか?
A
雇用契約の内容によりますが、窓口業務であれば、従業員は原則として出社して業務にあたる必要があります。有給休暇などを利用せずに出社を拒否すれば、業務命令違反を理由とした懲戒処分を受けるなどのリスクがあります。一方で、会社は従業員が業務にあたるために健康や安全に配慮する義務(安全配慮義務)を負っています。社内でコロナウイルスの感染者が出たにもかかわらず会社が何も対応しないことは、従業員への安全配慮義務違反となる可能性があります。会社には安全配慮義務違反の可能性があることを示して、適切な対応をするように交渉しましょう。
風邪の症状により欠勤が続いた場合、どのような不利益がありますか?
Q
風邪の症状があり、会社から出社を控えるように言われました。有給を使い果たしてしまったので欠勤が続いています。欠勤が続くとどのような不利益がありますか。
A
欠勤の日数により次年度の有給休暇が付与されない可能性があります。欠勤日数が前年度の出勤日の2割を超える場合、次年度の有給休暇が付与されません。会社に病気休暇の制度がある場合には、病気休暇とすることで欠勤扱いにならないようにできます。このような制度があるか確認しましょう。
子どもの休校を理由に有給休暇を取得できますか?
Q
子どもが休校になったので有給休暇を取得したいのですが、会社に許可してもらえません。休めないのでしょうか。
A
有給休暇は原則として理由を問わず取得できます。ただし、有給休暇を取得することが「事業の正常な運営を妨げる場合」には、会社が有給休暇の取得時季を変更することができます。まずは会社が有給休暇を許可しない理由を確認しましょう。会社が有給休暇を許可しない理由が「事業の正常な運営を妨げる場合」にあたる場合には、別の日に有給休暇を取得するように交渉しましょう。
子どもの休校のために休職する必要があります。支援制度はありますか?
Q
有給休暇の日数が残っていないため、子どもの休校のために休職する必要があります。収入が減ってしまうのですが、何か支援制度はありますか?
A
コロナウイルス拡大防止ために子どもが通う小学校が休校になったために休職して収入が減少した場合、その収入を補償する支援策を厚労省が公表しています。具体的には、年次有給休暇とは別に、有給休暇を取得させた企業に助成金を付与する制度です。正社員だけでなく、非正規雇用の方も対象になっています。制度を利用できないか会社に相談してみましょう。
労働環境について
会社がマスク着用を義務付けたら購入費用を負担してもらえますか?
Q
会社でマスク着用が義務づけられました。購入費用を会社に負担してもらえますか。
A
会社が従業員に対して、業務命令としてマスク着用を義務づける場合、マスクの費用は会社が負担する必要があります。会社には、従業員が安全で健康に働けるよう配慮する義務があり(安全配慮義務)、そのためにかかる費用は会社が負担しなければなりません。社内でのコロナウイルスの感染拡大を防ぐために会社が従業員にマスク着用を義務付けることは、会社の安全配慮義務にもとづく措置だと考えられるので、マスクの購入費用は会社が負担するべきだと考えられます。自費で購入するよう求められても、応じる必要はありません。「会社で用意してください」と言いましょう。やむを得ず自費で購入した場合は、領収書を提出して費用を請求しましょう。
在宅のテレワークにかかる光熱費や通信費を会社に負担してもらえますか?
Q
会社から在宅でのテレワークの指示が出ました。光熱費や通信費などの費用は自己負担になるのでしょうか?
A
まず、就業規則などでどのようなルールになっているか確認しましょう。会社によって、一部の費用は会社が負担する運用になっていたり、一定額の補償金を支払う運用になっていたりする場合があります。会社は、就業規則の内容を従業員に周知することが法律で義務付けられています。就業規則をどこで確認すればよいのかわからない場合は、会社の労務部門などに問い合わせてみましょう。会社が負担するルールがなくても、会社が社内でのコロナウイルスの感染拡大を防ぐ目的で、業務命令として在宅でのテレワークを指示している場合は、安全配慮義務に基づいて、会社に費用を請求できる可能性があります。
テレワークをしたいのに会社が対応してくれません。
Q
新型コロナウイルスの感染防止のため、在宅でテレワークしたいのですが、会社からはテレワークの可否について特にアナウンスがありません。どうしたらよいのでしょうか。
A
会社内でテレワークの制度などが整備されている場合には、その制度の範囲内でテレワークができます。まずは会社の就業規則などを確認してみてください。会社は、就業規則の内容を従業員に周知することが法律で義務付けられています。就業規則をどこで確認すればよいのかわからない場合は、会社の労務部門などに問い合わせてみましょう。制度が整備されていない場合は、テレワークの導入に助成金が出ることを説明して、会社に導入するよう相談してみましょう。通常のテレワーク導入のための助成金制度よりも申請のハードルが低い制度が新たにつくられています。こうした制度があることを会社に説明して、テレワークの導入を促してみましょう。
ノルマ達成のため、テレワークで深夜に働いた分の手当は支払われますか?
Q
テレワークですが、ノルマが厳しいため深夜まで自宅で働いています。深夜まで働いた分の手当は支払ってもらえますか?
A
就業規則などで深夜労働が原則禁止されていて会社の許可が必要な場合、無断で深夜労働をしても深夜残業代などの割増賃金が支払われない可能性があります。一方、ノルマ達成のために夜中でも仕事をするよう命じられているなど、会社の明確な指示にもとづいて深夜労働をした場合は、割増賃金を支払ってもらうことができます。会社の指示がない場合でも、深夜労働をしなければ達成できないほどノルマが厳しく、会社が深夜労働を黙認しているような場合は、時間外労働にあたり、割増賃金が支払われると考えられます。
自宅でのテレワークを命じられていますが自宅以外の場所で仕事しても大丈夫ですか?
Q
自宅でのテレワークを命じられていますが自宅では集中できないのでコワーキングスペースやネットカフェなどで仕事したいです。会社に黙って自宅外で仕事することは問題でしょうか?
A
会社から勤務場所を自宅に指定されている場合、自宅以外で業務にあたることは控えたほうがよいでしょう。会社は、従業員の安全に配慮して感染のリスクを下げるために自宅を勤務場所に指定していると考えられます。不合理な業務命令ではないので、無断で自宅外で業務にあたった場合、業務命令違反として懲戒処分を受けるリスクがあります。どうしても自宅以外のでの業務を希望する場合は、管理部門などに相談して、自宅以外の業務スペースを確保できないか相談しましょう。
子どもの世話でテレワークに支障が出たら人事評価で考慮してもらえますか?
Q
テレワーク中ですが、自宅に子どもがいて業務に集中できません。パフォーマンスが下がっても人事評価で考慮してもらえないのでしょうか?
A
従業員の人事評価については、ノルマが高すぎる、適正を全く考慮していないなど人事考課権の濫用にあたるような事情がない限り、会社は一定の裁量をもっています。子育ての負担でパフォーマンスが落ちてノルマを達成できずに低い評価がされたとしても、ただちに不当な人事評価にあたるとはいえません。一方で、会社は、従業員が在宅勤務と子育てを両立できるよう、できる限り支援することが社会的に求められています。まずは評価制度を確認し、ノルマや業務量の調整などを会社に相談してみましょう。
テレワークで夜中に仕事をしても問題ないですか?
Q
テレワーク中ですが、小学校が休校になり自宅に子どもがいるため日中は仕事に集中できません。夜中に仕事をしても問題ないのでしょうか。
A
一般的には、従業員の業務時間帯は雇用契約で決められています。従業員の業務時間帯は在宅勤務に変更になったとしても原則として変わりません。業務時間帯以外の業務は残業として深夜残業代などの割増賃金が発生することになりますが、就業規則などで残業が許可制になっている場合、無断で深夜に業務をしても割増賃金を支払ってもらえない可能性があります。深夜に業務にあたることを希望する場合は、雇用契約や就業規則などを確認して、必要があれば会社の許可を得てからするようにしましょう。会社は、就業規則の内容を従業員に周知することが法律で義務付けられています。就業規則をどこで確認すればよいのかわからない場合は、会社の労務部門などに問い合わせてみましょう。
熱があるのに出社しなければなりませんか?
Q
熱が37.8℃あります。会社に連絡したところ、渡航歴がなく新型コロナウイルス感染症の可能性が低いので出社するように言われました。出社しなければいけませんか。
A
熱がある従業員に出社を命令することは、従業員が安全で健康に働けるように配慮すべき会社の義務(安全配慮義務)に違反する可能性があります。会社に安全配慮義務違反の可能性があることを示して、仕事を休めるように交渉しましょう。なお、次のいずれかに該当する方は、最寄りの保健所などに設置される「帰国者・接触者相談センター」に相談してください。 (1)息苦しさ(呼吸困難)、強いだるさ(倦怠感)、高熱等の強い症状のいずれかがある場合 (2)「高齢者」「糖尿病、心不全、呼吸器疾患(慢性閉塞性肺疾患など)などがある人」「透析を受けている人」「免疫抑制剤や抗がん剤等を用いている人」は重症化しやすいため、発熱(※)や咳などの比較的軽い風邪の症状がある場合は、同センターに相談してください。 (1)(2)に当てはまらない場合でも、発熱や咳などの比較的軽い風邪の症状が4日以上続く場合は、必ず同センターに相談してください。 ※発熱の定義について、厚労省は「一般に、37.5度以上の場合は、発熱とみなします」としています。 【2020年5月13日更新】医療機関などへの相談の目安について、厚労省の資料に変更があったため、内容を修正しました。
妊娠中のため感染が不安です。接客業務から配置転換を求めることができますか?
Q
接客業務ですが、妊娠中のため感染が不安です。会社に配置転換を求めることはできるでしょうか?
A
会社は、妊娠中の女性が求めた場合は、他の業務に転換させなければならないことになっています。勤務している会社に接客以外にも担当可能な業務がある場合は、その業務への配置転換を求めましょう。ただし、接客以外に担当可能な業務がない場合は、会社には新たに担当可能な業務をつくることまでは義務付けられていないと考えられています。接客以外に担当可能な業務がない場合は、感染のリスクがなくなるまで休業や勤務時間の短縮などができないか会社に相談してみましょう。
その他
会社の備品のマスクや消毒液を持ち帰っても問題ないですか?
Q
会社から備品のマスクと消毒液を持ち帰りました。社内では自由に使えるのですが、問題はあるのでしょうか?
A
会社は、従業員が業務を進めるために必要な範囲で備品の利用を許しています。個人で利用するために持ち帰ることは、会社の許した利用範囲を超える行為なので、窃盗罪や横領罪などの犯罪にあたる可能性があります。
経営悪化による雇止めを拒否できますか?
Q
契約社員ですが、コロナウイルスの感染拡大の影響により会社の経営状況が悪化したことを理由に、契約更新はしないと伝えられました。拒否できないのでしょうか?
A
一般的な経営悪化のケースと同様に、これまで契約が何度も更新されていて、実質的に契約期間が定められていない契約と同じような状況があることや、契約更新が期待できるような合理的な理由があるなどの事情があれば、経営状況が悪化していたとしても、雇止めができない(無効になる)可能性があります。経営状況が悪化していたとしても、たとえば人員削減以外に経費を削減する方法があったなど、雇止めを回避するための措置を会社が実施していない場合には、雇止めが無効になる可能性があります。
経営状況の悪化を理由に退職勧奨を受け、リストラもほのめかされています。拒否できますか?
Q
正社員として働いていますが、コロナウイルスの感染拡大の影響による経営状況の悪化で退職を求められました。断ればリストラされるかもしれません。どうすればいいのでしょうか。
A
退職勧奨はあくまで任意での退職を促す手段なので、退職する意思がなければ、そのことをはっきりと伝えましょう。会社から「退職勧奨に応じなければリストラする」などと告げられても、応じる必要はありません。解雇が認められない(無効になる)可能性があります。リストラは、会社が解雇を回避する努力をしたか、対象者の選び方は適切だったかなど、さまざまな条件をみたさなければ無効になる可能性があります。
テレワーク中に自宅で負ったケガは労災になりますか?
Q
テレワーク中に自宅のトイレに行く途中に転んで骨折してしまいました。労災になる可能性はあるのでしょうか?
A
テレワーク中のケガでも、業務の遂行に付随したケガであれば労災と認められる可能性があります。自宅で所定労働時間中にパソコン業務をしていた人がトイレのために離席し、作業場所に戻ってイスに座ろうとして転倒した事故が労災認定されたケースがあります。一方、掃除や洗濯など業務と関係ない家事をしていてケガをしたような場合は、在宅勤務中であっても労災の対象外になる可能性があります。労災保険の手続きについては、会社の管理部門などに確認しましょう。自分で手続きをする場合には、労働基準監督署に労災保険の給付を申請しましょう。