
丁寧なヒアリングと専門性の高さで「依頼者の期待を超える解決」を実現
「ブラックな労働環境を変えたい」その思いが弁護士を目指した原点
ーー清水先生が弁護士を目指したきっかけは?
弁護士を目指そうと考えたのは社会人経験を経てからです。もともとは映画監督を目指していて、大学は文学部でフランス文学を学んでいました。大学を卒業して映像制作の仕事をしていたのですが、とても過酷な労働環境だったんです。2年間、ほぼ休みなく1日20時間くらい働いていました。
働くか寝るかのどちらかという生活で、同僚は精神的に病んで次々に辞めていきました。「どうにかならないのか」と思い会社に掛け合ったのですが、何も変わらなくて。はじめて労働基準法という法律を調べてみたんです。そのとき、自分がどれだけ無知だったこと、法律があってもそれだけでは会社は変わらないということに気づきました。それなら自分で何とかしようと思い、弁護士を目指そうと決めたんです。
ーー法律に関してはゼロから挑戦。司法試験合格までに苦労もあったのでは。
当時はロースクール制度がはじまったばかりだったので、まずはロースクールに進学しようと。ロースクールの費用を稼ぐために不動産業に転職して2年かけて学費をためました。このときの経験は、弁護士になり不動産分野に注力するようになってから活きています。
ロースクールは、法律を学んだことがない人向けの「未修者コース」に入ったのですが、ほとんどは法学部出身者や法律の仕事をしていたという人ばかりで、純粋未修者は私も含めて数名しかいませんでした。最初は授業についていくことにも苦労しました。
周囲に追いつくためにとにかくがむしゃらに勉強しました。映像制作の仕事で1日20時間働いていたので、それに比べれば辛くはありませんでした。1日20時間365日勉強したら司法試験だって合格できるだろうと、そう思ってがむしゃらにやりましたね。
弁護士資格を取得して即独立しました。7年ほど一人で事務所を運営してから、大先輩の弁護士に声をかけていただいて、今の事務所に移籍しました。
「依頼者の期待を超える解決を」
ーー現在はどういった分野に注力しているのでしょうか。
2つあって、ひとつは労働問題です。そもそも弁護士を目指したきっかけが、自身のブラックな労働環境を変えたいという思いで、ロースクールでも労働法を選択していました。労働者側、使用者側、どちらからの依頼にも対応しています。
もう1つは不動産分野です。不動産売買は通常の売買とは異なり、金額が大きく、状況が複雑になりやすいので、紛争になった場合も簡単には解決しません。私は不動産業界で働いた経験があるため、買う側・売る側、借りる側・貸す側、いずれの立場も熟知しており、どの立場からの相談でも柔軟に対応することが可能だと自負しています。
ーー弁護士として依頼者と接する上で心がけていることはありますか。
当然のことではありますが、依頼者の話をよく聞くことです。
依頼者もご相談者も、相談に訪れたときに明確に自分の希望や解決が見えていないことがあります。そうしたご相談者、依頼者自身が気づいていない希望や解決の道を、一つ一つ丁寧にヒアリングして、深ぼって探していくことが大切だと考えています。悩み事の内容だけでなく、依頼者・ご相談者自身を理解するーー。そうした姿勢でお話を伺っています。
ーー依頼者自身が自分の望む解決が見えていないというのは、どういったことでしょうか。
たとえば、「離婚したい」と相談に来た方でも、よくよく話を聞いていくと、実は離婚は望んでいなかった、ということはあります。
最初から100パーセント結論を決めて相談に来る方は少ないと思います。悩みにはグラデーションがあります。離婚を望む気持ちが90パーセントなのか、フィフティ・フィフティなのか。子どもの親権、経済的な不安、義両親との不仲、そういった様々な悩みを聞いていくうちに、離婚しないということが解決になることもあります。
依頼者から言われたとおりに対応するのが弁護士という考え方もあると思いますが、私はより踏み込んで話を聞き、依頼者の期待を超える解決を実現したいと思い一つ一つの事件に取り組んでいます。
ーー悩みがあったら、自分の中での考えがまとまっていなくても、とりあえず相談に来てほしいと。
いえ、決してそんなことではないですね。電話で少し話して解決できるものは、そこで終わりでよいと思っています。本当は、来てもらった方が仕事につながるのでしょうけど(笑)。電話で、無料でお話を聞いてるんですけど。電話で解決できるなら電話で解決するというスタンスです。「とりあえず来て下さい」とは言いません。
「安心して働ける労働者を増やしたい」その思いで勝ち取った判決
ーー清水先生自身がブラックな労働環境で働いた経験があると先程お話がありました。労働問題ではどういった問題意識で取り組まれているのでしょうか。
ブラックな労働環境を改善することはとても難しくて、草の根的な活動に地道に取り組んでいます。
たとえば、映像やアニメーターの仕事をしたいという若者は大勢います。労働環境を改善してほしい、待遇を良くしてほしいと訴えても、映像制作やアニメーションの会社は、「あなたが辞めても同じ賃金で働きたい人はたくさんいます」というスタンスで取り合ってもらえません。
そもそも、アニメーション・映像制作の業界では待遇を良くしたら潰れてしまう会社も少なくありません。労働者も「潰れてしまうなら我慢します」ということになる。ですから、ブラックな環境で働く労働者に対しては、現場を変えるのではなく、環境や待遇がより良い企業に転職するようサポートすることが多いです。ブラックな企業が自然に淘汰されて、社会全体に健全な企業が増えるように、地道に活動しています。
ーーこれまで担当した事件、裁判で印象に残っているものはありますか。
「独立したことを理由に会社から損害賠償を請求されている」と、ある美容系の職業の方からの依頼で対応した裁判が印象に残っています。
依頼者の方は、会社の支店で働いていたのですが、そこから独立して近隣で同様のサービスを立ち上げました。すると会社は「支店を閉めることになり、また競合となるサービスをはじめたことによって売上が奪われている」ことなどを理由に1000万円以上の賠償を求めてきたのです。
職業選択の自由がありますから、退職することも、独立して同様のサービスを立ち上げることも自由です。私はそう考えて、会社からの請求は認められないはずだと思い戦ったのですが、一審ではほとんどの請求は認められなかったものの、約250万円程度の賠償を支払えという判決が出たんです。
職業選択の自由があり自由競争が原則である社会で、一部であっても賠償を認めることはおかしいと考え、控訴して戦いました。その結果、高裁では完全勝訴、つまり損害はゼロだという判断が出たんです。ごく簡単に説明すれば「会社に損害を与えるような目的で退職・独立したのでなければ、そのことを理由とした損害賠償は認められない」という理由でした。
この判決はまだ発表できていないのですが、実は結構影響のある判決なのではないかと考えています。労働問題の電話相談でも、同様の相談を受けることは少なくありません。規模の大きい支店の支店長や、会社でその人しか担当できない業務領域がある人などは、「自分が会社を辞めると損害賠償請求されるのではないか」と心配しているんです。
労働者がそうした請求をされることは原則としてないという、ある意味当たり前のことが判決になりました。この判決が広く知られれば、安心する労働者の方も多いのではないかと考えています。
ーー最後に、法律問題で悩んでいる方に向けてメッセージをお願いします。
とにかく、まずは電話でもよいので早めに相談してほしいと思います。
トラブルが本格化する前に、「これって大丈夫かな?」と不安を感じる瞬間があると思います。その時点で相談してくれれば大抵解決します。「たいしたことではない」「弁護士に相談するようなことじゃない」。そんなふうに考えて先延ばしにするうちに、トラブルはどんどん複雑化して、とれる手段も減っていきます。
先程お話したように電話で解決することもあります。ひとりで不安を感じているなら、まずは相談してください。