
未婚のパートナーと別れるとき慰謝料や財産分与を求めることができるケース
結婚していないパートナーと別れる場合であっても、パートナーとの関係が「内縁関係」といえる場合は、離婚する場合と同様に、パートナーから慰謝料などを支払ってもらえる可能性があります。 この記事では、内縁関係とはどのような関係なのか、慰謝料などの支払いについてもめた場合はどうすればよいのか、といったことについて詳しく解説します。
目次
内縁関係とは
あなたとパートナーの関係が、単に交際している男女という関係を超えて、結婚している夫婦同然の関係(内縁関係)といえるような場合は、別れる際に、結婚している夫婦と同様の請求をすることができる可能性があります。
具体的には、2人で築いた財産を分け合うことや、別れる理由によっては、慰謝料の支払いを求めることができます。
内縁関係と認められたケース
お互いが、自分たちの関係を「夫婦同然」と考えていたような場合であれば、「内縁関係かどうか」という点で争いになることは少ないでしょう。 一方で、双方の認識がずれているような場合は、内縁関係だったのかどうかということを、調停や裁判の中で、裁判所に関与してもらった上で明らかにしていく必要が出てきます。 では、具体的に、パートナーとどのような関係であれば、内縁関係といえるのでしょうか。 実際の裁判例を素材に紹介していきます。
内縁関係の解消にあたって財産分与が認められたケース
これは、内縁関係解消に伴い、女性から男性に対して財産分与を求めたケースです(岐阜家裁昭和57年9月14日審判)。 裁判所は、以下のような事実を重視して、女性と男性が内縁関係にあったことを認めました。
・同居期間が少なくとも7年に及んでいた
・女性は男性に対して入籍をしたいと求めていたが、男性から拒否・無視され続けていた
・男性は、飲食店の店舗を借りた時に、女性を保証人とした
・店の売上げ管理や銀行取引きは主に女性がおこなっていた
・取引先の銀行の職員が、女性を「奥さん」と読んでも、男性は異議を唱えなかった
その上で、裁判所は、男性は女性に対して、290万円の財産を分与するべきと判断しました。
内縁関係の解消にあたって慰謝料の支払いが認められたケース
このケースでは、男性からの暴力や、男性が他の女性と性的関係を持ったこと(不貞行為)によって内縁関係を解消することになったとして、女性が男性に対して、慰謝料を請求しました。(東京地裁平成28年5月20日判決)
・女性と男性は、交際開始後、婚約をして婚姻届を作成したが、提出しないまま交際を続けていた
・女性と男性は、交際期間中、婚姻届に何度かサインするなどしていた
・女性と男性は約12年間同居していた
・一時的に同居を解消した時期もあったが、その間も、男性は女性に対して、婚姻届を提出することや、「一緒になること」を求める文言や、女性に対する好意を書いたメールを送っていた
裁判所はこのような事実を認めた上で、当時の男性に、女性と結婚する意思があったことは客観的に明らかだとして、2人が内縁関係にあったと判断しました。 このように、内縁関係かどうかを判断する上では、「同居していたか」「同居期間の長さ」「結婚する意思があったか」「周囲の人からも夫婦として認識されていたか」といった点が考慮要素となる傾向があるようです。
内縁関係と認められるとどうなるのか
内縁関係と認められると、法律上、結婚している夫婦とほぼ同様のルールが適用されることになります。
慰謝料や財産分与を求めることができる
結婚している夫婦が離婚する場合、離婚の原因を作った配偶者に対して慰謝料を請求することができます。 結婚している間に貯めたお金や不動産などを一定の割合で分け合うこと(財産分与)や、年金分割を求めることもできます。 内縁関係を解消する場合も、財産分与や慰謝料の支払い、年金分割を求めることができます。
慰謝料
「パートナーが、自分以外の異性と性的関係を持った」「パートナーから暴力を振るわれていた」。 このような理由で内縁関係を解消する場合、精神的ダメージを受けたことを理由に、パートナーに慰謝料を請求することができます。 先ほど紹介したケース(東京地裁平成28年5月20日判決)では、男性が女性と内縁関係にあった間に、他の女性と不貞行為に及んだこと、男性の暴力や不貞行為によって内縁関係を解消せざるをえなくなったことを理由に、慰謝料の請求が認められました(約286万円)。
財産分与
パートナーと一緒に生活している間に貯めたお金や、手に入れた不動産、車などの財産がある場合は、別れるにあたって、それらの財産を一定の割合で分けるよう、パートナーに要求することができます。財産分与といいます。 財産分与の対象となるのは、以下のような財産です。
- 預貯金
- 有価証券
- 不動産
- 生命保険・個人年金
- 自動車
- ゴルフ会員権
- 退職金
一般的に、財産を2分の1ずつ分けあうことが実務上の運用となっています。
年金分割
年金分割とは、パートナーが支払っている厚生年金保険料の納付記録を分けてもらい、将来あなたが受け取れるはずの年金額に反映させることができるという仕組みです。 年金分割では、内縁関係だった間の、厚生年金保険料を納めてきた実績(記録)を、パートナーと一定の割合で分け合います。 簡単に言えば、内縁関係だった間にパートナーが支払った厚生年金保険料を、最大で半分まで「あなたが支払った」と扱って、あなたが将来受け取る年金額を計算するという仕組みです。 あなたが第3号被保険者としてパートナーの扶養に入っていた場合、2008年4月1日以降にパートナーが納めた厚生年金保険料は、パートナーの合意がなくても分割することができます。この仕組みを年金分割といいます。分割する割合は2分の1と決められています。 パートナーと別れた後、日本年金機構が運営する年金事務所へ申請すると、2分の1の割合で分割してもらうことができます。
パートナーとの話合いがまとまらない場合
内縁関係の解消にあたって、パートナーと慰謝料や財産分与について話し合ったけれど、折り合いがつかないこともあるでしょう。
内縁関係を解消するかどうか、そもそも2人の関係が内縁関係といえるのか、といったことをめぐってもめることもあるかもしれません。
パートナーと話し合っても合意できない場合、家庭裁判所の「内縁関係調整調停」という手続きを利用することで、解決を目指すことができます。
調停では、調停委員(弁護士や医師など)という第三者をまじえて話合い、あなたとパートナーが納得できる着地点を探っていきます。
申立てをする人
あなたか内縁関係のパートナーのいずれかが申立てをします。
申立先
次のいずれかの裁判所に申し立てます。
- 相手の住所地を管轄する家庭裁判所
- あなたとパートナーが合意で定める家庭裁判所
どの裁判所に申し立てればよいのかは、記事末尾のリンクから確認できます。
申立てに必要な費用
- 申立書とそのコピー ※裁判所のウェブサイトからダウンロードできます。「夫婦関係等調整調停申立書」という名称ですが、内縁関係のカップルもこの書類を提出します。記載例も見られます。
- 年金分割のための情報通知書 ※年金分割割合についても話し合いたい場合に必要
- 収入印紙1200円分
- 連絡用の郵便切手 ※申立てをする裁判所によって金額が異なります
上記の他、追加の書類が必要な場合もあります。
調停でも解決しない場合
調停で話し合っても納得できず、裁判所や、当事者自身が解決の見込みがないと判断した場合は、調停は不成立となり終了します。 調停で解決できない場合、最終的には裁判を起こして裁判所に判断を求めていくことになります。裁判を起こす場合は、専門家である弁護士に依頼することをおすすめします。
パートナーとの間に子どもがいる場合
籍を入れていないパートナーであっても、パートナーとの間にできた子どもをあなたが育てていく場合は、別れたあと、子どもを育てるために必要なお金(養育費)をパートナー(父親)から支払ってもらうことができます。 養育費は、パートナーとの関係がどのようなものであっても請求することができます。極端な話、「その場限りの関係」を結んだようなケースであっても、父親である相手方に養育費を求めることができます。 ただし、養育費を支払ってもらうためには、パートナーに「認知」をしてもらう必要があります。詳しくは次の記事で解説しています。