離婚後の子供の苗字はどうなる?
結婚するときに苗字を変えた人(戸籍の筆頭者でない人)は、離婚すると自動的にもとの苗字に戻ります(復氏)。結婚時の苗字を名乗り続けたい場合には「婚氏続称届」を役所に提出します。 子供の苗字は、親が離婚しても変わりません。 そのため、離婚して親権者の苗字が変わった場合、そのままでは親と子供の苗字が異なる状態になります。 こうした場合に、子供を親と同じ苗字にするためには、別途変更の手続きが必要です。
妊娠中に離婚した場合の子供の苗字は、離婚から300日以内に出産した場合は、結婚していた時の夫婦の苗字になります。一方、離婚から300日を超えて生まれた子供は、母親の苗字になります。
子供の苗字を変える方法
子供の苗字を変えるには、「子の氏の変更許可申立書」を家庭裁判所に提出し、家庭裁判所の許可を得る必要があります。さらに、このあと説明するように、子供の戸籍を移動させる手続きが必要です。
離婚後の子供の戸籍はどうなる?
結婚するときに苗字が変わった人(戸籍の筆頭者でない人)は、離婚すると、結婚時の戸籍から抜けることになります。結婚時の苗字をそのまま使い続ける場合でも、戸籍は別々になります。 一方、子供の戸籍は親が離婚しても変わりません。 そのため、親権者など子供を養育する親が戸籍から抜けた場合、親と子供の戸籍が異なる状態になります。 こうした場合に、子供を親と同じ戸籍にするためには、別途変更の手続きが必要です。
妊娠中に離婚した場合の子供の戸籍は、離婚から300日以内に出産した場合は、元夫との子供と推定されて元夫の戸籍に入ります。離婚から300日を超えて生まれた場合は、法律上の婚姻関係にない男女の間に生まれた子(非嫡出子)として、母親の戸籍に入ります。その場合でも、実の父親が認知すると、法律上の父親として認められます。
離婚後に子供の戸籍を移動させる手続き
子供の戸籍を移動させる手続きをしなければならないかどうかは、子供の苗字をどうしたいのかによって異なります。
苗字 | 戸籍 | |
---|---|---|
1 | 子供も親の旧姓に変えたい | 同じ戸籍に入る必要あり |
2 | 親は旧姓に戻すが、子供は結婚中の苗字のままでいたい | 別の戸籍のままでOK |
3 | 親も子供も結婚中の苗字のままでいたい | 同じ戸籍にしても別々でもOK |
親と子供が同じ戸籍に入るためには、同じ苗字である必要があるので、苗字が異なる場合に同じ戸籍に入ることはできません(同氏同籍の原則)。
子供の戸籍を移動したあとに元に戻すには、子供が成人してから1年以内に市区町村役場に入籍届を提出します。子供の成人まで待てない場合や、成人から1年を過ぎてしまった場合には、改めて子の氏の変更許可の手続きを行ない、苗字を変更してから入籍届を提出します。
子供も親の旧姓に変えたい場合の子供の戸籍の手続き
子供も親の旧姓に変えたい場合には、同じ戸籍に入る必要があります。 この場合の手続きとして、まず離婚する際に、旧姓のあなたを筆頭者とする新しい戸籍を作ります。離婚する際に新しい戸籍を作らず実家の戸籍に戻った場合には、分籍の手続きをして新しい戸籍を作ります。 その後、子供の苗字を変えることを家庭裁判所に許可してもらう手続き(子の氏の変更許可の審判)を行ない、許可が得られたら、子供を親の戸籍に入れる手続き(入籍届の提出)をします。
15歳未満の子供の場合、子の氏の変更許可の手続きは、親権者が申し立てます。子供が15歳以上の場合には、子供の意思が尊重されるため、子供本人が申し立てます。親権者がすることは原則としてできません。
親は旧姓に戻すが、子供は結婚中の苗字のままでいたい子供の戸籍の手続き
親は旧姓に戻るけど、子供は結婚中の苗字のままにしたい場合には、別の戸籍となります。この場合の手続きは、特に必要ありません。
親も子供も結婚中の苗字のままでいたい場合の子供の戸籍の手続き
親も子供も結婚中の苗字を使いたい場合には、同じ戸籍にしてもいいし、別々の戸籍のままにしておくこともできます。 同じ戸籍にする場合には、まず離婚する際に、あなたを筆頭者とする新しい戸籍を作ります。そして、離婚後も結婚中の苗字を名乗るための手続き(婚氏続称届の提出)をします。 その後、子の氏の変更許可の審判を行ない、家庭裁判所の許可が得られたら、入籍届を提出します。元々の戸籍の苗字と、新しい戸籍の苗字は、一見同じですが、戸籍上は異なる苗字と扱われるため、子の氏の変更許可の審判が必要です。 別々の戸籍にする場合には、離婚する際に、あなたを筆頭者とする新しい戸籍を作ります。そして婚氏続称届を提出します。子供の手続きは特にありません。 この場合、あなたも子供も同じ苗字になりますが、戸籍が異なるため、戸籍上は別の苗字ということになります。
子供の戸籍を移動する手続きにかかる期間と費用
子供の戸籍を移動させるためには、①あなたを筆頭者とする新しい戸籍を作る、②子の氏の変更許可の審判を申し立てる、③入籍届を提出することが必要です。それぞれのやり方と、手続きにかかる期間、費用などを説明します。
あなたを筆頭者とする新しい戸籍を作る
あなたを筆頭者とする新しい戸籍を作るには、離婚届の「婚姻前の氏にもどる者の本籍」という欄で、「新しい戸籍を作る」を選んで提出します。 離婚する際に新しい戸籍を作らず実家の戸籍に戻った場合には、分籍の手続きをして新しい戸籍を作ります。分籍をするには、市区町村役場に「分籍届」を提出します。分籍届は全国の市区町村役場で入手できます。 分籍届を提出する際には、届出人の印鑑が必要です。また、違う市区町村に本籍地を置く場合には戸籍謄本(戸籍全部事項証明書)も必要です。戸籍謄本(戸籍全部事項証明書)を取得するために手数料が1通450円かかります。
子の氏の変更許可の審判
子の氏の変更許可の審判を申し立てるには、「子の氏の変更許可申立書」を子供の住所地を管轄する家庭裁判所に提出します。 申立書は、裁判所のホームページでダウンロードすることができます。 必要書類は、申立書のほかに、子供の戸籍謄本(全部事項証明書)と、父・母の戸籍謄本(全部事項証明書、離婚の記載があるもの)がそれぞれ必要です。戸籍謄本(全部事項証明書)を取得するために手数料が1通450円かかります。 申立てに必要な費用は、子供1人につき収入印紙800円分です。また、連絡用の郵便切手が必要です。連絡用の郵便切手は家庭裁判所により異なりますが、東京家庭裁判所の場合は282円です。 子の氏の変更許可の審判を申し立ててから、家庭裁判所の許可が下りるまでの期間は、最短で即日、長くて1週間程度が目安です。
入籍届を提出する
入籍届を提出するには、入籍届を届出人の本籍地または住所地にある市区町村役場に提出します。入籍届は全国の市区町村役場で入手できます。 入籍届の提出時に必要なものは、入籍届のほかに、届出人の印鑑、子供の戸籍謄本(全部事項証明書)、父・母の戸籍謄本(全部事項証明書、離婚の記載があるもの)、家庭裁判所の発行した許可の審判書です。戸籍謄本(全部事項証明書)を取得するために手数料が1通450円かかります。
離婚後に子供の戸籍を移動させた方がよい?メリット・デメリット
子供の戸籍をあなたと同じにした場合と、別々の戸籍のままにしておく場合、それぞれのメリットとデメリットとしては、たとえば次の点があげられます。
同じ戸籍にする | |
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メリット |
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デメリット |
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別々の戸籍にしておく | |
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メリット |
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デメリット |
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子供の戸籍をあなたと同じにするメリットは、戸籍謄本を取得するときに手続きが楽なことです。別の戸籍でも子供の戸籍謄本を取得することは可能ですが、親権者であることの証明などが必要になります。また、引越しなどで本籍地が違う都道府県や市区町村になる場合には、取りに行ったり、郵送での取り寄せになったりして、手間や時間がかかることがあります。 子供の戸籍をあなたと同じにするデメリットは、子供の戸籍を移動させるための手続きが面倒なことです。これは、面倒な手続きを回避できるという意味で、別々の戸籍にしておくことのメリットともいえます。 子供の戸籍とあなたの戸籍を別にするデメリットは、2つあります。まず、子供の戸籍謄本を取得する手間がかかることです。これは、戸籍を同じにするメリットの裏返しです。 もう1つは、元配偶者に住所を把握される可能性があることです。元配偶者とあなたは別の戸籍になるため、元配偶者があなたの戸籍を取得することは原則としてできません。しかし、以下のような方法で、元配偶者が離婚後の住所を把握する可能性があります。 戸籍には「附票」といって、その戸籍が作られてからの住民票の住所を記録する書類があります。離婚後、子供の戸籍を移動させないまま子供と一緒に暮らしていると、子供の戸籍の附票に離婚後の住民票の住所が記録されます。 子供の戸籍は元配偶者と同じ戸籍なので、元配偶者が戸籍の附票を取得することができます。そのため、離婚後の住民票の住所が元配偶者に知られる可能性があります。
子供の苗字を旧姓にする場合には、名前が変わったり、親の離婚を周囲に知られたりすることで子供のストレスになるというデメリットがあります。子供の苗字をどうするかについては、子供とよく話し合って、子供の意思を尊重するようにしましょう。
子供の戸籍がそのままだと住民票はどうなる?
離婚をしても、住民票が自動的に変更されるわけではありません。離婚によって住所が変わった場合には、住民票の異動(転入・転出・転居)の手続きを別途行ないます。 離婚後、子供の戸籍がそのままで、あなたと戸籍が別になった場合でも、住所が同じで同一の生計を営んでいる(家計の財布が同じ)場合には、同じ世帯として住民票に登録することになります。 住民票の住所は、戸籍の附票に記録されます。先ほども説明したとおり、子供と戸籍が異なる場合には、元配偶者が戸籍の附票を取得することで、元配偶者に離婚後の住所を把握される可能性があります。
離婚後の子供の戸籍によって健康保険の扶養はどうなる?
離婚をしても、子供の健康保険の扶養が自動的に変更されることはありません。夫の扶養から妻の扶養に、あるいは逆にする場合には、別途手続きが必要です。 もともと入っていた子供の扶養をそのまま継続することもできます。 子供と親の戸籍が同じ場合でも別の場合でも、子供の扶養を変更することができますし、逆にそのまま継続することもできます。
離婚後の子供の戸籍によって母子手当はもらえる?
母子手当とは、離婚によるひとり親世帯などに支給される手当です。「児童扶養手当」と言います。 児童扶養手当は、子供とあなたの戸籍が別の場合でも受給することができます。
成人した子供の戸籍を離婚後に移動させるメリット・デメリットは?
子供が成人した場合でも、戸籍と苗字の選択肢は未成年のときと同じです。 戸籍と苗字をどうするかは成人した子供自身が決めることになります。手続きは子供自身で行ないます。 成人した子供の戸籍を離婚後に移動させるメリットは、未成年の子供の場合と同じで、戸籍謄本を取得する際の手続きが楽になることが考えられます。 反対にデメリットは、子供の戸籍を移動させる手続きが面倒だということが考えられます。 なお、成人した子供の場合は、分籍の手続きをすることで、父親からも母親からも独立した戸籍を新しく作ることができます。
離婚後に成人した子供が戸籍を移動させたとしても、相続に影響はありません。
離婚後に子供の戸籍がそのままでも再婚できる?
離婚後に子供の戸籍がそのままの場合(元配偶者の戸籍から移動させていない場合)でも、再婚することは可能です。 再婚した場合、子供の戸籍は再婚相手の戸籍には入らず、再婚前の戸籍に残ることになります。これは、子供の戸籍が元配偶者の戸籍に入っている場合でも、あなたの戸籍に移動させた場合でも同じです。 再婚相手と子供は、再婚しただけでは法律上の親子関係にはなりません。再婚相手と子供が法律上の親子になるためには、養子縁組をすることが必要です。再婚相手と子供が養子縁組をした場合の戸籍はどうなるのでしょうか?
相談者の質問
再婚時の子供の戸籍について相談です。
離婚時、子供の戸籍は元夫にあります。親権は母親の私にあります。子供と一緒に暮らしています。
再婚することになり、子供を養子縁組したいと再婚相手に言われました。子供は15歳以上なので同意し、養子縁組をする予定です。この場合、養子縁組の手続きで子供の戸籍を元夫のところから移動出来るのでしょうか?
弁護士の回答川添 圭弁護士
お子さんが元夫の戸籍に入籍した状態でも(つまり子の氏の変更許可により現在のあなたの戸籍へ入籍させなくても)、養子縁組すれば、再婚相手の戸籍へ直接入ることができます。ただし、その場合、元夫の戸籍のお子さんの身分事項には、養子縁組の記載と縁組後の本籍・筆頭者氏名が記載される点にご留意ください(そのため、敢えて、子の氏の変更許可を受けて監護親の戸籍へ入籍させてから養子縁組する人もいます)。
離婚後の子供の戸籍謄本の記載
離婚後、子供の戸籍をそのままにしている場合には、子供の戸籍謄本には特に何も記載されません。 子供の戸籍を移動させた場合、新しい戸籍の戸籍謄本には以下の内容が記載されます。
- 身分事項:入籍
- 届出日
- 除籍事由:母(父)の氏を称する入籍
- 従前戸籍:旧戸籍の本籍地・筆頭者
これまでに入っていた戸籍の戸籍謄本には、以下の内容が記載されます。
- 身分事項:入籍
- 届出日
- 除籍事由:母(父)の氏を称する入籍
- 入籍戸籍:新しい戸籍の本籍地・筆頭者
子の苗字の変更ができる期間はいつまで?
子供の苗字を変更するのに期限はありません。 子供が15歳になると、子供自身が親権者の同意を得ることなく苗字の変更を申し立てることができるので、それまでは苗字を変えないでいるという方法もあります。
まとめ
離婚後の子供の戸籍は、そのままだと結婚したときに苗字が変わらなかった親(戸籍の筆頭者)の戸籍に残ります。結婚したときに苗字が変わった方の親の戸籍に移動させる場合には、別途手続きが必要です。 子供の戸籍をどうするかには、子供の苗字の変更が関わってきます。苗字が変わることで子供のストレスになることも考えられるので、子供の苗字については子供とよく話し合い、子供の意思を尊重するようにしましょう。 そのほかにも、「子供の親権をどちらにするか決まらない」「離婚後に養育費などの支払いが滞ったらどうしよう」といった不安を感じている方は、弁護士への相談を検討することをおすすめします。 法律の専門家である弁護士は、あなたが有利な条件で離婚できるよう、また、慰謝料や養育費といったお金を確保できるよう、サポートしてくれます。離婚届を提出する前に、弁護士からのアドバイスを受けておくことで、不安なく離婚に踏み切ることができますし、離婚後のトラブルも防げるでしょう。
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子供の親権や面会交流のルールなどについては、こちらの記事で詳しく解説しています。