養育費の未払いを強制執行(差し押さえ)で回収する方法|給料を差し押さえる条件と手続き・費用を解説

「養育費が急に振り込まれなくなった」「何度お願いしても払ってくれない」とお悩みではありませんか?

本記事では、相手の給料や口座から未払い分を回収する「強制執行(差し押さえ)」の仕組みや手続き、必要書類を解説します。

回収の見込みや注意点を確認し、不安を解消するためのヒントとしてお役立てください。

目次

  1. 養育費の強制執行(差し押さえ)とは?回収する仕組みと条件
  2. 養育費の差し押さえ対象は「給料」がもっとも有効な理由
  3. 養育費の強制執行(給料の差し押さえ)の手続きと流れ
  4. 養育費の強制執行にかかる費用・期間・必要書類まとめ
  5. 相手の勤務先や口座が分からない・強制執行できないケースの対処法
  6. 差し押さえが止まるリスクへの備え|養育費保証サービスとは
  7. 手続きが複雑な養育費の強制執行は弁護士に相談を
  8. 養育費の強制執行に関するよくある質問(FAQ)

養育費の強制執行(差し押さえ)とは?回収する仕組みと条件

「養育費が急に振り込まれなくなった」「何度お願いしても払ってくれない」というときに、裁判所の力を借りて相手の財産から未払い分を回収する制度が「強制執行(差し押さえ)」です。 相手がどうしても、支払いや話し合いに応じてくれない場合の、最終的な解決方法といえます。ただ、いきなり相手の財産を差し押さえることはできません。 これまでは、実行するために「債務名義(さいむめいぎ)」という公的な証明書が必要とされてきました。もっとも、2026年4月の法改正により、一定の要件を満たせば、こうした公的な書類がなくても、当事者間で作成した合意書などをもとに差し押さえを申し立てられる場合が出てきました。ただし、対象となる金額に上限があるなど、一定の制限があります。(詳しくは後述します)。 ここでは、どのような仕組みで回収するのか、どんな書類が必要になるのかといった基本や、2026年に改正された新しい法律のルールについて、わかりやすくお伝えします。

差し押さえの前に、費用をかけずに催促できる制度もあります。

関連記事履行勧告とは?無視された場合の対処法・効力と履行命令との違い →

強制執行は、相手の給料や財産を法的に差し押さえる手続き

強制執行では、主に相手の給料や、銀行の預金口座を差し押さえの対象にするのが一般的です。 たとえば給料を差し押さえると、相手が働いている会社から、未払い分の養育費が直接ご自身の口座へ振り込まれるようになります。相手が「払いたくない」と思っていても強制的に回収できるため、養育費の未払いトラブルではとても有効な解決手段です。 ただ、「まずはもう少し穏便に進めたい」という場合は、家庭裁判所から相手に電話や手紙で注意してもらう「履行勧告(りこうかんこく)」という制度もあります。費用はかからず手続きも簡単なので、まずはこの履行勧告を試し、それでも払ってくれない場合に強制執行に進むという流れを選ぶこともできます。

実行に必要な「債務名義」とは?

差し押さえの手続きをするには、「相手が養育費を払う義務がある」と公的に証明する書類が必要です。これを「債務名義」と呼びます。 ただし、夫婦でメモ書き程度の合意書を作っていたり、口約束だけだったりする場合は、原則としてすぐに差し押さえを実行することはできません。 具体的には、次のような書類が債務名義にあたります。

  • 執行認諾文言付き公正証書
  • 家庭裁判所の調停調書
  • 家庭裁判所の審判書
  • 裁判の判決書

たとえば、離婚の話し合いのときに調停をして「調停調書」をもらっていれば、それを使って差し押さえの申し立てができます。 なお、相手が「お金がないから」と生活保護を受け始めたとしても、調停などで決まった「養育費を払う義務」が消えてしまうわけではないため、これらの書類の効力はそのまま残ります。

債務名義がない場合でも、公正証書を作っておけば裁判なしで差し押さえに進めます。

関連記事【文例あり】養育費の公正証書の作り方と費用・必要書類まとめ →

2026年の法改正|当事者間の合意書でも差し押さえできる?

2026年(令和8年)4月に法律が変わり、養育費(子の監護に要する費用)の債権に「一般先取特権」が認められました(民法306条3号・308条の2)。これにより、一定の条件を満たせば、公正証書などの債務名義がなくても、担保権の実行という形で差し押さえを申し立てられる場合があります。 ただ、これは「夫婦でサインした合意書さえあれば、無条件に差し押さえができる」という意味ではありません。次のような決まりがあるためです。

  • 優先して回収できる金額に上限がある(子ども1人につき月額8万円までなど)
  • 手続きの際に、合意書のほかにもいくつか別の書類をそろえる必要がある

また、この新しい制度が使えるのは、原則として「2026年4月以降に新しく発生した養育費」だけです。 それより前の滞納分を差し押さえるには、これまでどおり公正証書や調停調書などの公的な書類(債務名義)が必要です。なお、2026年4月より前に離婚している方でも、施行日以降に新しく発生する養育費については、この新しい制度を利用できる余地があります。 もし手元にこうした書類がない状態で過去分を回収したい場合は、まずは家庭裁判所に調停を申し立てるなどして、話し合いや手続きを一からやり直す必要があります。ただし、過去に遡ってどこまで請求できるかはケースによって異なります。 このように、新しい制度は条件を満たせば便利な反面、過去分には使えないなどの制限もあります。いざというときにスムーズに未払い分を回収するためには、離婚の際に「公正証書」をしっかり作っておくことの重要性は今も変わりません。 ご自身のケースで新しい制度が使えるのか、それとも別の方法をとるべきか迷ったときは、弁護士などの専門家に確認してみることをおすすめします。

みんなの法律相談に寄せられた相談

養育費の支払いについて

相談者の疑問 離婚後、前妻との間に生まれた子供と三カ月に一度面会をしています。調停で決まった頻度です。>>> 質問の続きを見る

岡村 茂樹の写真 弁護士の回答岡村 茂樹弁護士 前妻は再婚し、子供も養子縁組してます。
1.養親が第一次的な表義務を負担するので,減額が可能です。>>> 回答の続きを見る

養育費の差し押さえ対象は「給料」がもっとも有効な理由

![差し押さえの対象になる財産の種類と特徴を示した図]({PC画像ID, SP画像ID, 'img'}) 差し押さえの対象となる相手の財産のなかで、継続的な回収を見込みやすいのは「給料」です。一度申し立てが認められれば、将来の養育費まで毎月天引きされる可能性があるためです。 ここでは、給料を差し押さえることが有効とされる理由を、預貯金や不動産などと比べながら整理します。

給料なら手取りの最大「2分の1」まで、将来分も回収可能

給料の差し押さえには、養育費ならではの強みがあります。通常の借金などでは給料の手取りの4分の1までしか差し押さえできませんが、養育費の場合は特例として、手取り額の最大2分の1まで差し押さえが可能です(手取り額が月33万円を超える場合は、33万円を超える部分を全額差し押さえられます)。 さらに大きなメリットは、一度申し立てておけば、すでに未払いになっている分だけでなく、将来の養育費についても継続して差し押さえられる点です。一度差し押さえの効力が発生すると、その後に支払われる毎月の給料にも効力が及ぶため、相手の勤務先から直接受け取り続けることができます。 そのため、相手が会社員などで勤務先が分かっている場合、給料の差し押さえは実務上有効な手段になりやすいといえます。ただし、相手が退職したり転職したりすると差し押さえが止まるリスクがあり、この点については記事の後半で解説します。

預貯金(口座)の差し押さえは銀行名・支店名の特定が必要

銀行の預貯金(口座)も差し押さえの対象になりますが、給料に比べると空振りになってしまうリスクがあります。差し押さえられるのは、「差し押さえが実行された時点での口座残高のみ」に限られるためです。 そのため、相手が事前にお金を引き出していれば、ほとんど回収できないこともあります。 また、口座を差し押さえるには、原則として銀行名だけでなく「支店名」まで特定する必要があります(ゆうちょ銀行を除く)。

不動産や車などの差し押さえは手間がかかるため最終手段

相手が家(不動産)や自動車などの財産を持っている場合、これらを差し押さえることも理論上は可能です。 しかし、財産の価値を評価したり、現金化したりする手続きに手間と時間がかかり、費用も大きくなりがちです。そのため、まずは「給料」、次に「預貯金」を検討し、不動産や車は最終手段と位置づけるのが一般的です。

差し押さえ対象ごとの特徴と注意点まとめ

差し押さえ対象 特徴・注意点
給与(給料) ・手取りの最大2分の1まで差し押さえが可能
・将来分も毎月継続して回収しやすい
・相手の退職や転職で止まってしまうリスクがある
預貯金(口座) ・残高があれば一度にまとまった額を回収できる
・その時点の残高しか回収できず、空振りリスクがある
・銀行名と支店名の特定が必要(ゆうちょ銀行を除く)
不動産・車など ・財産があれば回収の可能性がある
・現金化する手続きに手間・時間・費用がかかるため最終手段

養育費の強制執行(給料の差し押さえ)の手続きと流れ

給料を差し押さえるまでの5つのステップを示した図 強制執行の申し立てから回収までの流れは、大きく5つのステップに分かれます。 注意点として、申し立て先は家庭裁判所ではなく、相手の住所地などを管轄する「地方裁判所」になります。 ここからは、給料の差し押さえを例に、全体の流れを見ていきましょう。

  • ステップ1:相手の勤務先や財産を特定する
  • ステップ2:裁判所に申し立てる必要書類を準備する
  • ステップ3:地方裁判所へ申し立てを行う
  • ステップ4:裁判所から勤務先・相手へ「差押命令」が届く
  • ステップ5:勤務先から直接、養育費を受け取る

差し押さえに進む前に取れる手段も含めた、回収の全体像は以下で解説しています。

関連記事養育費の未払いは回収できる?時効前に取るべき法的対処法 →

1. 相手の勤務先や財産を特定する

給料を差し押さえるには、まず相手の勤務先(会社名など)を特定する必要があります。「どこから回収するのか」を具体的に明らかにしておかなければ、裁判所が手続きを進められないためです。 もし相手の勤務先が分からない場合には、裁判所の制度を使って調べる方法があります(調査方法については記事の後半で解説します)。

2. 裁判所に申し立てる「必要書類」を準備する

申し立ての前に、いくつか書類を準備します。中心となるのは、養育費の支払い義務を示す「債務名義(公正証書や調停調書など)」です。 このほかにも、公的な書類が相手に届いたことを示す「送達証明書」や、場合によっては、強制執行を実行してよいという「執行文の付与」を受ける手続きが必要になることもあります。この事前準備はやや複雑で、個人で行うにはつまずきやすい部分です。

なお、さきほど触れた2026年4月の法改正(先取特権)を使って申し立てる場合は、必要となる書類が異なります。

3. 地方裁判所へ「債権差押命令」を申し立てる

必要書類がそろったら、相手の住所地などを管轄する地方裁判所に「債権差押命令の申立て」を行います。 給料を差し押さえる場合は、「相手が勤務先からお給料をもらう権利」を差し押さえる形になります。 なお、養育費に関する強制執行の場合には特別な制度が使えます。相手の勤務先を調べる手続き(財産開示手続や第三者からの情報取得手続)を申し立てると、そこで判明した給料などの債権について、差押命令の申立てもしたものとみなされる制度(ワンストップ執行手続)があり、勤務先が判明したあとに改めて差押えを申し立てる手間を省けます。

4. 裁判所から勤務先・相手へ「差押命令」が届く

申し立てが裁判所に認められると、裁判所から相手の勤務先と相手本人に対して、「給料を差し押さえます」という命令(差押命令)が書面で送られます。 これにより、勤務先は相手の給料の一部を天引きして、未払い分を支払う義務を負う立場になります。

5. 勤務先から直接、養育費を受け取る

裁判所からの命令が勤務先に届いた後は、相手の勤務先から指定した口座へ直接、差し押さえた分の養育費が支払われます。 一度差し押さえの効力が発生すれば、その後の給料についても継続して天引きされるため、毎月の回収を見込みやすくなります。

みんなの法律相談に寄せられた相談

養育費の未払い分を請求するために強制執行できますか?

相談者の疑問 私は今高校三年生です。私の両親は9年前、父の浮気で離婚しました。>>> 質問の続きを見る

吉田 英樹の写真 弁護士の回答吉田 英樹弁護士 強制執行したら、毎月少しずつ減らされていた未払い分も請求できますか?
→調停で,養育費の支払いが決められていれば,それをもとに強制執行をすることは考えられます。>>> 回答の続きを見る

養育費の強制執行にかかる費用・期間・必要書類まとめ

強制執行の申し立てには、裁判所に納める数千円から1万円程度の実費がかかります。 ここでは、手続きにかかる費用の目安や期間、相手への費用請求の可否、必要な書類、そして気をつけたい「時効」のルールについて整理します。

裁判所へ支払う申し立て費用(実費)の目安

強制執行を裁判所に申し立てる際にかかる主な実費は、次のとおりです。 金額はケースによって変わるため、あくまで目安としてお考えください。

  • 収入印紙代:4,000円程度
  • 郵便切手代:3,000円〜4,000円程度
  • 資格証明書(登記事項証明書など)の取得費用

弁護士に依頼せずご自身で申し立てる場合、これらの実費だけで手続きを進められることもあります。

手続きにかかる期間|申し立てから約1.5〜3ヶ月程度で回収開始

申し立てをしてから、実際に最初の養育費が振り込まれる(回収がスタートする)までの目安は、おおむね1.5〜3ヶ月程度かかると見込んでおきましょう。 この期間は、裁判所からの命令(書類)が相手へスムーズに届くかどうかによって大きく変わります。順調に進めば1.5〜2ヶ月程度ですが、相手が書類を受け取らずに特別な手続き(付郵便送達など)が必要になった場合は、2〜3ヶ月程度かかるのが実務上の傾向です。 さらに、申し立て前の書類を集める準備期間も含めると、全体ではさらに時間がかかる可能性があります。書類の不備は手続きを遅らせる大きな原因になるため、準備は丁寧に進めることが大切です。

差し押さえの費用は相手に請求(上乗せ)できる?

強制執行の申し立てにかかった実費(印紙代や切手代など)は、未払いの養育費に上乗せして回収できる場合があります。相手が約束どおりに支払わなかったことが原因で生じた費用であるため、その分を相手の負担にできる仕組みです。 一方で、弁護士に依頼した場合の「弁護士費用(着手金や報酬金など)」は、原則として相手に請求できず、自己負担となります。ただし、回収できた養育費の中から弁護士費用を精算できる事務所もあるため、費用面が不安な場合は相談時に確認してみましょう。

弁護士に依頼した場合の費用や、相手に請求できるかは以下で解説しています。

関連記事養育費の弁護士費用の相場はいくら?払えない時の解決策と相手に請求できるか解説 →

給料の差し押さえをする場合に必要な書類一覧

給料の差し押さえを申し立てる際に、一般的に必要となる書類は次のとおりです。ケースによって追加の書類を求められることもあります。

  • 債務名義の正本(公正証書、調停調書、審判書など)
  • 送達証明書(債務名義が相手に届いたことの証明)
  • 当事者目録
  • 請求債権目録
  • 差押債権目録
  • 相手や勤務先の資格証明書(法人の場合の登記事項証明書など)

上記は債務名義(公正証書・調停調書など)を使って申し立てる場合の書類です。さきほど触れた2026年4月の法改正(先取特権)による申し立てでは、必要書類が異なります。

過去の未払い分を請求する際は「時効」に注意

未払いの養育費を放置していると、時効によって請求できなくなってしまう恐れがあります。 原則として、養育費の時効は「支払期日から5年」です。夫婦で話し合って作った公正証書の場合も5年となります。ただし例外として、過去に家庭裁判所の調停や裁判などで支払いが確定した未払い分については、時効が「10年」に延長されます(※これから支払期日が来る将来分については5年のままです)。 あまりに古い未払い分がある場合は、時効が完成して権利が消えてしまう前に、早めに対応することが大切です。 時効の詳しいルールや、時効を止める(更新する)手続きについては、別記事で解説しています。ご覧ください。

相手の勤務先や口座が分からない・強制執行できないケースの対処法

強制執行を申し立てるには、相手の住所や勤務先、口座情報などをあらかじめ特定しておく必要があります。 ここでは、情報が分からないときに使える法的な調査方法や、相手が無職・生活保護を受けていて差し押さえが難しいケースについて解説します。

相手の住所が分からない場合は「戸籍の附票」などで確認する

強制執行の手続きでは、裁判所から書類を送るために相手の正確な現住所が必要です。 もし相手の引っ越しなどで住所が分からなくなってしまった場合でも、あきらめる必要はありません。 お手元の公的な書類(債務名義)をもとに、役所で「住民票の除票」や「戸籍の附票(ふひょう)」を取得してたどることで、現在の住所を確認できることがあります。 他人の住民票などを取得する役所の審査は厳格ですが、「未払い養育費の強制執行を申し立てる」といった正当な理由があり、証拠となる公的な書類(債務名義)を提示すれば、一般の方でも手続きは可能です。また、子どもを請求者(親が法定代理人)として戸籍の附票を取得する方法もよく使われます。 ただし、手続きが複雑で難しいと感じた場合は、弁護士に住所調査(職務上の請求など)を依頼することも有効な選択肢です。

勤務先や口座は裁判所の「情報取得手続」で調べられる

相手の勤務先や銀行口座が分からない場合は、裁判所の「第三者からの情報取得手続」という制度を利用して調べる方法があります。これを使うと、次のような情報を法的に取得できる可能性があります。

  • 相手の勤務先(給与に関する情報):市町村や日本年金機構などから取得
  • 相手の預貯金口座の情報:銀行の本店などから取得

ただし、勤務先の情報を取得するためには、原則として事前に相手を裁判所に呼び出す「財産開示手続」という別の手続きを済ませておく必要があるなど、いくつかの条件が定められています(※口座情報の取得にこの事前手続きは不要です)。 ただし、2026年4月以降は、財産開示手続を申し立てた際に、判明した債権について差押えの申立てもしたものとみなされる仕組み(前述の制度)が設けられており、手続きの負担は従来より軽くなっています。 段階を踏んで裁判所の手続きを進めなければならないため、事前の準備にはある程度の手間と時間がかかると考えておきましょう。

相手が無職や生活保護の場合は回収が難しいことも

強制執行は、相手に差し押さえる財産や収入があってはじめて成功する手続きです。そのため、相手が本当に無職でめぼしい財産もない場合、対象となるものがないため回収できないリスクがあります。 また、相手が生活保護を受給している場合も注意が必要です。法律上、生活保護費を受ける権利を差し押さえることは禁止されています(生活保護法58条)。相手に保護費以外の収入や財産がまったくなければ、手続きをしても現実的な回収は難しくなります。 もっとも、「生活保護を受けていれば養育費の支払い義務がなくなる」というわけではありません。相手が働き始めて自力で収入を得るようになったり、別の財産を持っていたりすれば、その部分は差し押さえの対象になり得ます。

相手の居場所や財産が分からない場合や、現在の支払い能力に不安がある場合、個人で法的な調査を進めるのは行き詰まってしまうことも少なくありません。「自分のケースで回収の見込みがあるか」「どの手続きから始めるべきか」と迷ったときは、一度弁護士に状況を相談し、今後の見通しを確認してみることをおすすめします。

みんなの法律相談に寄せられた相談

養育費の支払いについて

相談者の疑問 10年ほど前に協議離婚をし、ずっと養育費の支払いはありました。公正証書は作ってません。>>> 質問の続きを見る

稲葉 進太郎の写真 弁護士の回答稲葉 進太郎弁護士 相手方が生活保護を受けている場合,相手方が任意に支払いをしないのであれば,仮に調停調書や公正証書を作ったとしても,>>> 回答の続きを見る

差し押さえが止まるリスクへの備え|養育費保証サービスとは

給料の差し押さえはとても有効な回収方法ですが、相手が会社を辞めてしまうと、その時点で給料からの天引き(回収)がストップしてしまうという実務上の弱点があります。 ここでは、差し押さえに成功した後も安心しきれない理由と、将来の再発リスクに備えるための選択肢をご紹介します。

相手の退職・転職で差し押さえがストップする弱点

給料の差し押さえは、あくまで「相手の現在の勤務先」に対して行う手続きです。 そのため、相手が今の会社を退職したり、別の会社へ転職したりすると、元の勤務先からの天引きはできなくなってしまいます。一度は回収できていても、相手が仕事を変えるたびに回収が止まってしまい、再び新しい勤務先を特定して、裁判所での手続きを一からやり直さなければならないこともあります。

毎月の未払いを防ぐ「民間保証」と「自治体の補助金」

こうした将来の不払いリスクに備えるセーフティネットとして、チャイルドサポートの「あんしんサイクル」のような、民間の養育費保証サービスというものがあります。これは、万が一相手からの支払いが滞ったときに、保証会社が一定の範囲で立て替え払いをしてくれる仕組みです。 また、こうした保証サービスを利用する際にかかる初期費用(保証料など)を助成してくれる「補助金制度」を設けている自治体も増えています。ご自身がお住まいの市区町村にこうしたサポートがあるか、一度役所の窓口やホームページで確認してみるとよいでしょう。 「公正証書などの公的な書類(債務名義)」と「養育費保証サービス」は、それぞれ役割が異なります。違いを次の表にまとめました。

制度 特徴・注意点
公正証書などの
公的な書類
・差し押さえ(強制執行)を可能にする法的な裏づけ
・相手の財産から法的に回収できる
・相手に財産や収入がないと回収が難しい
養育費保証サービス ・未払い時に保証会社が立て替え払いをしてくれる
・相手が払わなくても一定の支払いを受けられる
・利用には保証料などの費用(コスト)がかかる

一度差し押さえに成功しても、相手の退職などで不払いが再発するリスクは残ります。 将来にわたる長期的な安心を得るために、公的な書類の作成とあわせて、こうした保証サービスの利用も一つの選択肢として検討してみてください。

手続きが複雑な養育費の強制執行は弁護士に相談を

養育費の強制執行は有効な回収手段ですが、地方裁判所への申し立て手続きや必要書類の準備は、とても複雑です。 また、相手の住所や勤務先、銀行口座の調査などを個人で行うには、時間も精神的な負担も大きくなりがちです。書類の不備や手続きのミスを避けてスムーズに進めるためには、専門家である弁護士に一度相談してみることをおすすめします。 ただし、弁護士に依頼したとしても、相手に差し押さえられる財産や収入がまったくなければ回収できない場合があります。「弁護士に頼めば必ず回収できる」というわけではない点は、あらかじめ理解しておきましょう。 回収できる見込みがあるのか、手続きにかかる費用(弁護士費用など)が回収額を上回ってしまわないかなど、まずは無料相談などを利用して、弁護士に今後の見通しを確認してもらうことから始めてみてはいかがでしょうか。

養育費の強制執行に関するよくある質問(FAQ)

Q1. 強制執行の手続きには、どのくらいの期間(日数)がかかりますか?

地方裁判所へ申し立てを行ってから、実際に相手の給料や口座から養育費の回収がスタートするまでは、おおむね1.5〜3ヶ月程度が目安です。

Q2. 過去の未払い分だけでなく、これからの将来の養育費も差し押さえられますか?

可能です。養育費のように定期的に支払われる金銭については、過去の未払い分を理由に強制執行を申し立てることで、支払期限がまだ来ていない将来分についても、勤務先から継続して差し押さえられる場合があります。

ただし、相手が退職すると給料の差し押さえは止まるため、注意が必要です。

Q3. 相手が自営業(フリーランス)の場合、給料の差し押さえはどうなりますか?

自営業の場合、会社から受け取る給与がないため、給料の差し押さえはできません。

代わりに、相手の取引先に対する売掛金(報酬の請求権)や、事業用の預貯金口座、不動産や車などの財産を差し押さえることになります。

会社員が相手の場合より難易度が高いため、弁護士への相談をおすすめします。

Q4. 給料を差し押さえると、相手の会社に養育費の未払いがバレてしまいますか?

はい、会社には知られてしまいます。

給料の差し押さえを行うと、裁判所から相手の勤務先に対して「差押命令」が送られます。勤務先は、法的な手続きに従って指定された口座へ直接お金を振り込む義務が生じるため、養育費が未払いになっている事実を把握することになります。

Q5. 相手の両親(祖父母)の財産を差し押さえることはできますか?

きません。養育費の支払い義務は、あくまで親である元配偶者本人にのみあります。

たとえ相手が無職で親と同居していたとしても、相手の両親の財産や年金を、養育費の未払いを理由に差し押さえることは法律上認められていません。

ごくまれに、親がまったく支払えないなどの事情がある場合に祖父母への「扶養料」の請求が検討されることはありますが、これは養育費とは別の枠組みであり、認められるケースは限られます。なお、祖父母が任意で代わりに支払ってくれる分を受け取ること自体は問題ありません。

Q6. 弁護士に強制執行を依頼した場合の「弁護士費用」も相手に請求できますか?

裁判所の手続きにかかった実費(印紙代や切手代など)は、相手に上乗せして請求(回収)できる場合があります。

一方、弁護士に支払う弁護士費用(着手金や報酬金など)については、原則として相手に請求することはできず、自己負担となります。ただし、回収できた養育費の中から弁護士費用を精算(後払い)できる事務所もあるため、費用面が不安な場合は相談時に確認してみましょう。

この記事の監修者
佐々木 裕介弁護士のプロフィール画像
チャイルドサポート法律事務所
佐々木 裕介 弁護士
(第二東京弁護士会)
監修者のプロフィールを見る

この記事は、公開日時点(2026年08月25日)の情報や法律に基づいています。

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