履行勧告とは?家庭裁判所が無料で相手に注意・督促する制度
履行勧告(りこうかんこく)とは、離婚時の取り決め(養育費の支払いや面会交流など)が守られない場合に、家庭裁判所が相手に「約束を守るように」と注意(督促)してくれる制度です。 申出の費用は無料で、手続きも比較的簡単なため、相手が約束を守らないときに最初に試す督促手段として有効です。 まずは、履行勧告がどのような場面で使えるのか、費用はどれくらいかかるのか、そして最大の注意点である「強制力の有無」について確認していきましょう。
養育費や面会交流などの約束が守られない場合に使える
履行勧告は、家庭裁判所の調停や審判などで決めた取り決めが守られないときに利用できます。代表的なのは、養育費が約束どおり支払われず、滞納が続いた場合に、まずは家庭裁判所から履行勧告をしてもらう、というケースです。 対象となるのは養育費だけではありません。面会交流の取り決めが守られない場合にも、家庭裁判所に対して相手へ履行勧告を行うよう求めることができます。 履行勧告が使える主な場面は次のとおりです。
- 調停調書や審判書で取り決めた養育費が支払われない場合
- 取り決めた面会交流が実施されない場合
- その他、家庭裁判所の手続きで決めた義務が履行されない場合
費用は「無料」で手軽に利用できる
履行勧告のメリットは、申出の費用が無料である点です。強制執行のように複雑な書類や手続きを必ずしも必要とせず、家庭裁判所への電話や書面で申し出ることができます。 費用をなるべくかけずに督促したいという方にとって、履行勧告は最初の一歩として取り組みやすい制度だといえます。 費用面のポイントを整理すると、次のとおりです。
- 申出そのものの費用は無料
- 郵送で手続きする場合の切手代などの実費は自己負担
- 電話でも書面でも申し出ることができる
【デメリット】法的強制力(差し押さえの効力)はない
一方で、履行勧告には大きな限界があります。それは、あくまで「勧告(注意)」であるため、相手の財産を強制的に差し押さえるような法的強制力がないという点です。 履行勧告は、相手に自発的な支払いや履行を促す制度にとどまります。そのため、家庭裁判所から連絡があっても相手が無視を決め込めば、履行勧告だけで支払いや面会を強制することはできません。 何度勧告を行っても不履行が続くケースもあるため、この限界を理解したうえで、次の手段も視野に入れておくことが大切です。 みんなの法律相談には、「滞納されるようになった養育費」に関する相談が寄せられています。
相談者の疑問
5ヶ月前に調停離婚をいたしました。
面会交流も子供達との間でやりとりをし、会う日を決めるようにしており、養育費も毎月末に入れるよう調停調書に記載しました。>> 質問の続きを見る
弁護士の回答吉田 英樹弁護士
家裁に連絡して、まずは履行勧告をしてもらうことが考えられます。そのうえで、支払いがなければ、>> 回答の続きを見る
図解でわかる「履行勧告」「履行命令」「強制執行」の違い
相手に約束を守らせる手続きには、履行勧告のほかに「履行命令」と「強制執行」があります。
それぞれ効力や費用、対象となるトラブルには大きな違いがあります。名前が似ていて混同しやすいため、まずは図解で全体像を整理しておきましょう。
| 手続き | 特徴 |
|---|---|
| 履行勧告 | ・無料で申し立てできる ・注意・督促のみで、強制力はない ・面会交流の取り決めに対しても利用できる ・電話や書面で申し出が可能。手続きの難易度は低め |
| 履行命令 | ・申し立て手数料などが必要 ・従わない場合は10万円以下の過料が科される可能性がある ・面会交流の取り決めには利用できない ・手続きの難易度は中程度 |
| 強制執行 | ・申し立て費用や実費が必要 ・相手の財産を強制的に差し押さえる効力がある ・財産の差押え(直接強制)は原則として面会交流には利用できないが、間接強制という方法によることは可能(※) ・債務名義などの公的な書類が必要。手続きの難易度は高い |
※ここでいう強制執行は、財産を差し押さえる直接強制を指す。面会交流については、間接強制(民事執行法172条。義務を履行しない場合に一定額の金銭の支払いを命じることで心理的に履行を促す手続き)という別の方法を利用できる場合がある 以下で、履行命令と強制執行それぞれの特徴を、履行勧告との違いに注目しながら見ていきます。
「履行命令」との違い|過料はあるが「面会交流」には使えない
履行命令は、家庭裁判所が相手に対して「期限を定めて義務を履行するように(約束を守るように)」と命令を出す手続きです。 履行勧告が単なる「注意」であるのに対し、履行命令は「命令」であり、これに従わない場合には10万円以下の過料が科される可能性があります。 ただし、履行命令には次の二つの注意点があります。
- 過料は国に納められるものであり、養育費の回収に直結するわけではない
- 面会交流のトラブルには原則として使えない
なお、面会交流の約束が守られない場合には、面会交流を取り決めた家庭裁判所に対して、履行勧告や再度の調停に加えて「間接強制」を申し立てる方法も検討できます。 間接強制は、義務を果たさないことに対して一定の金銭の支払いを命じることで、心理的に約束を守るよう促す手続きです。 ただし、間接強制が認められるには、面会の日時・場所・方法などが調停調書に具体的に定められている必要があります。取り決めの内容があいまいだと、間接強制は認められない可能性が高い点に注意が必要です。
「強制執行」との違い|相手の財産(給与など)を強制的に差し押さえる最終手段
強制執行は、相手の給与や預貯金などの財産を強制的に「差し押さえる」手続きで、相手に強制的に支払いをさせるための最終手段といえます。 履行勧告に強制力がないのに対し、強制執行では相手の意思にかかわらず、財産からの回収を図ることができます。相手の勤務先がわかっている場合などは、給与の差し押さえを検討するのも一つの方法です。 強制執行を行うには、調停調書や審判書などの「債務名義」と呼ばれる公的な書面が必要です。手続きは書面審査によって進むため、履行勧告に比べると準備すべき書類が多く、難易度は高くなります。 養育費の強制執行(差し押さえ)に関する具体的な手続きについては、関連記事もあわせてご覧ください。
実際に差し押さえるには何が必要で、いくらかかるのかは以下で解説しています。
関連記事養育費未払いを強制執行で回収する方法|差し押さえの手続き・費用と必要書類 →履行勧告を利用するための条件と必要な書類
履行勧告は、養育費や面会交流の約束が守られないときに役立つ制度ですが、誰でも利用できるわけではありません。 利用できるのは、原則として「家庭裁判所の手続き(調停や審判)で取り決めをした人」に限られます。いざというときに履行勧告が使えないといった事態を防ぐため、条件をしっかり確認しておきましょう。
「調停調書」や「和解調書」など裁判所が作成した公的な書面が必要
履行勧告を利用するには、家庭裁判所の手続きで作成された公的な書面があることが前提です。 具体的には、次のような書面がある場合に利用できます。裁判所へ申し出る際には、これらの書面を手元に準備しておくようにしましょう。
- 離婚調停で作成された「調停調書」
- 審判で作成された「審判書」
- 和解によって作成された「和解調書」
これらの書面は、家庭裁判所が関与して取り決めの内容を確認したものです。そのため、家庭裁判所は取り決めの内容にもとづいて、相手に約束を守るよう促すことができます。
これらの書面がない場合は、まず養育費調停で取り決めをつくる必要があります。
関連記事養育費調停の流れと費用・必要書類|有利に進める方法まで弁護士が解説 →「離婚協議書」や「公正証書」だけでは履行勧告は使えない点に注意
注意したいのは、夫婦同士の話し合いで作った「離婚協議書」や、公証役場で作成した「公正証書」を持っているだけでは、家庭裁判所の履行勧告制度は利用できないという点です。 これらは家庭裁判所の手続きを経て作られた書面ではないため、履行勧告の対象にはなりません。 ただし、強制執行認諾文言が付いた公正証書は、強制執行を行うための「債務名義」になり得るという点で意味のある書面です。 相手が公正証書の内容どおりに支払わない場合には、履行勧告の手続きを経ずに、公正証書にもとづいて直接強制執行を検討することができます。 公正証書を持っている場合の回収方法については、関連記事もあわせてご確認ください。
履行勧告の申出方法と手続きの流れ
履行勧告の手続きは、専門家に依頼せずご自身で行うことも可能です。
ここでは、どこに申し出るのか、費用や準備するものはどうなるのか、申出のあとに何が起こるのかという流れを順に確認します。
申出先は取り決めを行った「家庭裁判所」
履行勧告の申出先は、調停や審判などの取り決めを成立させた家庭裁判所です。別の裁判所ではなく、取り決めを行った家庭裁判所に対して申し出る点を押さえておきましょう。 どの裁判所で手続きをしたか分からなくなった場合は、手元の調停調書や審判書で確認できます。
手続きに必要な費用と書類の準備
申出は、口頭(電話)でも書面(履行勧告申出書)でも行うことができます。手軽さを重視するなら電話でも申し出られますが、内容を正確に伝え、記録に残すという意味では書面のほうが確実です。 費用の面では、申出そのものは無料です。ただし、郵送で手続きをする場合の切手代などの実費は自己負担になります。 申出の際には、いつ・どの取り決めが守られていないのかを整理し、調停調書などの取り決めの内容が分かる書面を手元に用意しておくとスムーズです。
裁判所から相手へ約束を守るよう連絡(電話や文書)が行われる
申出を受けると、家庭裁判所は事実関係を確認したうえで、相手方に対して電話や文書で支払い(または面会交流などの実施)を促します。相手に「約束を守るように」と裁判所から連絡が入ることで、自発的な履行が期待できます。 手続きの大まかな流れは次のとおりです。
- 取り決めを行った家庭裁判所に、電話または書面で履行勧告を申し出る
- 家庭裁判所の調査官が事実関係を確認する
- 裁判所が相手方へ電話や文書で支払い・履行を促す
- 相手が応じれば解決、応じなければ強制執行など次の手段を検討する
裁判所からの連絡によって相手が支払いに応じれば、それで問題は解決します。しかし、相手がそれでも応じない場合には、強制執行など次の段階の対処法を検討する必要があります。
履行勧告を無視された場合はどうなる?次の対処法
裁判所からの連絡であっても、相手が無視を決め込んだり「払えない」と拒否したりした場合は、履行勧告だけでは強制できないという限界があります。ここでは、無視されたときに何が起こるのか、そしてどう動けばよいのかを整理します。
勧告自体に強制力はないため、直接強制することはできない
履行勧告は、あくまで相手に自発的な支払いや履行を促す制度です。そのため、支払う意思のない相手には効果が薄く、履行勧告だけで支払いや面会を強制することはできません。 何度勧告を重ねても、相手にその気がなければ状況が変わらないことがあるのが、履行勧告の現実的な限界といえます。
未払いの理由や取り決めの内容によっては解決しにくいケースも
履行勧告で解決しにくいケースには、いくつかのパターンがあります。単に督促(勧告)を重ねるだけでは事態が動きにくいのは、次のような場合です。
- 相手が病気や失業で、本当に支払えない状況にある場合
- 面会交流の条件が「月1回程度」など、あいまいにしか定められていない場合
- 相手に支払う意思がなく、勧告に応じる見込みがない場合
特に面会交流では、取り決めの内容が具体的でないと、次の手段である「間接強制」も認められにくくなります。取り決めの段階から、日時・場所・方法などをできるだけ具体的に定めておくことが、後のトラブルを防ぐことにつながります。
無視され続ける場合は「強制執行(差し押さえ)」を検討する
履行勧告を何度行っても相手が応じない場合には、相手の財産(給料や預貯金など)を差し押さえる「強制執行」の手続きへ切り替えることを検討します。 強制執行は、相手の勤務先が分かっていれば給与を差し押さえることもでき、回収を目指すうえで有効な手段です。 なお、養育費と面会交流は引き換えの関係にはありません。相手に対して「養育費を支払わないなら、面会はさせない」といった対応は控えるようにしましょう。 履行勧告や強制執行といった正しい手続きで対応することが大切です。
未払い養育費における時効の注意点や、法的な回収手段については以下で解説しています。
関連記事養育費の未払いは回収できる?時効前に取るべき法的対処法 →履行勧告で解決しない場合は弁護士への相談も選択肢に
履行勧告は、無料で利用できるうえに手続きも比較的簡単なため、養育費や面会交流の約束が守られないときに、まず試してみる価値のある制度です。 ただし、履行勧告には法的強制力がないという弱点があります。相手が支払いを拒否し続ける場合には、強制執行などの手続きが必要になります。 強制執行には債務名義などの公的な書類が必要であり、一人で進めるには負担が大きいこともあります。 相手が勧告に応じない場合や、自分だけで判断しにくい場合は、一人で悩まずに弁護士へ相談することも選択肢です。早めに相談することで、状況に応じた今後の見通しや次の一手を整理しやすくなります。
履行勧告に関するよくある質問(FAQ)
∨ Q1. 口約束で決めた養育費でも履行勧告は使えますか?
利用できません。履行勧告を利用するには、家庭裁判所の調停や審判で作成された「調停調書」や「審判書」などの公的な書面が必ず必要です。口約束や、夫婦だけで作った離婚協議書では、家庭裁判所の履行勧告を利用することはできません。
取り決めをこれから行う場合は、家庭裁判所の調停を申し立てるか、少なくとも公正証書を作成しておくと、後の回収手段の選択肢が広がります。
なお、2026年4月1日に施行された改正民法により、取り決めがない場合でも一定額を請求できる「法定養育費」の制度が新設されました(施行日である2026年4月1日以降に離婚したケースが対象であり、施行前に離婚したケースには適用されません)。ただし、この場合も家庭裁判所の手続きを経るまでは履行勧告の対象にはなりません。
∨ Q2. 相手の今の住所がわからない場合でも履行勧告はできますか?
相手の現住所がわからないと、裁判所から連絡や督促文書を送ることができないため、履行勧告を行うことは困難です。
まずは、戸籍の附票を取得したり、弁護士の職務上請求を利用したりして、相手の現住所を調査・特定する必要があります。弁護士は、正確な住所を確認するために住民票や戸籍の附票を職務上請求できるため、住所がわからない場合の調査を依頼することも一つの選択肢です。
∨ Q3. 履行勧告は複数回申し出ることはできますか?
履行勧告の利用回数に制限はありません。必要に応じて再度申し出ることも可能です。
しかし、数回勧告しても相手が応じない場合、それ以上繰り返しても効果は薄いため、強制執行など別の手段に切り替えることを検討することをおすすめします。
∨ Q4. 履行勧告を申し出ると、相手に自分の現在の住所がバレてしまいますか?
DV(ドメスティックバイオレンス)や虐待の被害などを理由に、自分の住所や連絡先を相手に知られたくない場合は、裁判所に「非開示希望の申出」を行うことで、相手に情報が伝わらないよう配慮して手続きを進めることが可能です。履行勧告を申し出るにあたって不安な場合は、あらかじめ裁判所の担当書記官にご相談ください。
また、裁判所での手続きとは別に、市区町村の役所に「DV等支援措置」を申し出ておくと、加害者からの住民票の写しや戸籍の附票の交付・閲覧を制限できます。なお、DV等支援措置の有効期間は通常1年間で、継続を希望する場合は期間が終わる前に延長の申出が必要です。