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土下座強要に警告、市が「カスハラ」認定…“氏名公表”も辞さない桑名市条例を専門家はどう見たか 議事録を検証
桑名市役所(いお / PIXTA)

土下座強要に警告、市が「カスハラ」認定…“氏名公表”も辞さない桑名市条例を専門家はどう見たか 議事録を検証

カスハラ(カスタマーハラスメント)が社会問題化する中、法改正により2026年から、企業などに対して防止措置の実施が義務付けられる。

こうした流れに先立ち、2025年には三重県桑名市でカスハラ防止条例が施行され、自治体として公式にカスハラの認定が示された。

市がカスハラを公式に認定し、場合によっては、行為者の「氏名公表」まで可能とする桑名市の条例は、先駆的なリーディングケースとして注目を集めた。

一方で、カスハラ問題に長年取り組んできた専門家からは、理念や姿勢は評価しつつも、非公開で進められた審議の過程を検証したうえで、手続きの適正さや実効性に課題があるとの指摘も出ている。(弁護士ドットコムニュース編集部・塚田賢慎)

●「氏名公表」の措置が珍しい

2025年4月に施行された桑名市の条例では、事業者がカスハラを受けた場合、市に設置された委員会が対応する。委員会は弁護士などの専門家で構成され、相談者と行為者の双方から聞き取りをおこなうなどの調査を実施する。

そのうえで、委員会が「悪質なカスハラ」に該当すると判断し、市長が認定すれば、市は行為者に対して警告を出すことができる。

この警告に従わず、カスハラ行為を繰り返したと認められる場合には、市のホームページなどで、行為者の「氏名を公表」できるというものだ。

2025年6月と12月に公表された2件はいずれも「カスハラ」と結論づけられ、行為者に警告が出された。

6月の事案では、配達されたアルコールなどの商品が破損していたことに憤慨した行為者が、事業者側に対して、土下座を求めるなどしたとされる。

●なんのための制度か?

カスハラ問題に長年取り組んできた能勢章弁護士に、桑名市の制度とその運用について聞いた。

画像タイトル 能勢章弁護士(本人提供)

──制度や審議内容をどのように受け止めていますか。

制度としては、相談者と行為者の双方から話を聞き、認定・警告に至るまでに、2カ月近くかかっている。

カスハラの対応では即時性が非常に重要だ。行政が認定する仕組みが一つの選択肢としてあってもよいとは思うが、基本的には、企業が主体となってカスハラと判断し、毅然と対応して従業員を守ることが中心であるという方向性に変わりはない。

桑名市の取り組みは非常に意欲的で、理念にも共感している。ただ、議事録の内容に目を通すと、正直なところ、不足している点が目につき、心配になる部分もあった。

●認定の進め方はこれでいいのか

──どのような点に「不足」を感じましたか。

委員会が「カスハラにあたる」と結論づけたこと自体が誤りだとは思わない。ただ、手続き的な保障の面で危うさを感じる。

認定にあたっては、ガイドラインで示されている3要件、すなわち(1)要求内容の妥当性(2)要求を実現するための手段・態様(3)就業者の就業環境を害するおそれがあるかが参考とされる。

しかし、審議の過程で、ある委員から「やっぱ今思うと、カスタマーハラスメントの定義、結構ゆるいですよね」という発言があったように、事実認定が十分に精緻な議論を経てなされたとは感じられなかった。

たしかに音声の提出や当事者への聞き取りは実施されているが明確な録音・録画がないことを理由に警察では事件化してくれない、民事裁判では不法行為として認定されないというケースがよくある。

企業であれば、録画や録音がなくても、従業員へのヒアリングをもとにカスハラと判断して従業員を守る行動を取らなければならないことはある。しかし、強い権限を持つ自治体が、手続保障に不安を抱えたまま、企業と同じレベルの判断基準でカスハラ認定するのは危険だと思う。

●誰が守ってくれるのか?

──相談者は「せっかくできた条例」だと述べ、こうした行為がカスハラにあたることを周知してもらいたいとしつつ、行為者の氏名公表まで望んでいない姿勢が見えました。

委員会でも、行為者に連絡することで、相談者への報復が起きる可能性を懸念する声が上がり、市側は地元警察と連携していると説明している。

委員の一人からは「当事者同士の対応について見えてこない。この辺りを行政、委員会として踏み込むのかという整理はしておかないと、また悩むのではないか」との意見も上がった。

だとすれば、最初から警察に相談させるべきではないか、という疑問も出てくる。この点でも、制度の意義がやや見えにくいと感じる。

地方では、その地域で有名な「常習クレーマー」が存在することも少なくない。特定の相手に限らず、さまざまな場所で問題を起こしているケースもある。

今回の行為者は、委員会の聞き取りには出席せず、代わりに陳述書を持参して突然来庁し、市の職員(主事)に40分にわたって話をしたとされている。

警告を受けたことで、今回の相談者である配送業者に対するクレームは止まるかもしれないが、矛先を変えて、別の相手に向かう可能性は十分にある。

公務員に対するカスハラも大きな社会問題となっている。市役所としては、相談者だけでなく、職員をどう守るかという視点も念頭においてほしい。

一般職員が直接巻き込まれる可能性もある以上、人的・組織的なリソースに余裕のある自治体でなければ、この制度を導入するのは難しいのではないかと思う。

また、カスハラをやる人には「言いやすい相手を選ぶ」という特徴がある。市の警告に従わずに同じ相手にカスハラ行為を繰り返すような場合は少なく、「氏名公表」にまで至る事案はほとんど想定できないのではないか。それよりも一度カスハラと認定されても懲りずに次々と言いやすい相手に対象を変えるケースが多いだろう。

●「カスハラと認定しない」と結論づけたとき、何が起きるか

──ほかに課題はないでしょうか。

現時点では、いずれの事案もカスハラと認定されている。しかし今後、十分な証拠がないために、結果的に「カスハラがあった」と認定できない場合もあるだろう。そういった場合に行為者を増長させる結果にならないか。警察などと異なって証拠収集能力に限りがある自治体にその責任を背負えるのかという問題も残る。

企業のカスハラ対応で大事なのは、まずは攻撃にさらされている当事者を現場から外し、責任者が対応を引き取ることだ。それでも難しければ、弁護士に依頼し、警察に相談する。カスハラをやる人の「言いやすい相手を選ぶ」という特徴を踏まえれば、対応する相手を変えることが重要だ。

弁護士が介入して、3分で終わるケースもある。基本的には、何より迅速な対応が求められる。

この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいています。

プロフィール

能勢 章
能勢 章(のせ あきら)弁護士 能勢総合法律事務所
カスハラ専門の弁護士。カスハラという言葉がない時代からBtoCの企業から依頼を受けて困難なカスハラ案件に数多く従事する。著作として『「度が過ぎたクレーム」から従業員を守る カスハラ対策の基本と実践』(日本実業出版社)がある。カスハラ対策及びカスハラ対応に関する情報を発信するサイト「正しいカスハラ対策で従業員を守る方法 - カスハラドットコム (kasuhara.com)」を運営している。

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