NHKは8月5日、番組出演者から性被害を受けてPTSD(心的外傷後ストレス障害)と診断された職員が、別の部署での復職を希望したにもかかわらず、人事上の配慮が十分にされなかったと発表した。
NHKが設置した調査検討委員会は報告書で、組織の「人権意識の不足」を指摘した。井上樹彦会長は「NHKを代表して、当時の対応の不適切さを心よりお詫び申し上げます」とのコメントを出した。
●労働組合を通じた申し入れが発端
NHKによると、2025年4月、この職員は労働組合を通じて「番組出演者からの性被害により体調を崩して休職し、フラッシュバックなどもあるため、所属部局以外での復職等を希望したが聞き入れられなかった。なぜ実現されなかったのか確認したい」と申し入れた。
これを受けて、NHKは同年5月、弁護士と公認心理師で構成する「職員等の権利・利益の擁護等の在り方をめぐる調査検討委員会」(座長・池上政幸弁護士)を設置した。
委員会は約1年かけて35人から聞き取りをおこない、34回の会合を経て報告書をまとめたという。
●希望した別部署への復職叶わず…被害から3年余り後に異動
NHKのプレスリリースによると、報告書は次の事実を認定した。
職員は番組の出演者らとの懇親会後、その出演者から意に沿わない性被害を受けた。その後、体調不良となり、欠勤・休職に至った。
被害から1年数カ月後、職員は職場に被害を打ち明けたうえで、元の部局に戻ると被害当夜のことがフラッシュバックして精神状況が悪化するとして、別の職場で復職できるよう「特段の配慮」を強く求めた。
しかし、人事局などの担当者が対応を協議したが、現所属での復職が原則だとして「特段の配慮」を認めなかった。
この間には、主治医と所属部局の産業医はいずれも異動しての復職を提案したが、受け入れられなかった。
職員は復職後も繰り返し異動を求め、被害から3年余り後に、希望していた職場の一つに異動した。「意に沿わない性被害の影響によるPTSD」と診断されている。
また、2025年4月の申し入れまで、出演者による重大な人権侵害としてリスク対応の担当部局へ相談した職員はおらず、当時の会長や副会長、担当役員にもリスク事案として報告が上がっていなかった。
●「原則を守ること自体が目的化していた」
調査検討委員会は、被害が深刻だったにもかかわらず、「特段の配慮」がおこなわれなかったと指摘した。
例外的な対応を認めれば、他の休職者などへの対応に影響が広がると懸念し、前例踏襲の対応に終始したと分析。
さらに、組織的な対応の欠落のほか、再発防止策の検討の欠如も問題視して「原則を守ること自体が目的化していた」と批判している。
また、PTSDへの理解不足から、被害の申告が1年数カ月後だったことを捉えて、被害の事実に対する懐疑的な見方が社内で生じ、続いていたとも認定した。
●人権DD試行、苦情救済窓口を新設へ
委員会は、人権侵害事案に断固とした姿勢を示すことや、人権デューデリジェンス(DD)の実施、人権方針の見直し、外部から職員が人権侵害を受けた事案に対応する部署の明確化、通報ルートの充実など、6つの項目の改善策を提言した。
NHKは提言を踏まえ、2026年1月に「ハラスメント防止・撲滅宣言」、4月に「人権方針」を公表。
7月には「職場のメンタルヘルスケアガイド」を改定し、復職先の検討やPTSDに関する解説、主治医・産業医の位置づけを盛り込んだ。
また、人権DDは2026年度中に試行し、苦情救済窓口を年内に開設する予定としている。
●「特定や憶測は控えるべき」
井上会長は「その後のNHKの対応により、Aさん(職員)にさらなる負担をかけ、復職まで時間を要するなど、キャリアに大きな影響を与えたことを重く受け止めています」とコメントした。
なお、職員や出演者の年代や性別などは公表されていない。委員会は、当事者や関係者を特定しようとする行為や憶測は控えるべきとしている。