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コンビニ店主ら「自営業者の過労死」、調査・研究進まず 過労死防止法5年
中央労働員会でコンビニ加盟店ユニオンに団交権を認めない命令が出たあとの記者会見で話す高橋義隆さん(2019年3月15日、編集部撮影)

コンビニ店主ら「自営業者の過労死」、調査・研究進まず 過労死防止法5年

働きすぎで亡くなる「過労死」。死亡したのが「労働者」なら労災申請などを通して、実態の一部を知り、改善につなげることもできる。しかし、「自営業者」などはそもそも捕捉が難しい。

2014年11月に施行された「過労死防止法(過労死等防止対策推進法)」は労働者に限らず、過重な仕事が原因で亡くなった自営業者らの「過労死」も調査・研究の対象にするとしている(8条2項)。

しかし、施行から5年たつものの、自営業者らについての調査・研究が十分に進んでいるとは言い難い。

たとえば、民間企業であれば、過労死が1件でも公表されれば、社会的な制裁を受け、労働環境の改善が求められるだろう。しかし、過労死が捕捉できなければ、そもそも問題は可視化されず、改善への圧力が働かない。

たとえば、コンビニオーナーもその1つだろう。(編集部・園田昌也)

●夜の勤務後、父が亡くなる・・・

ふぅ…妹の奨学金返済が終わったぜぃーー。宮崎県のファミリーマートオーナー高橋義隆さん(40)はこの11月、ツイッターでこうつぶやいた。

コンビニを始めたのは1996年2月。両親が酒屋兼住宅を改装してオープンした(現在は移転)。

しかし、その年の9月、父親(当時42)が脳幹出血で亡くなった。夜のスタッフが急に出勤できなくなり、代わりにシフトに入った後のことだった。

「病院に連れて行った母によると、急に頭が痛いと言い始めたそうです。深夜に病院からの電話で起こされて・・・。朝にはもう息を引き取っていました」(高橋さん)

高橋さんは当時高校2年生。学校から帰ると、父親はよく机に突っ伏して寝ていたという。夜中、うなされた父の叫ぶような声で、目を覚ましたこともある。

店はオープン間もなくでスタッフも少ない。父は1日の多くを店舗で過ごし、家に帰ってくる時間は不規則だった。トラブルがあれば、時間に関係なく階下の店舗から呼び出される。

「当時の宮崎では、今みたいにコンビニが認知されていませんでした。大きな借金をして業種まで変えたのに、『やっていけるのかな』というプレッシャーも相当大きかったのだと思います」

心身ともに大きな負担を抱えた末の死だったのではないかと、高橋さんは考えている。現在の基準で考えると、「労働者」であれば、労災が認められていたかもしれない。しかし、父親は労働者ではなく、「経営者」だった。

●高3のときは学校に通えず、妹はカウンターの下で寝泊まり

父の急死で生活は一変した。高橋さんは東京の大学への進学を目指していたという。模試では一橋大学の「B判定」をとったこともあったそうだ。しかし、母一人に店を任せることはできず、自らも店舗で働くことになった。

「妹は当時小学2年生。寂しがるので母と自分が夜勤に入っている間、客から見えないようカウンターの下にビールケースを3つ並べて、そこに布団を敷いて寝かせていました」

「高校3年生のときは、ほとんど学校に行けなかったですね。最後の試験は、後ろから3番目。担任の先生が頻繁に店に会いに来てくれました。よく卒業できたなと思いますが、いろいろ配慮してくれたんでしょうね」

高橋さんは高校生にして、父に代わって家族を支えなければならなかった。家計は苦しかったが、きょうだいのためにも懸命に働いた。2つ下の弟は大学に進学。妹も私立高校を卒業し、今年高橋さんが奨学金を完済した。

「親の引き継ぎですから。事業を引き継いでいる以上、やることはやらないと」ーー。自身は3児の父として、今もコンビニ経営を続けている。

●寄せられる「オーナーが倒れた」の連絡

中労委命令後の会見で涙をぬぐう高橋さん(中央) 中労委命令後の会見で涙をぬぐう高橋さん(中央)

高橋さんは現在、コンビニ加盟店ユニオンの副執行委員長として、全国の加盟店からの相談にも応えている。

「今年10月には、関東圏のあるコンビニ加盟店から、オーナーが過労で倒れたという連絡がありました。店で倒れているところをお客さんが見つけて、119番通報したそうです。幸い、命に別状はなかったようですが、精神疾患もあるそうで、本部への時短申請をサポートしています」

高橋さんの父親が亡くなって20年以上。この間にも、仕事中に倒れて亡くなったり、自ら命を絶ったりした同業者の話をいくつも耳にしてきた。

しかし、コンビニオーナーは労働者ではないため、仕事が原因であるかどうかが精査・判断されることはない。すべて「自己責任」扱いといっても良いだろう。したがって、社会がその過酷さを知る機会も限られてくる。

近年、ようやく労働環境の悪化傾向が知られるようにはなったものの、一体何人が仕事が原因で亡くなっているかは知る由もない。

●国の調査は生きている人が対象

労働者に限らず、仕事が原因で亡くなる人はなくしていかなくてはならないーー。

過労死防止法は、労働者だけでなく、労災の対象にならない個人事業主や法人の役員らの過労死なども調査・研究の対象にするとしている。

しかし、労働問題に詳しい増田崇弁護士によると、「法律では調査・研究の対象となってはいるが、実際はあまり進んでいない」という。

そもそも、労災申請などがない中、どのように自営業者らの過労死を捕捉しているのだろうか。

弁護士ドットコムニュースが、厚労省労働基準局に具体的な内容を尋ねたところ、2017年版の「過労死白書」に調査結果が載っているという。

2017年版過労死白書より 2017年版過労死白書より

同年の白書を見てみると、2016年12月〜2017年1月にかけて、法人役員6000人(回答985人)、自営業者5000人(回答1296人)を対象に、委託を受けた民間企業が働き方や何がストレスになっているかなどを尋ねている。

つまり、過労死を分析しているのではなく、生きている人の働き方を聞いているということになる。厚労省労働基準局によると、2019年度も同様の調査を実施し、2020年版の過労死白書に掲載する見込みだという。どんな分析内容になるか注目される。

2017年版過労死白書より 2017年版過労死白書より

政府は近年、「労働者」としてではなく、「雇用によらない働き方」を推奨している。働き方改革で労働者の残業には上限規制ができた一方、こうした働き方が広がれば、過労死が見えなくなってしまう恐れもある。

増田弁護士は「自営業者らの過労死について、早急に調査などを充実させていくべきだ」と話している。

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