女性たちを不当に拘束し、裸にして暴行する。性器に電気ショックを加え、家族の泣き声まで利用して精神を追い詰め、肉体も心も徹底的に破壊する──。
ロシアが支配するウクライナ東部の占領地域では、こうした組織的な拷問が続いているとされる。
武器を持たない民間人、とりわけ抵抗することが難しい女性たちへの拉致や拷問は、ジュネーヴ条約など国際法に反する重大な人権侵害だ。
筆者は今回、文字どおりの「地獄」と化した収容所から生還した女性たちにインタビューし、その想像を絶する体験を聞いた。(ジャーナリスト・志葉玲)
●芸術家が集まった施設が「拷問センター」に変わった
ウクライナ東部ドネツクにある悪名高い収容所「イゾリャツィヤ」。
かつて芸術家たちが集う文化センターだった工場跡は、人間性を破壊する「拷問センター」へと変貌した。
ロシア軍とその傀儡勢力による2014年のドンバス戦争、そして2022年に始まった全面侵攻以降、占領地から多くの女性たちがこの収容所へ連行されてきた。
2025年5月には、元収容者のリュドミラ・フセイノワさんを中心に、心身に深い傷を負った女性たちを支援する「ノモ・セストリ!」が設立された。ウクライナ語で「おいで、姉妹たち!」を意味する(※1)。
同団体は、首都キーウ郊外でリハビリ施設を運営している。筆者は今年5月に施設を訪れ、収容所から生還した女性たちに話を聞いた。
●「服をはぎ取って裸に」生還した女性たちの証言
スヴィトラーナさん(左)とユリアさん
「あそこは本当に恐ろしいところでした。女性の看守はいなくて、男性の看守ばかり」
イゾリャツィヤ収容所などに2019年から6年間拘束され、捕虜交換で解放されたスヴィトラーナ・ホロヴァンさん(37)は、そう振り返る。
「彼らは、私たちを『シャワーに連れていく』と首根っこを掴んで乱暴に引きずっていき…私たちが受けた扱いは…なんて言ったらいいか、わかりません」
スヴィトラーナさんは、言葉を詰まらせた。
「看守どもは女性たちの服をはぎ取って裸にし、頭に袋を被せ、レイプしました。それが彼らにとっては当たり前のことだったのです」
吐き捨てるように語ったのは、2021年から2年間拘束されたユリア・ドヴォルニチェンコさん(43)だ。
「20歳そこそこの若い男たちが、自分の母親のような年齢の女性に対し、口や性器、肛門、『穴』のあるところすべてに警棒を突っ込む。そんなおこないをどうしてできるのでしょうか…」
ザイツェワ・エレナ・ヴァシリエヴナさん(55歳)がつぶやくと、その場は静まり返った。
●性器に電気ショック、「スパイ容疑」はでっち上げられた
女性たちによると、多くは身に覚えのない容疑を理由に拘束されたという。
「私の場合は、『スパイ容疑』でした。もちろん、私はスパイなんかじゃありませんが、ありもしない容疑をでっちあげられるのです」
スヴィトラーナさんはそう話す。
ザイツェワさんは「一人捕まえるごとに報奨金が出たのです。収容所に送れば送るほど儲かるわけです。昇進もありましたし」と語り、ユリアさんも頷いた。
収容所では、虚偽の自白を強要するため、拷問が繰り返されたという。
「連中は『タピキ』と呼ばれる旧式の野戦電話からコードをつなぎ、私たちに電気ショックを加えました」(ユリアさん)
「女性の性器に電気ショックを与えた後に、のうのうと家に帰って自分の妻に『愛しているよ』などと、連中はどうして言えるのか。私にはまったくわかりません」(ユリアさん)
スヴィトラーナさんも、窒息させるような拷問を受けたと証言した。
「頭に袋を被せられ、息が出来ないように首のまわりをテープでぐるぐる巻きにされました。私は、袋に爪で小さな穴を空けたので、何とか息が出来たのですが」
収容所を移動するときも、苦痛を与え続けられたという。
「取り調べなどで収容所内を移動する際には、いつも、看守に首をへし折らんばかりの力で掴まれ、頭を下げさせられます。両手に手錠をかけられ、後ろに捩じ上げる『ラーストチカ』(ツバメ)という体勢をとらせられました。これは非常に苦しいのですが、そうしなければ、その場で床に叩きつけられ、激しく蹴りつけられました」
●「お母さんを返して」娘の泣き声を繰り返し聞かされた
証言した女性たち
拷問は、身体を傷つけるものだけではなかった。
スヴィトラーナさんは、幼い娘の声を利用した精神的な拷問を受けたと語る。
「連中は、私の幼い娘が『お母さんを返して』と泣き叫ぶ声を録音していました。それを繰り返し聞かされ、精神が崩壊する寸前まで追い詰められました」
同様の手口は、ほかの女性たちにも使われたという。
ユリアさんも「一緒に捕まった私の夫が激しく殴られ絶叫しているのを直に聞かされました。愛する人が痛めつけられているのを聞かされる、それ自体が拷問です」とため息をついた。
●拷問の「専門教育」、敷地内には犠牲者を埋める場所も
こうした暴力は組織的におこなわれていたと女性たちは証言する。
「取り調べの際、連中は臆面もなく、彼らがいかに女性を痛めつけ拷問するかの専門的な『教育』を受けていることを語りました」(ユリアさん)
さらに、収容所内で命を落とした人もいたという。
「収容所の敷地内には、激しい拷問や虐待に堪えかね、命を落とした犠牲者を埋める場所さえありました」(ユリアさん)
●「まだ大勢が拘束されている」生還者たちの訴え
ロシアとウクライナの捕虜交換で解放された女性たち(ユリアさん提供)
今回インタビューに応じた女性たちは捕虜交換などで解放された。
しかし、占領地域ではいまも多くの民間人が拘束されているという。
「まだ解放されていない女性たちが大勢います」 「ロシアが占領している地域では、今も女性たちが次々に拘束されています。むしろ、以前よりも酷い状況かもしれない」
そして、「女性たちの拘束や拷問はジェノサイド(※2)であり、プーチン大統領やロシア軍関係者は、その法的責任を問われるべきです」と話す。
ロシア側が情報を公開していないため、実数は不明だが、ウクライナ当局はロシア側に拘束されている民間人は少なくとも約1万6000人と認定している。実際にはさらに多い可能性も指摘されている。
国際社会には、民間人の即時解放をロシア側に求めるとともに、拷問や性暴力の実態を解明し、責任追及を進めることが求められている。
(※1)団体のFacebookページ (※2)ジェノサイドとは、国民や民族等の集団の全部或いは一部を破壊することを目的に行われる殺戮その他の人権侵害。国際法上、最も重い罪とされ、その阻止や責任追及は、強制力を伴う国際社会が果たすべき義務とされる。