ヘルメットを首にかけたまま、前を見ずに走るバイク。次の瞬間、その車体は前方の乗用車に突っ込んだ——。
そんなドライブレコーダー映像がXやYouTubeに投稿され、大きな注目を集めている。
映像は7月中に撮影されたものとされ、投稿者は「前方不注意で追突し逃走中」と説明。運転者の顔にはモザイクがかけられておらず、追突後、そのまま現場を走り去るような様子も映っている。
さらに、その後にはバイクの運転者を「特定した」として、氏名や出身中学校などの個人情報をインターネット上で拡散する動きも広がっている。
追突して立ち去った運転者には、どのような法的責任が生じるのか。一方で、その責任を追及する目的で映像や個人情報を公開・拡散することは許されるのか。冨本和男弁護士に聞いた。
●運転者側に考えられる違反
──映像では、運転者はヘルメットを首にかけた状態で走行し、前方を見ないまま前の車両に追突したうえ、現場から立ち去ったように見えます。こうした行為には、どのような問題が考えられるのでしょうか。
まず、ヘルメットを着用せずに運転した場合、刑事罰の対象にはなりませんが、道路交通法71条の4違反として、違反点数1点の行政処分の対象になります。
また、追突事故については、車間距離保持義務違反(同26条)や安全運転義務違反(同70条)が問題となります。
安全運転義務違反には、「3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金」(同117条の2の2第1項8号リ)が定められています。
さらに、相手が負傷していれば、道路交通法違反だけでなく、過失運転致傷罪というより重い刑事罰の対象になります。
加えて、事故後に現場を立ち去ったのであれば、道路交通法72条1項の措置義務・報告義務違反にあたります。
措置義務違反は「1年以下の拘禁刑または10万円以下の罰金」(同117条の5第1号)、報告義務違反は「3月以下の拘禁刑または5万円以下の罰金」(同119条1項17号)が規定されています。
●動画を晒した側に考えられる法的問題
──運転者の顔にモザイクをかけないまま映像が公開され、さらに「特定した」として氏名や出身中学校を投稿する動きも出ています。「逃走中だから」「悪いのは向こうだから」という理由で正当化する声もあります。
まず問題となるのは、名誉毀損です。名誉毀損とは、人の社会的評価を低下させる行為をいいます。
顔にモザイクをかけず映像を公開したり、氏名などを明らかにしたりすれば、その人の社会的評価を低下させるおそれがあるため、名誉毀損にあたる可能性があります。
映像を見る限りでは、事故後に逃走したようにも見え、「けしからん」と感じる人は多いでしょう。しかし、それを理由にインターネット上で私的制裁を加えてよいことにはなりません。
また、プライバシー侵害の問題も生じます。プライバシーについては判例や学説にさまざまな考え方がありますが、少なくとも「他人に知られたくない個人的な情報」は保護の対象と考えられています。
そのため、運転者の顔を隠さず映像を公開したり、氏名や出身中学校まで明らかにする行為は、個人的な情報を他人に知られない権利を侵害するため、プライバシー侵害にあたると考えられます。
──リポストや引用で拡散した人にも責任が及びますか。無関係の人の氏名などを晒せばどうなりますか。
リポストや引用投稿でも、名誉毀損やプライバシー侵害による損害が拡大するため、最初に投稿した人と同様の責任を負うと考えられます。
また、「特定」の内容が誤っていて、無関係の人を犯人として晒してしまった場合には、正当化される余地はほとんどなく、より重い法的責任を負う可能性があります。