深夜バラエティ番組の収録中に男性共演者から性的な言動を受けたにもかかわらず、テレビ局が安全配慮義務を怠ったとして、フリーアナウンサーの女性がTBS系列局「あいテレビ」(愛媛県松山市)に損害賠償を求めている訴訟の第2回口頭弁論が7月28日、東京地裁で開かれた。
女性側は訴えの変更を申し立て、請求額を約4100万円から約6300万円に増額した。理由について、期日後の報告集会で、あいテレビが訴訟や放送倫理・番組向上機構(BPO)の手続きで展開した主張そのものが「二次加害」にあたり、女性の精神的苦痛を深めたためだと説明した。
●「セカンドレイプにあたる」局側の主張を増額理由に
訴状などによると、問題となった番組は2016年4月から2022年3月まで収録・放送された。
進行役をつとめた原告女性は、飲酒した芸能人や僧侶の共演者から計37件のセクハラを受けたにもかかわらず、局はこれを放置したと主張している。提訴時には重度のうつ病と診断されており、現在も働けない状態だという。
2025年10月3日の第1回口頭弁論で、あいテレビ側は請求棄却を求め、その後は非公開の進行協議が続いていた。
原告代理人の雪田樹理弁護士は、この進行協議で示された局側の主張が、増額の直接の動機になったと述べた。
「局から出されている主張は、セカンドレイプにあたる二次加害行為で、あまりにもひどい。これについては独自に請求原因を立てて、請求の趣旨を拡張していくべきではないかということで、訴えの変更ということになった」
雪田弁護士によると、局側は訴訟で、共演者の言動がセクハラにあたること自体を一貫して否定。女性が「会話を楽しんでいる様子」だったことや、番組の設定がバーであること、長期間出演を続けたことなどを挙げて、女性はセクハラに黙示的に同意し、許容していたと主張しているという。
また、局側は女性が番組降板を申し出るまで、抗議や相談がなかったと主張しているが、原告側は「番組を笑顔で進行しなければならなかった」「明らかに事実に反する」と反論している。
●複雑性PTSDの確定診断、逸失利益も追加
請求額を増額したもう一つの理由は、女性が今年5月に複雑性PTSDと確定診断されたことだ。
これを受けて、女性側は逸失利益と後遺症慰謝料を新たに請求項目に追加した。
提訴時点ですでに複雑性PTSDを発症していた可能性もあるとして、後遺障害の等級についても引き上げを主張している。
訴えの変更申立書では、複雑性PTSD発症の影響で「『愛媛』という文字をみると苦痛を伴うため地元に帰ることができない」ともうったえている。
●原告代理人「増額が認められた例は知らない」
訴訟で相手方が展開した主張を理由に慰謝料の増額を求める構成には、どの程度前例があるのか。
過去に、性加害やセクハラ訴訟における二次加害が、慰謝料の増額事由として認められた例があるのか、弁護士ドットコムニュースが報告集会で尋ねたところ、原告代理人は同種の先例を把握していないと答えた。
また、訴訟活動に伴って二次加害にさらされる人が他にもいる中で、問題提起の狙いがあったのかとの質問には、その意図が先にあったわけではないと説明した。
「あまりに二次加害がひどく、それによる原告本人への打撃がひどかった。今すぐ中止してほしいという気持ちが強くあった。これがどれだけ苦しいことなのかを理解させるべきではないかと思った。やむにやまれぬ理由というところが大きい」(原告代理人の伊藤和子弁護士)
なお、女性は提訴前にBPOへ申し立てたが、BPOは「人権侵害は認められず、放送倫理上の問題もあるとは言えない」との見解を示していた。
女性側は今回、BPOの手続きで、あいテレビ側が示した主張についても二次加害にあたるとして、請求額を増額する理由に含めている。
原告代理人によると、あいテレビ側はこの日、訴えの変更申立てについて棄却を求めたという。
(弁護士ドットコムニュース編集部・塚田賢慎)