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過労自死した研修医の父「一般労働者と同じ残業規制を」…医師の働き方改革
山田明さん

過労自死した研修医の父「一般労働者と同じ残業規制を」…医師の働き方改革

勤務医の残業時間について、2024年4月から年間上限を何時間にするかが厚生労働省の検討会で話し合われている。

2月20日には、(1)一般の勤務医960時間(月80時間相当)、(2)若手勤務医1860時間(月155時間相当)、(3)地域医療の勤務医も同じく1860時間という案が示された。

一般勤務医は一般労働者と同じ長さだが、技能を磨く必要がある若手勤務医(研修医など)、人手不足の地域医療を支える勤務医については、一定の時間が必要との判断だ。

時間のベースとなっているのは、「残業が年1920時間を超える勤務医が約1割いる」という厚労省の調査だ。当初は1900〜2000時間が検討されていたことを考えると、これでも少なくなった方といえる。

ただ、1860時間の勤務を認めるには一定の制限がかけられる見込みではあるとはいえ、「過労死ライン」の倍近い時間設定には批判も多い。加えてこの中には、呼び出しがあれば病院に駆けつける「オンコール」(待機時間)が含まれていない。

大学病院の研修医だった娘(当時26歳)を2006年に過労自死で亡くした埼玉県の医師・山田明さん(70)は、「医者はスーパーマンでもロボットでもなく、生身の人間」だとして、「(一般労働者と)同じような規制をしないといけない」と訴える。

山田さんも参加した、医師の働き方を考えるシンポジウム(2月16日)の内容を紹介したい。

●「長時間は当たり前」の意識、改めて

医師の労働時間が長くなりやすい理由の1つに「当直」がある。山田さんの娘は年間で77回の当直があり、残業時間は月200時間を超えていたという。研修医2年目に入った4月に自らの命を絶った。

「研修医はめちゃくちゃ働かせるのではなく、逆に早く帰らせて、家で文献を読む時間をつくらせるなど、学ばせることがたくさんあります。医師を育てる側が、医師の命の尊厳を守ろうとしない。こんなことでは患者の命は守れません」

山田さんは、医師の世界には「長時間稼働して当たり前という意識がある」として、業界の意識を変えるためにも、むしろ規制や罰則を強化すべきと主張する。

このままでは、「私と同じような経験をする人が必ずでてきます」と述べ、「医者は生身の人間、他の労働者と同じように扱わなければならない」と訴えた。

また、過労死問題にくわしい尾林芳匡弁護士は、医師の過労死をめぐる10件ほどの裁判例を紹介し、2000時間近い残業は「常軌を逸した水準」と批判した。

●地域・診療科の偏在、加速を懸念

全国医師ユニオンの植山直人代表は、若手医師の中で働きやすさを重視して診療科を選ぶ傾向が強まっているとして、都市部と地方に残業時間の上限差が生まれることで、地域・診療科による医師の偏在が加速する可能性を指摘した。

植山代表はさらに、長時間労働こそが東京医大などで発覚した入試における女性・多浪差別の原因だとして、2000時間近い残業を容認することは、差別を温存・固定化させる方向につながりかねないと懸念を口にした。

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一方で、この問題の悩ましいところは、現状のまま医師の労働時間を短くすると、医療が回らなくなる点にある。

会場からは、残業時間の削減には、宿直の回数を減らすことが有効だとして、病院の集約化は不可避との意見もあった。

ただし、集約化すれば、患者は病院へのアクセスが難しくなる可能性があり、主治医制がとれなくなるなどの弊害も考えられる。医療を利用する側の意識も問われるところだ。

加えて、病院の存続にもかかわるため、病院経営者が集約化を積極的に望むとは考えづらいということもある。

さまざまなものを天秤にかけながら、今後も医師の働き方をめぐる議論は続く。

ただし、医師が亡くなったとき、単月100時間、複数月80時間を超える残業があれば、過労死と認定される可能性が高いことは揺るぎない。いずれの時間が設定されたとしても、労働時間を短くする努力は要求され続ける。

(弁護士ドットコムニュース)

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