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賛否両論のギグワーク、「雇用型」タイミーが描く「自営業型」ウーバーとは違う世界観
タイミー執行役員の石橋孝宜・スポットワーク研究所長(弁護士ドットコム撮影)

賛否両論のギグワーク、「雇用型」タイミーが描く「自営業型」ウーバーとは違う世界観

単発で働けるギグワークのプラットフォームとして、フードデリバリーのウーバーイーツに注目が集まっている。自由な働き方で稼げる一方、配達員は個人事業主として扱われており、雇用と比較すると保護が乏しく、問題視する声が根強い。

一方、同じ単発の働き方でも、「雇用型ギグワーク」を掲げているのが、単発バイトアプリ「タイミー」(Timee)だ。ウーバーのような個人事業主型と異なり、あくまで雇用のアルバイトという位置付けになっている。

「タイミー」は、雇用であることの「安心・安全」を打ち出すとともに、単発勤務後の引き抜きも促している。世界各地で猛烈な労働紛争を巻き起こしながら、ギグワークを推進するウーバーとは違う、「日本的ギグワーク」の実態を聞いた。(編集部・新志有裕)

●最低賃金などの保障がある

「タイミー」の使い方はシンプルだ。アプリを通じて自身の情報を登録。たくさんの求人の中から、働きたいものを探して応募する。一番短いもので、1時間の仕事からある。

面接や履歴書は不要で、当日は職場に着いて、QRコードを読み込んで、雇用契約の締結と出勤の記録をしてから仕事が始まる。仕事が終わったら、QRコードを読み込んで終了。希望すれば、即座に給与が支払われることが特徴だ。企業とワーカー双方の評価機能もある。企業からワーカーに支払われる報酬の30%がタイミーの得る利用料となっている。

タイミーを利用するワーカーとしては、以前は学生が多かったが、コロナ禍以降、会社員の副業が増え、ワーカー登録者数は230万人を超えた。業種としては、以前は飲食が多かったが、コロナ禍以降は物流の軽作業が大幅に増えている。企業にとっては、リアルタイムで人材の需給を調整できることがメリットで、登録企業数2万3000、導入店舗数5万6000にのぼる(2022年2月)。

画像タイトル タイミーのアプリ(提供写真)

ちょっとした時間に働けるという意味では、ウーバーイーツと変わらないが、制度的な仕組みは異なる。ウーバーイーツは、利用者、飲食店、配達員をマッチングさせるプラットフォームとして、配達員を個人事業主として扱っている(労働組合法上の労働者性をめぐっては、東京都労委で係争中)。

一方で、タイミーのような日雇いバイトの場合、雇用されているので、最低賃金や労災、割増賃金などの保障がある。

両者の違いについて、タイミー執行役員の石橋孝宜・スポットワーク研究所長は、「良し悪しがあって、個人事業主としてギグワークをする場合、時給ではなく成果報酬なので、稼ぎやすい。一方、タイミーだと、雇用であることの安心感や、色々な仕事ができるといったメリットがあります」と語る。

●「安心・安全」を打ち出すための制度的課題

「安心・安全」を売りにするには、制度的な面での課題をクリアする必要があった。法改正によって、2019年4月に労働条件通知書の電子化が認められたことを受けて、QRコードを使った雇用契約締結の機能を実装した。

また、バイトの業務が終了して、即座に賃金をワーカーのもとに届けるためには、タイミーが賃金を立て替え払いする必要があったが、これは、労働基準法の賃金の直接払い原則に抵触する可能性があった。そこで、グレーゾーン解消制度を利用して、厚労省から適法であるとの回答を得た。

厚労省の「労働市場における雇用仲介の在り方研究会」のヒアリングを受けるなど、政策面での貢献も目指している。石橋氏は、「プラットフォーマーのあり方については議論があるので、信用・信頼を最優先にしたサービスだということを打ち出したい。国からの期待も感じている」と語る。

画像タイトル タイミー執行役員の石橋孝宜・スポットワーク研究所長(弁護士ドットコム撮影)

また、雇用型ギグワークの理解促進のための活動にも力を入れており、不安定なイメージのある「ギグワーク」に代わり、「スポットワーク」という名称を用いている。

●「大人版キッザニア」を意識

単発の労働である以上、ウーバーイーツと同様に、生活苦に陥った人たちの一時しのぎというセーフティネットの側面がある。だからこそ、「すぐにお金がもらえる」ということが重要になる。

しかし、タイミーとしては、新たな仕事探しにつなげたいと考え、企業側がタイミーでの単発バイト後の引き抜きを無料にするなど、ギグワークにとどまらない世界を目指している。

石橋氏は、「大人版キッザニアのようなものを意識しています。単発のアルバイトをきっかけに、様々な職種で働く経験がライトにできます」と語る。

実際に、タイミーでのバイトをきっかけにして、その企業での正社員雇用につながるような実例も出ているという。

タイミーが2021年に実施した第1回ギグワーカー大賞にも、 「経験できる職種が幅広く様々なことに挑戦することができ、その経験を通じて視野が広がり多くの社会経験を積むことができる」(18歳大学生) 「コンビニで培った顧客との距離感を本業にも生かせた」(26歳会社員) などの声が寄せられている。

企業にとっても、ワーカーからの評価を通じて、職場改善につなげるなど、人材活用にとどまらない、新たなメリットがあるという。

●必ず起きる「トラブル」にどこまで対応できるか

「安心・安全」をうたう以上、制度的な課題はクリアされたとしても、雇用主とワーカーの間で必ず一定数のトラブルは発生する。

基本的には、雇用主とワーカーの間の問題ではあるが、タイミーでは、双方の意見を聞いたり、間を取り持ったりするケースもある。石橋氏は、「『我々は関係ない』とは口が裂けても言えません。トラブル対応の人員が重要になるので、優先的に投資をしています」と語る。

企業側の受け入れ態勢も重要になるため、マニュアルの整備などに取り組んでいる。

今後については、タイミーを利用するワーカーが、雇用主からの評価の蓄積を利用して、新たな職探しにつなげる仕組みなど、「次のキャリア」を意識した展開を描いている。「安心・安全で日本らしい、自由な働き方を生み出して、人生の可能性を広げるインフラになりたい」と語る。

ウーバーは、個人の力をつなぎ合わせる「ピア・ツー・ピア」を掲げることで、一般人が乗用車で他人を運ぶ「ライドシェア」などのサービスを生み出し、世界中で爆発的に拡大させてきた。一方、運転手や配達員の法的な保護をめぐっては、世界的な問題になっている。消費社会を変えたイノベーションである一方、軋轢を物ともしない姿には、批判も根強い。

タイミーのような「安心・安全」をうたうギグワークが、どこまで広がっていくのか。その先にどんな世界観を構築できるのか。今後の展開が興味深い。

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