「無差別殺傷事件を起こせば、射殺されるか死刑になって死ねる」
殺人予備の疑いで7月12日に逮捕された富山県滑川市の男性(53)が、そんな供述をしていると報じられた。
リュックサックにナイフを忍ばせ、高速バスで東京へと向かおうとしていた男性。その凶行を食い止めたのは、18年前に秋葉原で通り魔事件を起こした加藤智大・元死刑囚の友人だった。(弁護士ドットコムニュース・一宮俊介)
●YouTubeを見た男性から届いたサイン
東京都に住む大友秀逸さん(50)のXに、男性から突然連絡が来たのは7月1日だった。
2008年6月8日に発生した「秋葉原無差別殺傷事件」を特集したインターネット番組が今年6月に放送され、大友さんはそこに出演した。男性は、その動画をYouTubeで見て、大友さんのXに辿り着いたとみられる。
「最近生きるのにも疲れてきたんで、秋葉のように楽しくヤッてタヒもいいかとよく思うようになりました」
「タヒ」とは、ネット上の隠語で「死」を示す。無差別殺人を肯定し、自らも事件を起こして死にたいとほのめかす内容だった。
こうした相談を普段から受けている大友さんは、頭ごなしに否定したり刺激したりせず、ダイレクトメッセージ(DM)に誘導してやり取りを続けた。
そこで、男性は、自身が抱える困難や生きづらさについて吐露したという。
●「片道切符で行く」本気度を確信した瞬間
「東京に出てくるなら、まず飯でも食いませんか」
大友さんは、相手に予定を入れさせ、犯行を先延ばしにさせようと、そう声をかけた。
しかし、男性からの返信は不穏なものだったという。
「20数年ぶりに東京に行く」「周りのものをすべて処分して、片道切符で新宿に行く」
バスのチケットを予約した男性からは、後戻りしない強い覚悟を感じた。
逮捕された被疑者がXで大友さんに連絡してきた投稿(一部を加工しています。弁護士ドットコムニュース撮影)
大友さんが「それは事件を起こすつもりで言ってますか?」と直球で問いかけると、男性から「言及は控えさせてもらっていいですか」と返答が来た。
「これまで『やる』と言ってやらない人にはたくさん会ってきましたが、『言及を避ける』人は初めてでした。この人は本当にやるなと直感しました」
大友さんは7月11日に警察に通報した。すると、富山県警がすぐに動き、翌12日に富山県の自宅アパートにいた男性を逮捕した。
●「『一人で死ね』は本人を追い詰めるだけ」
「これで事件が解決したわけではありません。問題を少し先延ばしにできただけです」
大友さんは安堵していないという。
「社会から見捨てられ、絶望した彼のような人たちに対して、ネット上では『人を巻き込まずに一人で死ね』という人がいますが、それでは何の解決にもならないどころか、かえって彼らを追い詰めるだけです」
そして、こう続けた。
「今回、私は警察にチクったことになります。人が死なないで良かったですが、本人の『死にたい』という希望をたってしまいました。 なので、どこかのタイミングで面会に行けるなら会って、彼が今どういう感情なのかを聞いた上で、一人の人間として責任を持って支えていきたいと思っています」
●無差別事件は起きる「『対岸の火事」程度には捉えて」
友人だった加藤智大・元死刑囚が秋葉原の歩行者天国にトラックで突っ込み、無差別に人を襲った事件以来、大友さんは同様の事件が起きないためにどうすれば良いかを考え続けてきた。
今回、最悪の事態を未然に防げたことについて、最後に次のように話した。
「事件が起きても、世の中の多くの人にとって、無差別殺傷事件は人ごとです。『対岸の火事』であれば自分の目で見えるが、実際には『異世界の火事』になっています。 火も見えないし熱さも感じないかもしれませんが、現実に起きるものだと私は思っています。なので社会には、せめて『対岸の火事』という程度に起きえるものだと捉えてほしい」