富山県黒部市の海水浴場で7月19日、群馬県から訪れていた小学4年生の男の子(10)が溺れて死亡する事故が起きた。
報道によると、男の子はサッカークラブチームの遠征で富山県を訪れ、引率者1人と小学生17人で海水浴場に来ていたという。その後、男の子の姿が見えなくなり、海中で発見されたが、死亡が確認された。
SNSでは、10人以上の小学生を引率者1人でみるのは「不可能ではないか」といった声も上がっている。
夏休みは、スポーツクラブや学校、地域団体などが子どもを引率して海や川へ出かける機会が増える時期だ。
こうした水難事故が起きた場合、引率者や団体にはどのような法的責任が生じる可能性があるのだろうか。また、事故を防ぐには、どのような安全管理が求められるのか。水難事故にくわしい上野園美弁護士に聞いた。
●「事故を予見できたか」がポイントに
「水難事故における法的責任では、『事故を予見できたか』が重要な検討要素となります」と上野弁護士は説明する。
具体的には、当日の海の状態(海況)や遊泳区域について十分な説明がされていたか、子どもたちの泳力を事前に把握していたか、監視体制は適切だったかなど、事故当時の状況を総合的に考慮して判断されるという。
今回の事故では、男の子は遊泳区域外で発見されたと報じられている。この海水浴場では17時まで監視員が配置されていたが、男の子が行方不明になったとの通報は17時35分だった。
上野弁護士は「男の子がいつ姿を消したことに気づいたのか、監視員がいなくなった後も遊泳していたのかなど、現時点では判明していない事実が多くあります。こうした事情も踏まえ、溺水事故を予見できたかどうかが検討されることになります」と話す。
●「17人の児童に対して引率者が1人」は適切だったのか
一方で、「17人の児童に対して引率者が1人という体制が適切だったのかも、重要な検討事項の一つになるでしょう」と上野弁護士は指摘する。
スポーツクラブなどの引率者は、児童の生命や身体を守るため、必要な安全管理措置を講じる義務(安全配慮義務)を負う。
上野弁護士は「事故を予見できたにもかかわらず、その義務を怠ったと認められた場合には、民事上は損害賠償責任、刑事上は業務上過失致死罪が問題となる可能性があります」と説明する。
ただし、責任の有無が引率人数だけで決まるわけではない。当時の監視体制や事前の安全確認などを踏まえ、個別具体的に判断されるという。
●過去の裁判でも分かれる判断
実際、引率中の水難事故をめぐる裁判では、事案ごとに結論が分かれている。
奈良地裁は2015年、野球チームのレクリエーションで海水浴場を訪れた中学2年生が溺れて死亡した事故について、代表者や副代表の監督責任を否定した。
また、東京地裁は1972年、臨海学校の遊泳訓練中に小学5年生が死亡した事故で、児童を泳力ごとにグループ分けし、それぞれに監視者を配置したほか、陸上にも監視者を置くなど十分な監視体制を整えていたとして、引率教職員らの責任を否定している。
一方、札幌地裁は1978年、公立中学校の臨海水泳指導中に生徒が溺れた事故について、使用する海域の水深や海底の状況を十分に調査せず、監視義務も尽くしていなかったとして、引率教員側の過失を認めた。
上野弁護士は「監視体制や事前の安全確認、子どもの泳力の把握などが十分だったかによって、裁判所の判断は分かれています」と話す。
●痛ましい水難事故を繰り返さないために
では、こうした事故を防ぐには、どのような点に注意すべきなのか。
今回の事故を受け、上野弁護士は、海ならではの危険性を十分に認識する必要があると指摘する。
「海はプールと違って潮の流れがあり、急に深くなる場所もあります。引率者は、海水浴場の特性や危険箇所を事前に確認しておくことが重要です」
さらに、「子どもが『泳げる』と言っていても、背が立つ場所でしか泳いだ経験がないケースもあります。海で泳いだ経験があるのか、足の届かない場所でも泳げるのかなど、泳力を事前に確認することも大切でしょう」
海へ出かける機会が増える夏休み。上野弁護士は「監視体制や事前の安全確認を徹底することが、水難事故を防ぐ第一歩になります」と話している。
【上野園美弁護士略歴】
青山学院大学経済学部経済学科卒業。2000年10月司法修習終了(53期)。2005年シリウス総合法律事務所サブパートナーに。2006年12月公認会計士登録。豊島岡女子学園監事。著書に「事例解説 介護事故における注意義務と責任」(共著・新日本法規)、「事例解説 保育事故における注意義務と責任」、(共著・新日本法規)「事例解説 リハビリ事故における注意義務と責任」、(共著・新日本法規)「交通事故事件処理の実務-Q&Aと事例-」(共著・新日本法規)、「アウトドア六法」(共著・山と渓谷社)など。