世界中で労働紛争を巻き起こす「ウーバー」、破壊的モデルの行く末
ウーバーイーツの配達員(弁護士ドットコム撮影)

世界中で労働紛争を巻き起こす「ウーバー」、破壊的モデルの行く末

タクシーではなく、一般のドライバーが自家用車で乗客を運ぶ「ライドシェア」や、空いた時間に自転車で手軽にできるフードデリバリーなど、米ウーバー・テクノロジーズが始めたプラットフォームビジネスは、世界中に大きな広がりを見せている。

ウーバーは、従来型の消費者向けビジネス(B2C)ではなく、余ったリソースを需要とつなぐピア・ツー・ピア(P2P)の考え方を打ち出し、ネット上ではなく、現実世界でサービスを積極展開することにより、各国のタクシー業界などに破壊的インパクトをもたらしてきた。

破壊的インパクトは、既存の業界に対してだけではなく、労働法制に対しても同様だ。各国で、ウーバーのプラットフォーム上で単発で働く「ギグワーカー」たちが「労働者」なのか、「個人事業主」なのか、という紛争が起きている。

ウーバー発祥の国であるアメリカのプラットフォーム労働に詳しい労働法研究者の藤木貴史氏(帝京大学法学部助教)は、「ギグワーカーが組織に雇われている『被用者』と完全に同等に扱われるかどうかの議論こそあるものの、労働法を拡張して、何らかの保護をしようというのが世界の潮流になっている」と語る。詳しく聞いた。(編集部:新志有裕)

●アメリカやEUで何が起きているのか

ーーアメリカでは、ギグワーカーの法的位置付けをめぐって、紛争がたくさん起きていますが、どのように捉えればいいのでしょうか。

完全に係争中で、結論らしい結論は出ていません。連邦レベルの最高裁判決が出ると、国として大きく動きますが、高裁レベルの判断すらはっきりとは示されていません。また、各州の裁判所でも判断が揺れています。

ーーアメリカは州単位で法律が異なり、ウーバーが本社を置くカリフォルニア州では、2020年1月に、ギグワーカーも原則被用者として、失業保険や最低賃金などで保護する州法「AB5」(Assembly bill5)が施行される一方、同年11月の住民投票で、ウーバーの運転手や料理宅配などを保護の対象から除外する住民投票が成立し、さらに、2021年8月に、カリフォルニア州の裁判所がこの住民投票が州憲法に違反すると判断するなど、混乱が続いていますが、何が起きているのでしょうか。

この「AB5」というのは、簡単に言えば、役務を提供する個人を被用者と推定する法律です。それを否定するためには、以下の点について、事業者側が立証する必要があります。

(A)個人が管理監督から自由であること
(B)個人の提供する役務が、使用者の通常の事業の外にあること
(C)個人が、独立性の確立した仕事に従事していること

このABCを満たしていることが求められるため、ABCテストと呼ばれています。つまり、このテストのもとでは、被用者と認められやすくなるのですね。

プラットフォーマーの側はこれを嫌がり、多くの資金を投入して、AB5を否定する住民投票の実施を働きかけた、という構図です。住民投票を否定した判決も、法政策的な観点からの判断というより、形式に不備があるという技術的な理由からの判断のようですので、今後の司法の動向は不透明ですね。

司法では判断が揺れていますが、立法レベルでは、ABCテストが他の州でも広がる傾向にあります。もちろん例外もあり、テネシー州やテキサス州など共和党優勢の州では、逆に自営業者と推定しよう、という法律が成立してもいます。

また、アメリカ全体で(連邦レベルで)考えると、共和党のトランプ政権の時には、独立契約者を広く認めようという動きでしたが、民主党のバイデン政権になってから、方向転換をしています。民主党政権が続けば、被用者性をより認める方向にいくでしょう。

UberのYouTubeチャンネル(https://www.youtube.com/watch?v=M_wN2dLoE3Q)より

ーーEUでも、欧州委員会が2021年12月、ギグワーカーを雇用関係にあると法的に推定するプラットフォーム労働指令案を提案しました。アメリカと似た傾向だということでしょうか。

そうですね。方向性としては似ています。EUの指令については、直接に国内法となるものではありませんが、実現すれば、国内法化する義務が加盟国に課されます。

●日本のウーバーイーツ配達員はどう位置付けられるか

ーー日本でも、ウーバーイーツの配達員でつくるウーバーイーツユニオンが、運営会社に団体交渉を不当に拒否されたとして、東京都労働委員会に救済を申し立てています。ユニオンが、労働組合法上の労働者であるかどうかが注目されていますが、どう考えますか。

日本の労働法では「指揮監督」を非常に重視する傾向があって、労働基準法については、労働者として認められにくいと考えられています。ただ、学説では、指揮監督にこだわる必要はないという主張もあります。

一方で、労働組合法については、もう少し広くとらえられるものであり、事業組織への組み入れ、労働条件の一方的・定型的決定、報酬の労務対価性の3点を中心に判断されます。

これだけでは判断できない場合の補完的要素として、業務の依頼に応ずべき関係にあるかとか、緩やかな意味での指揮監督の有無、事業者といえるかどうか、なども加味されます。

ーー労働組合法上の労働者と認められる可能性はあるのでしょうか。

当然、個別の証拠によって判断は変わるのでしょうが、今のウーバーイーツの仕組みから考えると、ウーバーイーツは食品配達プラットフォームとして、飲食店から注文者に食品を配達するということをやっていて、それ以外の事業はしていないように思います。

ウーバーは自らの事業を営んでいると評価されますので、そこで働いている人たちは当然、事業組織に組み入れられていると考えざるをえません。そして、報酬の条件も一方的に変更されるようですし、報酬は、配達という労務の対価といえるでしょう。

労働組合法上の労働者性を認めないという結論はナンセンスではないでしょうか。学術的な議論の場でも、そのように考える人が多いように思います。

ウーバーイーツユニオン(2021年5月の記者会見)

ーーウーバー側は、飲食店と配達員と注文者を単にマッチングするだけのプラットフォームだと言っていますが、そういう言い分は通らないのでしょうか。

アメリカでもそういう反論はありますが、そうであれば、プラットフォームの使い方について、コントロールを及ぼしていることについて、説明がつかないと思います。

ーー確かに、配達員はウーバーから提示された仕事を受けるか受けないかの選択はできますが、どんな注文を提示するのか、料金がいくらなのかはウーバー側が決めていますね。

仕事の中身や条件に一切タッチしないのであれば話は別ですが、プラットフォーム側がコントロールを及ぼしている限りは、組織の中に組み入れられているということになります。

配達員がWoltなど、他のサービスと併用していたとしても同じことです。別の組織にも組み入れられているということになるだけです。

ーーただ、ギグワーカーの皆が保護を求めているわけではないのではないでしょうか。

「俺たちは労働者じゃないんだから、ユニオン作るなんてダセーよな」という考え方は、日本だけでなく、アメリカでもあります。アメリカン・ドリームへの憧れが強いことが一つの原因のようです。

しかし、ダサかったとしても、最低限の保護は必要です。また、ダサいと思う人が悪い、という話でもありません。企業に雇われるという働き方の負の面が、そういう忌避感を生じさせてしまっていることについても、向き合う必要があるんでしょうね。

●被用者でも個人事業主でもない「第3カテゴリー」は必要か

ーーイギリスでは、雇用関係にある「被用者」と、個人事業主の「自営業者」の中間的な存在として、被用者よりも保護の範囲が限定された「労働者」というカテゴリーがあり、最高裁の判断として、ウーバーの運転手が「労働者」と認められました。日本でも、このような中間的カテゴリーを作るべきでしょうか。

アメリカも日本と同様に、被用者か自営業者か、という判断しかありません。一方で、イギリスやドイツのように、被用者類似の第三カテゴリーをもうけている国もあります。

ただ、被用者か自営業者であれば、その線引きは1つですが、第三カテゴリーを作った場合、線引きが2つに増えてしまいます。その基準がはっきりしない限り、どれにあたるかわかりにくいですし、これまで被用者として保護されていた人たちが、第三カテゴリーに分類されてしまうリスクもあります。

私は、第三カテゴリーを作るのではなく、あくまで被用者としての保護を広く及ぼすべきだと考えます。自営業者にも労災保険の必要性が検討されているように、被用者だけでなく、働く人全員に与えられるべき保護もあるからです。労働法の条項を整理して、目的ごとに、どこまで適用するのかを考えた方が生産的です。

●ウーバー紛争の先にある、新たな法的問題

ーー今はウーバーのようなプラットフォームが目立っていますが、今後、どのようなプラットフォームに注目していますか。

プラットフォーム労働については、ウーバー型とは異なるクラウドソーシング型というものが存在します。ウーバーのように、一つのビジネスに特化するのではなく、プラットフォーム上で多種多様なタイプの業務がやり取りされるものです。

日本では、ランサーズやクラウドワークスのようなサービスを想像するとわかりやすいでしょう。単純な業務だけではなく、専門的な業務も含みます。

そこでは、利用者、労務提供者、プラットフォームの三角関係をどう考えるのか、ということが課題になります。プラットフォームがマネジメント機能を担っていたり、プラットフォーム自体が仕事を受注して、再委託するケースもあります。

ウーバー型のような自営業者の被用者性をめぐる争いは過去にもたくさん起きていて、その都度、被用者性の拡張で対応してきた話ですので、法理論的にはさほど難しいものではありません。

一方、クラウドソーシング型については、三者間での労働をどう捉えるのか。例えば、労災が起きた時の責任を誰がもつのか、社会保険料は誰が払うのかなど、複雑な検討課題があります。使用者が負うべき責任をどのように割り振るかですとか、労働組合を含めた集団的な合意形成の仕組みも、考え直す必要がでてくるでしょう。これからの話ですね。

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