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「殺すぞ」上司からの連続的なパワハラで自殺…裁判で「労災不支給」が覆った理由
大阪高裁(minack / PIXTA)

「殺すぞ」上司からの連続的なパワハラで自殺…裁判で「労災不支給」が覆った理由

阪神高速道路の交通管理会社で働いていた男性(当時24歳)が自殺したのは、上司のパワハラが原因だとして、遺族が国に労災不支給決定の取り消しを求めた訴訟の控訴審判決で、大阪高裁は9月29日、上司のいじめでうつ病を発症したと判断し、労働基準監督署に支給を命じる遺族側の逆転勝訴を言い渡した。

今回の裁判で、二審の大阪高裁と一審の大阪地裁の結論が分かれたポイントは、「自殺とパワハラに因果関係があるかどうか」という争点についての判断の違いにある。

●上司「歩き方が気に入らない」「道場に来い」

男性はどういったパワハラを受けたのだろうか。判決によると、男性は2010年に入社し、阪神高速道路の巡回パトロール業務を担当。12年4月に異動し、今回のパワハラの原因となる上司と同じ課に配属された。男性は幼少期から空手を始め、高校ではインターハイに出場するなどの実績があったが、上司は、「お前の空手はなんちゃって空手だ」と男性の空手を否定しバカにする発言をした。

同年4月には上司は男性を道場に誘っており、男性は「道場に行ったらボコボコにされる」などと怖がっている様子だったという。周囲の従業員も男性から、「仕事のことで強く言われる。細かいことも言われ、すごく辛い」「(仕事のことについて)自分の技量を認めてくれない。厳しい」との話を聞いていた。

そして男性は同年5月25〜26日の夜勤で、上司とペアを組んで3回の巡回パトロールを行った。2回目の巡回に出発する間際に、上司は男性に「歩き方が気に入らない」「道場へ来い。道場やったら殴りやすいから」と大声で発言。2回目の巡回後、事務所で巡回終了後にすべき書類整理を始めていた男性に激怒し、「何もするな言うたやろ。殺すぞ」と大声で怒鳴りつけた。

3回目の巡回中には、男性は上司からパーキングエリアでの不審車対応や落下物の処理について厳しい注意を受け、巡回後にそれについて文書にまとめるよう指示され提出したところ、「小学生の文書みたいやな」と大声で言われた。27日は出勤していたが、28日朝、自宅の自室で亡くなっているのが見つかった。

●大阪地裁と高裁の判断の分かれ目

大阪地裁は、上司が男性に行った11つのハラスメント行為について、厚生労働省の行政基準である「心理的負荷による精神障害の認定基準」に照らし合わせ一つずつ検討した。

例えば、2回目の巡回後に「殺すぞ」と怒鳴りつけたことについては、「業務指導の範囲を明らかに逸脱するもので、ひどい嫌がらせ、いじめに該当すると認められる」としながらも、「認定基準において心理的負荷が強として例示されているものに該当するとは言えない」としている。

総合的評価として、「一連の出来事の中で最も心理的負荷が強いのは『殺すぞ』と言う発言であり、その心理的負荷の程度は『中』にあたる」とし、「全体としての心理的負荷の強度を中と評価するのが相当」と判断。うつ病を発症させる程度に強度なものであったとは認定せず、神戸西労働基準監督署が労災を支給しないとする決定を支持した。

これに対し大阪高裁は、「殺すぞ」といった発言について、「それぞれ単発的に行われたものではなく、それ以前に他の言動があった直後、連続的に行われたことから心理的負荷はより強いものになったと考えられる」と判断。

「夜勤までの2か月間に業務による相当程度の心理的負荷がかかったところに、夜勤時の出来事によって、業務による強い心理的負荷がかかった」として、自殺直前にうつ病を発症したというべきと認定した。

●「ハラスメントを個別に検討することは間違っている」

遺族の代理人をつとめる波多野進弁護士は、「ハラスメントは複合的に連鎖していることが多いため、大阪地裁判決のように単発的に評価することは間違っている」と話す。

「大阪地裁判決は、ハラスメントを個別に列挙して検討し、その内容も間違えているうえに、それぞれのハラスメントが一連の行為として負荷を高めるという視点がありませんでした。『細かく分断してそれぞれだけ切り取ってみたらたいしたことはない』といった矮小化を行ったと言えます。

また、ハラスメントの労災事件では、パワハラを受けた被害者が笑っている・反論しない・黙っているなど表面的な事象だけではなく、被害者の置かれた状況を客観的に踏まえて検討しなければなりません。今回の大阪高裁判決ではそれが再確認されたと思います」

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

波多野 進
波多野 進(はたの すすむ)弁護士 同心法律事務所
弁護士登録以来、10年以上の間、過労死・過労自殺(自死)・労災事故事件(労災・労災民事賠償)や解雇、残業代にまつわる労働事件に数多く取り組んでいる。

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