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ストーブで私服を乾かした音楽教員、「自腹」で賠償にならないの?「小学校火災」を自治体弁護士が徹底解説
火災に見舞われた東京都北区立滝野川第三小学校の校舎(2026年7月8日/東京都北区/弁護士ドットコム)

ストーブで私服を乾かした音楽教員、「自腹」で賠償にならないの?「小学校火災」を自治体弁護士が徹底解説

東京都北区立滝野川第三小学校で6月、授業中に校舎4階の音楽準備室から出火し、児童と教員合わせて11人が負傷する火災が起きた。

その後、出火元の音楽準備室では、音楽担当の女性教諭が、家庭科室の洗濯機で洗った私服を私物の電気ストーブやサーキュレーターで乾かしていたことが明らかになっており、警視庁は失火の疑いも視野に調べている。

ネット上では、教師のミスで児童がケガをした場合、教師本人に損害賠償を請求できるのか、プールの水を止め忘れたケースで教員が弁償を求められたこととの違いは何かといった疑問も上がっている。

今回のように公立学校で起きた事故では、児童や保護者は誰に責任を問えるのか。また、自治体は教員個人に損害賠償を求めることができるのか。

自治体内弁護士の吉永公平弁護士が、一般論として、教員・自治体・被害者の法的な関係を整理する。

●児童がケガをした場合、誰に賠償を請求できるのか

今回の火災で、心身ともに被害を受けた方や、分散登校を余儀なくされている方、関係者のみなさまに心よりお見舞い申し上げます。

この解説では、仮に失火の原因が教員(公務員)にあった場合について、一般論として、公立学校の火災事故における公務員、自治体、被害者の関係について説明します。

まず、重要なのは「被害者が誰なのか」という点です。

児童が負傷した場合、教員が勤務する自治体(市区町村立学校であれば市区町村)は、国家賠償法1条1項に基づく損害賠償責任を負う可能性があります。

また、いわゆる「県費負担教職員」であれば、都道府県も責任主体となり得ます(国家賠償法3条1項)。

ただし、国家賠償法が適用されるためには、その行為が「職務を行うについて」されたものと認められる必要があります。

この「職務を行うについて」という要件は、公務や公務に伴って行われ行為だけでなく、客観的に職務執行の外形を備えた行為まで含まれると、最高裁判例で広く解されています(最高裁昭和31年11月30日判決)。

これに該当する場合には、被害者は教員個人に直接損害賠償を請求することはできません(最高裁昭和53年10月20日判決)。

一方、これに該当しない場合には、国家賠償法ではなく、教員個人に対する民法709条の不法行為責任(プラス後述する失火責任法)が問題になります。

●失火責任法なら「重大な過失」が鍵に

ここで問題になるのが失火責任法です。

失火責任法は、火災による損害について、故意または重大な過失(重過失)がある場合を除き、損害賠償責任を制限する法律です。

この考え方は国家賠償法にも及ぶため、教員に重過失が認められなければ、自治体が国家賠償法上の責任を負わないことになります(最高裁昭和53年7月17日判決)。

自治体が被害者に賠償する場合には、国家賠償法1条2項により、教員に重過失があれば、自治体が教員へ求償できる可能性があります。ただし、その求償額は制限される可能性があります(最高裁昭和51年7月8日判決)。

●自治体への請求は国家賠償法だけではない

児童は、国家賠償法だけでなく、在学契約や信義則上の安全配慮義務違反を理由として、民法415条の債務不履行責任を追及できる可能性もあります(最高裁昭和50年2月25日判決、東京地裁八王子支部平成20年5月29日判決)。

失火責任法は不法行為に関する特別法であり、債務不履行責任には適用されません(最高裁昭和30年3月25日判決)。

そのため、自治体の履行補助者に当たる教員に「故意又は過失」(重過失に至らない軽過失を含む)が認められれば、自治体が損害賠償責任を負う余地があります(平野裕之「債務不履行責任の拡大と失火責任法」「伊藤進教授還暦記念論文集」編集委員会編『民法における「責任」の横断的考察 : 伊藤進教授還暦記念論文集』(第一法規、1997年)285頁)。

どの法律に基づいて請求するかによって、結論が変わる可能性がある点は、この問題の大きな特徴です。

●校舎が被害を受けた場合はどうなるのか

一方、被害者が校舎の所有者である自治体だと考える場合には、自治体は教員に対し、不法行為に基づく損害賠償請求を検討することが一般的です。

ただし、不法行為では失火責任法が適用されるため、重過失がなければ教員は自治体に対する賠償責任を負いません。また、勤務関係上又は信義則上の注意義務違反を理由とした、債務不履行による損害賠償責任も理論上ありえます。この場合、先述したように失火責任法は適用されないと考えられています。

いずれの場合も、自治体が教員に請求できる範囲は、信義則により制限される可能性があります。

●損害賠償とは別に補償制度もある

損害賠償とは別に、負傷した児童については、ほぼすべての学校が加入している独立行政法人日本スポーツ振興センターの災害共済給付により、医療費が給付されます(ただし、慰謝料は支給対象外)。

また、校舎について火災保険に加入していれば、自治体が保険金を受け取れる場合があります。

教員による失火(特に重過失の場合)であっても、保険金が受け取れる火災保険もあるようです。もちろん、実際に保険金が受け取れるかは火災保険の内容次第です。

さらに他の教員が負傷した場合にも、公務災害補償の対象となる可能性もあります。

●防火体制の強化が望まれる

なお、今回の火災では、防火管理体制のあり方も指摘されています。

学校など一定の施設では消防法8条に基づき防火管理者の選任などが義務付けられており、防火体制の維持・強化が望まれます。

この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいています。

プロフィール

吉永 公平
吉永 公平(よしなが こうへい)弁護士
名古屋大学法学部卒業、名古屋大学法科大学院修了後、2012年弁護士登録。法律事務所にて勤務した後、2014年愛知県春日井市入庁。2025年から大府市入庁。職員からの法律相談や職員研修、庁内報の発行、政策会議への出席等を主な業務としている。著作に『ズバッと解決! 保育者のリアルなお悩み200』(ぎょうせい)。他の自治体や劇場・病院での研修講師も務める。

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