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内定式後も辞退は可能? 就活生が知っておくべき「労働法」の基礎知識
竹花元弁護士

内定式後も辞退は可能? 就活生が知っておくべき「労働法」の基礎知識

10月に入ると、多くの会社で来春入社予定の学生の「内定式」が行われる。リクルートキャリアの調査によると、8月1日時点の大学生の就職内定率は、前年より14ポイント高い79.3%。就活生にとっては、良好な売り手市場だったといえるだろう。

ただ、内定をもらったものの「本当にこの会社でいいのだろうか」と迷っている学生や、「内定承諾書にサインしたけど、他の会社はもう受けられないの?」と悩む学生もいる。いわゆる「内定ブルー」に陥る学生も少なくないのだ。

せっかく内定をくれた会社に、入社前に辞退を告げることは問題がないのか。逆に、もし会社に内定を取り消されたら、どうしたらいいのか。就活生が知っておいたほうがいい「内定のルール」について、労働問題に詳しい竹花元(たけはな・はじめ)弁護士にたずねた。

●内定が成立すれば「労働者」として守られる

ーーそもそも就職の「内定」は、法的にみると、どのように説明できますか?

「大前提として押さえておいてほしいのは、内定が成立した段階で『労働契約』が結ばれているということです。実際に労働がスタートする『始期』はまだ先で、それまで会社側の『解約権』が留保されてはいますが、労働契約が成立していることには変わりありません。したがって、内定が成立していれば、労働契約法など労働者保護の法制度が適用される、というのがポイントです」

ーーそうなると、内定が成立しているのかどうかが重要になりますが、どのタイミングでしょう? 採用担当者から「一緒に働きましょう」と告げられたときでしょうか。それとも、内定通知書を渡されたときでしょうか。

「実は、就職の内定がいつ成立するのかは、法律で明確に定められていません。ただ、過去の裁判例を見てみると、内定通知書を受け取った段階か、内定式に出た段階のどちらかで、内定が成立したと認定していることが多いです。つまり、仮に口頭で内定の旨を告げられても、内定通知書をもらっていなければ、法的な意味での『内定』とは言えず、労働者として法的に保護されない可能性があります」

ーーただ、最近は、優秀な学生を確保したいと考える会社が、学生に内定の旨を伝えたうえで他社を受けないように迫る『オワハラ』があります。このような場合、内定通知書がなくても、内定が成立しているとはいえないでしょうか。

「いわゆるオワハラの一種として、正式な内定通知書を渡す前に、『他社の採用選考を受けません』という内容を含んだ誓約書を学生に書かせる会社もありますね。そのような行為は、会社が学生の入社を事実上認めたことが前提となるので、法的に内定が成立したという有力な根拠になるでしょう」

●研修に参加しないと「内定」を取り消されても仕方ない?

ーー内定が成立して、内定通知書を渡したあとでも、会社が取り消すケースがありますね。内定は、会社側の「解約権」が留保された労働契約ということでしたが、会社は自由に内定を取り消せるのでしょうか。

「いえ、そうではありません。労働契約が成立している以上、内定者は労働法で守られているので、会社が内定を取り消すことができるのは『内定者が約束の時期に卒業できなかったとき』など、例外的な場合に限定されています。会社側は内定を取り消すことができると考えていても、法律上はそうではなくて、トラブルになる場合もあります」

ーーどんなケースでしょうか。

「たとえば、会社の『研修』をめぐる内定取り消しの紛争です。内定期間中に出席するよう求めた研修に参加しなかった学生について、会社が内定を取り消したというケースです。この場合は原則として、内定の取り消しはできません」

ーーなぜでしょう?

「労働契約は成立しているのですが、内定期間中は、契約の効力の『始期』がまだ到来していません。つまり『研修に出てください』と会社が要請しても業務命令とは言えず、学生には参加義務がないのです。義務ではない以上、研修に参加しなかったという理由で、内定を取り消すことはできないということです。

ただ、例外的に、研修への不参加が内定取り消しの理由になりうるケースもないわけではありません。それは、内定成立の段階で、研修があることを会社が伝え、それが入社の条件だと提示していた場合です。そのようなときは、研修の内容と期間が合理的であれば、その研修への不参加を理由として、内定取り消しが認められる可能性があります」

●親が勝手に内定を辞退したら、どうなる?

ーーここまで会社側の「内定取り消し」について聞いてきましたが、実際には、学生側が内定を辞退するケースもあります。今年の就活生についての調査では、8月までに複数社の内定を取得した学生が6割いるとも言われています。そんな学生はいずれ、どこかの会社の内定を「辞退」する必要がありますが、いつまでに伝えるべきでしょうか。

「結論から言うと、学生が『内定を辞退したい』と告げることは、いつでも可能です。こう言うと、びっくりする学生もいるかもしれませんが、労働者はいつでも『会社を辞めたい』と言うことができます。それと同じなのです。

労働者にはさまざまな権利がありますが、その中でいちばん強い権利だと私が考えているのが、『辞職の自由』です。これは、誰も止めることができません。さきほどお伝えしたように、内定の段階でも、労働契約であることに変わりありません。すでに働いている労働者が基本的にいつでも辞められるのと同様に、内定をもらった就活生はいつでも、入社を辞退することができます」

ーー会社は内定を取り消すのが難しい一方で、学生は簡単に内定を辞退できるんですね。

「厳密にいうと、民法627条に雇用契約の解約についての規定があり、そこには『解約の申し入れから2週間を経過すると雇用契約が終了する』と書かれています。つまり、法律的には、2週間の猶予が必要です」

ーー4月1日入社の学生の場合、その2週間前の3月中旬までに内定辞退を告げれば、法的には問題がないということですか。

「内定辞退の意向はできるだけ早く伝えるのが好ましいことはもちろんですが、法的にはその通りです。ただ、あえて例外的なケースを考えてみると、ある会社の内定者がたった1人しかいない場合などは注意が必要です。そのことを本人にも伝えてあり、唯一の内定者のために設備面や研修面でなんらかの投資をしていたとします。そのような場合、学生が内定を辞退すること自体は入社直前でも可能ですが、会社が準備した初期費用の一部について損害賠償を請求されることがあるかもしれません」

ーー最近、内定を出した学生の親に会社が連絡して、子どもの入社を承諾しているかどうかを確認する「オヤカク」という動きが伝えられています。もし親が勝手に「内定を辞退したい」と告げた場合、どうなるんでしょうか。

「大学4年生であれば、20歳を超えているでしょう。成人の学生が締結した労働契約について、親が勝手に取り消すことはできません。親が会社に電話をして『内定を辞退します』と言ったとしても、労働契約の成立には影響しません。学生本人が辞退すると言わない限り、内定状態は続きます」

●内定承諾書にサインしても「他社受験」は問題ない 

ーーでは、学生本人が内定を辞退しようと考えたとき、法的な決まりはあるのでしょうか。

「内定の辞退の仕方について、法律で具体的に定められているわけではありません。そこで、契約を解約するときのルールが適用されることになります。内定辞退もひとつの意思表示ですから、その意思が相手に到達したときに効力が発生します。たとえば、内定のやり取りをした採用担当者に『辞退します』と電話するだけでも、意思は到達するので、内定辞退は有効となります」

ーー電話だけでも問題ないんですね。

「はい。内定辞退の意思が会社側に届いているかどうかがポイントです。会社が承諾するかどうかは関係ありません。法的な観点からアドバイスすると、口頭だとあとで『言った言わない』の問題になるかもしれないので、口頭だけでなくメールでも、辞退の意思を伝えることを勧めます。法的には、メールだけでも問題ありません」

ーーほかに注意点はありますか?

「気をつけてほしいのは、伝える相手が誰かということです。内定について、会社の窓口になっている担当者にきちんと伝える必要があります。内定に至るまでにやり取りした担当の社員に、明確に内定辞退の意思を伝えるようにしましょう」

ーーもう一つ、就活生の悩みとして、ある会社から内定通知書をもらい、内定承諾書にもサインをした場合、他社を受けてはいけないのか、というものがあります。

「内定承諾書は、内定通知時点での入社の意思を確認するものです。だからといって、その後の学生の就職活動を縛る効力はありません。仮に、内定承諾書の中に『他社を受けない』という条項があったとしても、法的な効力はありません。内定中に他社への就職活動を行うこと、その結果、内定を辞退し他社に入社することは、いずれも憲法22条に基づく『職業選択の自由』の趣旨から保障されており、何の問題もないのです。むしろ、内定承諾書の存在は内定成立のひとつの大きな証拠であり、学生を保護してくれるものと考えることもできます」

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

竹花 元
竹花 元(たけはな はじめ)弁護士 法律事務所アルシエン
法律事務所アルシエンのパートナー。労働法関連の事案を企業側・個人側を問わず扱い、交渉・訴訟・労働審判・団体交渉の経験多数。人事労務や会社法務の経験を生かして、企業向けハラスメント防止セミナーやM&Aの法務デューデリジェンスも行う。東証プライム上場企業・非上場大手企業・医療法人・ベンチャー企業など、多くの業種・規模の企業で法律顧問を務める。労働法に関する書籍を23冊執筆。

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