岩手県雫石町が今年7月、わなで捕獲したクマを「溺死」させて駆除した。その方法がSNSで拡散すると、町役場には批判の電話などが相次ぎ、中には「脅しや脅迫めいたもの」もあったという。
町は、業務に支障が出ているとして、問い合わせを控えるよう呼びかけた。
なぜ、クマを溺死させる方法が選ばれたのか。8月に入り、町農林課の担当者を取材すると、背景には、わなの構造や捕獲にあたる猟友会員らの安全確保があったという。
批判がピークに達した時期には、農林課全体で電話対応に追われた。現在は、落ち着きを取り戻しているというが、当時、町にはどのような声が寄せられ、現場では何が起きていたのか。
●7月上旬からクマの住宅侵入が相次ぐ
町農林課によると、クマを捕獲したのは7月15日。町北部のエリアでは、7月上旬からクマが住宅に侵入する被害が相次いでいた。
「家の中に入られるような状態でした。幸い人身被害はありませんでしたが、危険性は非常に高い状態でした」(担当者)
捕獲にあたったのは、地元の猟友会と農林課の職員。捕獲されたのは1頭だった。
使われたのは「ドラム缶式」と呼ばれるわなだ。町は檻型のわなも保有しており、状況に応じて使い分けているという。
駆除の具体的な手順について、町は「差し控えたい」としている。ただ、溺死させたことについては「そのとおり」と認めた。
●なぜ、銃を使えなかった?「わなの構造」と安全確保
岩手県は「第13次鳥獣保護管理事業計画」で、捕獲した鳥獣を致死させる場合について、次のように定めている。
「捕獲個体を致死させる場合は、『動物の殺処分方法に関する指針』(平成7年総理府告示第40号)に準じ、できる限り苦痛を与えない方法によるよう指導する」
では、なぜ今回は溺死させる方法を選び、銃などを使わなかったのか。担当者が理由として挙げたのは、わなの構造と、作業にあたる人の安全だった。
「わなの構造上、銃を使うことはできなかった。それに従事している猟友会員の安全性も考慮しなければならない」(担当者)
町が7月24日に公表した文書でも、同じ説明をしている。
「一部SNSにおいて拡散されております、捕獲したクマの処理方法については、使用した罠の構造上、捕獲者の安全を第一に考慮したもの」
●農林課全体で電話対応「業務に支障」
しかし、駆除の方法がSNSで拡散すると、町役場に電話やメールが相次いだ。
町は次のようにうったえている。
「町役場に多数電話等によるご意見が寄せられており、なかには脅しや脅迫めいたもの、本件に直接関係のないものもあり、SNS上では職員の発言や個人名も出されており、業務に支障が生じております。さらに、今後の捕獲者の活動にも影響が出るおそれもあります」
担当者も取材に対して「当時は業務に支障が出てはいました」と振り返る。
電話などのピークは、町が文書を公表した7月24日の週で、こうした状況は1週間ほど続いたという。
「電話で誹謗中傷される方も少なからずある。農林課全体で電話対応になっていたので、何件というところは把握はしていない」(担当者)
●「殺処分するな」「溺死に問題」
町によると、寄せられた意見は、大きく2種類ある。
一つは、「動物を殺処分するな」という声。もう一つは、今回、溺死させた方法そのものを問題視する声だった。
電話をかけてきた人の多くは名乗らなかったため、町内からの電話がどの程度あり、町外や県外からどの程度寄せられたかは把握できていないという。
一方、町は今回の対応をそのまま続けるわけではない。
7月に県からクマの処理方法について指導・助言を受けた。これを受けて、町は既存のわなの改良・改修を順次進めているという。