算定表の養育費が「高すぎる」と感じる理由
裁判所が公開している算定表の金額を見て高すぎると感じる場合、多くは「基準となる収入の勘違い」や「全国一律の計算基準による実態とのズレ」が原因です。
まずは、なぜ高く見えるのかを整理していきましょう。
基準は「手取り」ではなく「額面(総収入・所得)」である
算定表で高すぎると感じる原因として最も多いのが、収入の見方と生活実感のズレです。 まず算定表に当てはめる収入は、手元に振り込まれる「手取り額」ではありません。 給与所得者の場合は、源泉徴収票の「支払金額」など、税金や社会保険料が引かれる前の総収入(額面)が基準になります。自営業者の場合は、売上そのものではなく、必要経費などを差し引いた後の「所得」を基準にします。
| 区分 | 算定表に当てはめる収入の基準 |
|---|---|
| 給与所得者 | 源泉徴収票の「支払金額」など、税金・社会保険料が引かれる前の総収入(額面) |
| 自営業者 | 売上そのものではなく、必要経費などを差し引いた後の「所得」 |
算定表は、手取りではなく「額面」を基準にして養育費の目安を割り出します。 しかし、実際に毎月の養育費を支払うのは、税金などが引かれた後の限られた「手取り」からです。そのため、いざ手取りの中から支払おうとすると「日々の生活費に対する負担割合が大きすぎる(高すぎる)」と感じてしまうことが多いのです。 まずは自分と相手の収入を、正しい基準で確認し、算定表の前提を理解することが大切です。 なお自営業の方の場合、確定申告書の「課税される所得金額」をそのまま使うわけではありません。 実際には支出されていない基礎控除や青色申告特別控除などを足し戻して調整した額を、算定表に当てはめて算出されます。ただし、正確な金額は個別に確認する必要があります。
令和元年改定による実際の増額
令和元年に公表された算定表(いわゆる新算定表)は、基礎となる統計資料(生活費の実態など)を現代に合わせて更新して作成されました。その結果、従来の旧算定表と比べて、算出される養育費の金額自体が実際に高くなった(増額された)ケースが多くあります。 ただし、すべてのケースで一律に上がったわけではなく、収入や子どもの状況によって変動幅は異なります。まずは自分のケースで正しく金額を確認することが必要です。
「全国一律」の基準による地域差
算定表は、全国どこでも同じ基準で計算されます。そのため、家賃や物価が比較的安い地方に住んでいる方にとっては、生活実感よりも割高に感じられることがあります。 都心部と同じ基準で一律に計算される仕組みは、支払う側にとって納得しづらいところかもしれません。この感覚自体は自然なものです。ただし、地域差があるからといって当然に金額が下がるわけではない点は、あらかじめ理解しておきましょう。
算定表の金額が高すぎると感じたときに確認すべき3つのポイント
算定表の金額に納得がいかない場合、まずは前提となる数値や見ている表に間違いがないかを確認してください。
次の3つのポイントをチェックすると、単なる勘違いによる高さかどうかが見えてきます。
1. 自分と相手(受け取る側)の年収を正しく当てはめているか
養育費は、支払う側だけでなく、受け取る側の収入も前提に計算されます。相手の年収を実際より低く見積もっていると、算定表上の金額は高く出てしまいます。 特に、相手のパート収入や副業収入、自営業の所得などが正しく反映されていないケースは少なくありません。次のような収入は見落とされがちです。
- 相手のパートやアルバイトによる収入
- 副業や在宅ワークなどの収入
- 自営業やフリーランスとしての所得
まずは相手の収入を正しく把握できているかを確認しましょう。
2. 子どもの人数・年齢に合った算定表を見ているか
算定表は、子どもの人数と年齢によって参照すべき表が分かれています。見る表を間違えると、金額の印象は大きく変わります。 特に注意したいのが、子どもの年齢による区分です。金額は「子どもが15歳以上か未満か」で変わります。人数によっても参照する表が異なるため、自分のケースに合った表を見ているかを確認してください。
3. 特別な事情を見落としていないか
算定表は、あくまで標準的なケースを前提とした目安です。そのため、標準から外れる個別の事情がある場合には、考慮を求められる余地があります。 たとえば、受け取る側の住居費負担が極端に少ない場合や、支払う側に高額な医療費がかかっている場合などです。こうした事情に心当たりがあるなら、確認ポイントとして書き出しておきましょう。 ただし、事情があれば当然に減額されるわけではありません。あくまで主張できる余地がある、という位置づけである点には注意が必要です。
相談者の疑問
10年ほど前に離婚しましたが、当初は不要で口約束しておりました。しかしこちらの就業条件が変わり、生活がかなり苦しくなったため個人再生を依頼しており、>>> 質問の続きを見る
弁護士の回答中井 陽一弁護士
【質問1】
子どもは今年15歳と11歳ですが、当事者間の話し合いが破綻した場合、弁護士に依頼すると算定表通りの養育費はもらえるものでしょうか。
→はい、仮に相手がすんなりと応じない場合でも、家庭裁判所に養育費調停・審判を申し立てれば、>>> 回答の続きを見る
算定表より低い金額で合意・調整できるケース
養育費の算定表は、調停や裁判での「目安」として使われるものです。特別な事情がある場合や、双方が合意した場合には、算定表よりも低い金額で取り決めることも可能です。 ここでは、低い金額で調整し得る代表的なケースを見ていきます。
1. 当事者同士が話し合いで合意した場合
養育費は、まず当事者同士の話し合いで決めるのが基本です。お互いが納得さえすれば、算定表の金額を下回る合意をしても法的に問題はなく、双方が合意した金額が優先されます。 ただし、合意した内容は口約束にせず、合意書や公正証書などの形で残すことが重要です。
2. 受け取る側の住居費負担が極端に少ないなど、標準生活費と異なる場合
算定表は、標準的な生活費を前提に作られています。そのため、その前提と大きく異なる事情があれば、個別事情として主張できる余地があります。 たとえば、受け取る側が実家に同居していて住居費の負担がほとんどないような場合です。標準的な生活費より支出が明らかに少ないと考えられる事情があるなら、交渉の材料になり得ます。 ただし、こうした事情があっても必ず減額が認められるわけではない点は、あわせて理解しておきましょう。
3. 支払う側に特別な医療費や職業上不可欠な経費がある場合
支払う側の事情が考慮される余地もあります。持病があって高額な医療費が継続的にかかっている場合などが典型です。 また、自営業の方で、算定表が想定する標準的な経費に収まらない特別な経費がある場合も、考慮される可能性があります。いずれの場合も、領収書や確定申告書など、客観的に説明できる資料をそろえておくことが前提になります。
無理なく支払える金額で合意を目指す現実的な交渉ポイント
算定表の金額は法的な観点での「標準的な適正額」とされていますが、それが現在の生活実態に合わず支払いが困難な場合は、算定表の「幅」を活用したり、特別な事情を伝えたりして交渉するアプローチが現実的です。 感情的な反発ではなく、客観的な根拠に基づいて話を進めることが、合意への近道になります。
1. 算定表の金額幅の中で、支払い能力に見合う金額を提案する
算定表には、一定の金額の幅が設けられています。たとえば「4万〜6万円」のように、ある程度の範囲で示されているのが通常です。 この幅の中で、給与明細や家計資料を示しながら、継続的に無理なく支払える金額を提案するのが実務的なアプローチです。 たとえば、現在の純粋な手取り額や必要最低限の生活費の状況を客観的に示しつつ、算定表の幅の中で下限に近い金額を提案して合意を目指すケースもあります。大切なのは、「払いたくない」という感情論ではなく、支払い能力の限界を客観的に説明できる形で示すことです。
2. 受け取る側に就労可能性がある場合は、収入の見込みを確認する
養育費は双方の収入で決まるため、相手の収入の見込みも交渉のポイントになります。相手が健康で働ける状況にあるのに、合理的な理由なく無収入や低収入にとどまっている場合には、潜在的な稼働能力(働くことで得られるはずの収入)が問題になることがあります。 このようなケースでは、相手の収入の見込みを考慮して再計算を求める交渉の余地があります。ただし、これはあくまで中立的に検討すべき論点です。相手の事情を一方的に決めつけるのではなく、事実に基づいて確認する姿勢が求められます。
3. 交渉のコツ:感情的にならず、客観的証拠(家計簿等)で誠実さを伝える
交渉を成功させる鍵は、感情的にならないことです。「高すぎる」「払えない」と突っぱねるだけでは、相手の反発を招き、話し合いが決裂しやすくなります。 家計簿や給与明細などの客観的な証拠を示し、今の生活費から無理なく捻出できる金額を、論理的かつ誠実に伝えることが大切です。常に「子どもの生活を守るための話し合い」であることを意識し、冷静なやり取りを心がけましょう。 算定表より低い金額で合意したり、支払い能力に合った金額で納得してもらったりするためには、感情的にならない論理的な交渉が必要です。スムーズに合意するために、一度、弁護士への相談も選択肢として検討してみてください。
相談者の疑問
妻から日常的に暴言を吐かれ、暴力を振るわれており、離婚も考えていますが、子どものこともあり踏み出せていない状況です。
日記・録音・写真・診断書などは集めております。
ちなみに私も妻もそれなりに収入があり、>>> 質問の続きを見る
弁護士の回答岡村 茂樹弁護士
1.相手が応じるかどうかに係りますね。ただし,
> ・親権を得ることを粘って主張し、その過程で離婚する経緯は妻のDVであり、養育費を下げることを妻に認めさせる
1.DVは慰謝料の問題ですので,法的紛争になると,通用しないでしょう。>>> 回答の続きを見る
算定表が改定されただけでは、過去に決めた養育費は減額できない
すでに過去に取り決めた養育費がある場合、「算定表の金額が改定されたから」という理由だけで、減額や見直しを請求することは困難です。 ここは誤解の多いところなので、注意して理解しておきましょう。
算定表の改定自体は法的な「事情の変更」と扱われにくい
一度取り決めた養育費を後から変更するには、法的な「事情の変更(取り決め当時には予測できなかった大きな事情の変化)」が必要とされます。 しかし一般に、算定表が改定されて新しい金額の目安が公表されたこと自体は、過去の合意を覆すための「事情の変更」とは扱われにくいと考えられています。 過去に決めた金額を見直すには、自分自身の大幅な減収や再婚など、別の客観的な事情の変更が必要になります。 これら個別の減額事由の詳細については、関連記事をあわせてご覧ください。 関連記事:養育費の減額が認められる4つの理由とNGケース|勝手に減らすリスクと調停の手順
勝手に支払いを止めたり無視したりすべきではない理由
相手から提示された金額が高すぎると感じても、話し合いを無視したり、勝手に支払いをストップしたりすることは避けてください。不払いや無視は、かえって重大な法的不利益を招くおそれがあります。
合意のない「不払い」は、給与や口座を差し押さえられるリスクに
すでに公正証書や調停で養育費の取り決めがある場合、勝手に支払いを止めると深刻な事態になり得ます。相手の申し立てにより、給与や預貯金を差し押さえられる(強制執行)リスクがあるからです。 養育費の差し押さえには、通常の借金にはない特別なルール(特例)が設けられている点にも注意が必要です。 給与は原則として手取りの2分の1まで差し押さえられ、しかも一度不払いがあれば、将来支払われるはずの分もまとめて差し押さえの対象になります。 さらに、2026年4月の法改正により、公正証書などがない私的な合意書面(離婚協議書など)であっても、一定額(子ども1人あたり月8万円まで)は裁判所の判決等を経ずに差し押さえが可能になっています。「公的な取り決めがないから不払いでも大丈夫」とは言えない点に十分注意しましょう。 差し押さえの具体的な流れ・手続きについては、関連記事をご覧ください。 関連記事:養育費未払いを強制執行で回収する方法|差し押さえの手続き・費用と必要書類
無視し続けると、事情が考慮されず一方的に金額が定まるおそれも
これから金額を取り決める段階であっても、話し合いを無視するのは得策ではありません。無視し続けると、相手が調停や審判へ手続きを進める可能性があります。 その場合、こちらの事情を十分に説明できないまま、算定表を基準とした金額が定められてしまうおそれがあります。「生活が苦しい」という主張だけでは、算定表の額から容易には減額されません。早い段階で自分の支払い能力などの事情を客観的に示し、話し合いのテーブルに着くことが重要です。
まとめ:無理なく支払える金額での合意を目指すために
養育費の金額は、今後の生活を大きく左右する問題です。算定表の金額が生活実態に合わず「高すぎる(支払いが厳しい)」と感じた場合は、感情的に突っぱねるのではなく、客観的な根拠に基づく論理的な交渉が重要になります。 当事者同士の話し合いでは、「少しでも多く欲しい」「少しでも減らしたい」という感情がぶつかり、交渉が決裂しやすくなります。ご自身の支払い能力に見合う金額の提案や、特別な事情を法的に主張し、双方が納得できる条件で合意を引き出すには、弁護士のサポートが大きな力になります。 客観的な資料に基づいて状況を整理し、法的に安全な合意を目指すために、まずは弁護士への相談を選択肢として検討してみてください。
新算定表と養育費に関するよくある質問(FAQ)
∨ Q1. 養育費は算定表より低い金額で合意してもよいですか?
父母双方が納得して合意する場合、算定表より低い金額で取り決めること自体は可能です。ただし、子どもの生活に支障が出るような極端に低い金額は、後から増額を求められるなどトラブルになる可能性があります。合意内容は口約束ではなく、合意書や公正証書などの形で残すことが重要です。
∨ Q2. 相手が私立の学費や塾代を上乗せして請求してきた場合、応じる義務はありますか?
算定表の金額には、公立の学校に通う場合の標準的な教育費がすでに含まれています。したがって、相手が一方的に私立学校や高額な塾に通わせた費用を上乗せ請求してきても、事前に同意していない限り、法的に全額負担する義務はありません。
ただし、私立進学を離婚前から夫婦で合意していたり、支払う側の収入がかなり高かったりする場合は、算定表の額に一定割合が上乗せされるケースもあります。
なお、上乗せが認められる場合でも、私立の学費を全額負担するわけではありません。通常は、私立の学費から算定表に含まれる公立分の教育費を差し引いた差額を、父母の収入割合に応じて分担します。逆に、明確な同意がなくても、支払う側の収入や生活水準から私立進学が相当とみなされる場合には、一定の上乗せが認められることもあります。
∨ Q3. 共同親権が導入されると、養育費の金額はどうなりますか?
2026年施行の改正民法による共同親権制度が導入されても、養育費の基本的な扶養義務が直ちになくなるわけではありません。ただし、共同親権のもとで、実際に双方が子どもの生活費を相当程度負担するような場合には、監護の実態や費用負担の状況が養育費の金額に影響する(減額の考慮事由になる)可能性があります。
∨ Q4. 自分が再婚して新しい子どもが生まれた場合、算定表の金額はどうなりますか?
支払う側が再婚し、新しい子どもが生まれた場合や、相手の連れ子と養子縁組をした場合は、扶養すべき家族の人数が増えます。そのため一人あたりの養育費の取り分が減り、養育費を見直す(減額を求める)正当な理由となり得ます。
ただし、単純に算定表の「子どもの人数」の表をずらして見るだけでは正確に計算できないことが多く、こうした複雑なケースでは、基礎から計算し直す必要があります。