年が明けて、新年会などで酒を飲む機会が増えている人も多いだろう。酒好きにはたまらない季節だが、酒が苦手な人もいることを忘れてはならない。そうした人に対して、無理やり酒を飲ませる「アルハラ(アルコール・ハラスメント)」に注意が必要だ。
ネットの掲示板でも「アルハラ」の悩みを打ち明ける投稿が少なくない。ある20代後半の男性は、「赤白ワインを両手に持ちイッキ飲み」「上司がウォッカの瓶を持ってお酌に来る」などの状況だという。飲めないと伝えると、「気合いで飲むんだ」「若手なんだから道化になって飲め」とキレられてしまうそうだ。
このような「アルハラ」は、法律的にどう考えればいいのだろうか。加藤寛崇弁護士に聞いた。
●強要罪など、犯罪にあたるケースも
「いわゆる『パワハラ』『セクハラ』もそうですが、これらの用語には法律・判例上の定義はありません。法的側面からいえば、『●●ハラスメントになるかどうか』ではなく、端的に『違法かどうか』を検討することになります」
加藤弁護士はこのように切り出した。アルハラについては、どう考えればいいのだろうか。
「一般に『アルハラ』と呼称される行為としては、『飲酒強要』『一気飲みをさせること』などがあるようです。
飲酒や一気飲みをさせる行為が違法になるかどうかで言えば、パワハラもそうですが、上下関係など断れない状況にあったかどうか、嫌がっているのを認識していたか、どれだけ執拗に勧めたか、といった事情で判断されることになるでしょう。
裁判例としても、『飲めないんです。飲むと吐きます』などと言って断る従業員に対して、『俺の酒は飲めないのか』などと語気を荒げて、グラスに酒を注いで飲酒をさせた(強要した)行為について、単なる迷惑行為にとどまらず不法行為であると判断した事例があります」
民事上の損害賠償を求められるケースがあるということだ。では、犯罪にあたるようなケースはないのだろうか。
「セクハラ行為が強制わいせつ罪等に該当することもあるように、アルハラも立派に犯罪になり得ます。断っているのに無理に飲酒させれば、強要罪に当たります。
無理に飲酒させたことで、相手が死亡すれば、過失致死罪または重過失致死罪も成立する余地があります。酒を飲ませておいて、酔いつぶれた人を放置すれば、保護責任者遺棄罪にも当たり得ます」
●「アルハラ」という言葉が定着すれば・・・
「なかなか人々の意識が変わらないと断りづらいでしょうが、無理な飲酒は心身を傷つけ、死亡にすらつながります。
最初に、何が『アルハラ』か法的な定義はないと述べましたが、『アルハラ』という概念が無意味ということではありません。かつては問題視されにくかった行為について、『セクハラ』という言葉が与えられたことで、少なくとも建前としては否定的に捉えられるようになったように、言葉が与えられることで、人々の捉え方も変化します。
そのことは、裁判でも、『セクハラ』『パワハラ』の違法性が認められやすくなる方向で作用しています。『アルハラ』が裁判で争われた事例は『パワハラ』『セクハラ』に比べて相当少ないようですが、『アルハラ』という言葉が定着して『許されない行為』だという意識が広まれば、もっと増えるのではないでしょうか」
加藤弁護士はこのように述べていた。