北海道江別市で、当時大学生だった男性が集団暴行を受け死亡した事件で、懲役30年の判決を受けた川村葉音被告と検察の双方が7月9日、判決を不服として控訴したと報じられました。
裁判では、検察官は無期懲役を求刑していましたが、6月25日の札幌地裁判決では懲役30年が言い渡されていました。川村被告はこの判決を不服として札幌高裁に控訴し、検察も控訴したとのことです。
なぜ無期の求刑に対し、判決が懲役30年となったのでしょうか。そして、被告と検察の双方が控訴したことには、どんな意味があるのでしょうか。簡単に解説します。
●強盗致死罪なのに、なぜ無期にならないの?
川村被告は強盗致死罪などで起訴されています。
強盗致死罪(刑法240条)の法定刑は、死刑か無期懲役しかありません。
それなら当然に無期になりそうですが、実際には、刑を軽くする「酌量減軽(しゃくりょうげんけい)」がなされ、有期刑になることが多いのです。
このことに直接言及した裁判例(東京高裁平成26年(2014年)9月17日判決)もあります。同裁判例によれば、被害者が1名の強盗致死では、無期になるのは全体の4分の1程度で、残る多くは有期刑にとどまるとされています。
●「強盗致死」と「強盗殺人」は何が違う?
同じ刑法240条でも、実務では「強盗致死罪」と「強盗殺人罪」が区別されています。
実務では、元々被害者を殺害して財物を奪いとろうとして犯行に及び、被害者を死亡させた場合を「強盗殺人罪」と呼び、元々殺害するつもりではなかったが、暴行により死亡結果が発生した場合を「強盗致死罪」と呼んでいます。起訴状の罪名でも使い分けられています。
条文上は区別されておらず、法定刑はいずれも同じですから、死刑か無期しかありません。しかし、殺意のある強盗殺人の場合は無期刑が選ばれやすいのに対し、強盗致死の場合には酌量減軽がなされて有期刑になる例が少なくありません。
被害者が1名の強盗致死でも無期刑が選択される場合とは、犯行における主導的な立場であること、被害者の死亡結果に強く関与していること、行為態様が非常に悪質であること、など、同種の強盗致死罪の中でも特に酷い事案であると評価される場合に限られています。
今回の事件では、検察官の求刑は無期懲役だったそうです。これは、検察官としては川村被告の行為が、被害者1人の強盗致死罪の中でも特に悪質と認められると考えていたことを意味します。
しかし、裁判所は川村被告は「犯行を特に主導したとまではいえず、被害者の死亡への直接的な寄与が限定的」と判断し、結果として無期刑を避け、有期刑の中で最も重い懲役30年(別の罪との併合罪加重による)としました。
●なぜ被告と検察の両方が控訴したの?
被告人だけが控訴した事件では、控訴審は第一審より重い刑を言い渡せません。 これを「不利益変更禁止の原則」といいます(刑事訴訟法402条)。
被告人が重い刑をおそれて控訴をためらわないよう、控訴する権利を守る趣旨です。
一方、検察官も控訴した場合は、この原則は働きません。控訴審が第一審より重い刑を言い渡すこともできます。
つまり、被告人だけが控訴すると、刑は今のままの懲役30年か、それより軽くなる可能性しかありません。
検察があくまで無期懲役を求めるのであれば、自ら控訴しておく必要があります。 これにより、控訴審で無期懲役が言い渡される可能性が残ることになります。
小倉匡洋(弁護士ドットコムニュース編集部記者・弁護士)