知らない人や会社から身に覚えのない振り込みがあったとしたら、それは「押し貸し」かもしれない。勝手にお金を振りこみ、あとから高い利息や手数料をつけて返済を求めるというヤミ金の手口の1つだ。
弁護士ドットコムにも、押し貸しの被害にあったという相談が複数寄せられている。ある相談者は知らない人から口座に1000円の振込みがあり、あとから金利2万円と手数料9000円をあわせた3万円を返すようにと何度も電話があったという。電話は会社にもかかってきたそうだ。
もし、押し貸しの被害にあってしまったときはどのように対処すればよいのだろうか。大村真司弁護士に聞いた。
●被害にあいやすいのは、ヤミ金に口座番号を教えた人
ーー押し貸しの被害にあうのは、どんな人ですか
「押し貸しは、勝手に振込送金し、利息や手数料をつけて返せ、と請求してくる手口です。小口のヤミ金が流行した十数年前に、その派生として流行しました。
通常は、ヤミ金から借入れをしたことがある人、借りようとして口座番号まで教えたが土壇場で断った人が被害に遭うことが多く、私が相談を受けたのは全員そういう人です。ほかの方法で入手した口座への振り込みも考えられなくはありませんが、聞いたことはありません」
ーーだれもが被害にあうということではないのですね
「押し貸しはかなり無理のある手口で、引っかかる人は限られます。業者としてもターゲットをしぼらないと稼げませんから、闇雲に振り込むことはないと思います」
●「返金の義務はない」
ーー口座に勝手に振り込まれたお金は返金しなければならないのでしょうか
「そもそも押し貸しには契約がないので、利息や手数料などが発生することはあり得ません。問題は元金の返還義務ですが、私はヤミ金に関する法規制との比較から、返金の義務はないと考えます」
ーー返金はしなくてもよいのですね
「ヤミ金の貸付けについては、年利109.5%を超える貸付けは全体として無効であるとの明文規定があります。そのため、元金も含めて返金義務がありません。売春の代金や覚醒剤の売買代金などと同じように、違法な請求は否定されるのです(不法原因給付)。
押し貸しは承諾のない送りつけなので、ヤミ金より悪質です。そうすると、同じように返金の義務がないと考えられます。したがって、お金を送りつけられても返金する必要はありません。
請求がさらにエスカレートするのではと心配かもしれませんが、むしろ一切返金しない方が業者は早く諦めると思います」
●「相手にしないのが一番」
ーー業者に対しては、どのように対応すればよいでしょうか
「相手は自分が悪いことをやっているのは百も承知で、いい人、律儀な人からお金をむしり取ろうとしている連中です。
下手に誠意を見せることは、むしろつけいる隙を与えることになります。相手にしないのが一番です」