実習先の中学校の生徒にわいせつ行為をしたとされる教育実習生について、大阪地検が不起訴とした処分は不当だとして、大阪第2検察審査会はこのほど、「起訴相当」と議決した。
報道によると、実習生は、当時14歳だった生徒と大阪市内の駅で待ちわせて、ホテルの部屋でわいせつな行為をしたとされていた。大阪地検が児童福祉法違反(児童淫行罪)の疑いで捜査したが、不起訴としたため、生徒側が不服として、検察審査会に申し立てていた。
大阪第2検察審査会の議決書(8月23日付)は、(1)「被害生徒の未熟さに乗じ、行為を拒否するのが困難な状況を作出した」(2)「中学生の判断能力と責任を成人の場合と同様とした不起訴処分には到底納得できない」――と指摘したという。
今回の事件をめぐり、わいせつ事件にくわしい奥村徹弁護士は「起訴はむずかしいのではないか」と指摘する。そもそも、なぜ不起訴になったのだろうか。児童福祉法違反以外の罪に該当する可能性はないのだろうか。奥村弁護士に聞いた。
●「児童淫行罪は成立しにくい」
――そもそも、なぜ不起訴になったと考えられますか?
「問題の条文は、『児童に淫行をさせる行為』(児童福祉法34条1項6号/児童淫行罪)という構成要件となっています。次のような判例があります。
『(させる行為)とは、直接たると間接たるとを問わず児童に対して事実上の影響力を及ぼして児童が淫行をなすことを助長し促進する行為をいうが、そのような行為に当たるか否かは、行為者と児童の関係、助長・促進行為の内容及び児童の意思決定に対する影響の程度、淫行の内容及び淫行に至る動機・経緯、児童の年齢、その他当該児童の置かれていた具体的状況を総合考慮して判断するのが相当である』(最高裁決定2016年6月21日)
児童淫行罪の法定刑は、最高懲役10年です。『学校の教師と生徒』『親子関係』など、何らかの支配権限を背景にした影響力があって、ある程度継続的な関係が予定されています」
――教育実習は該当しないのでしょうか?
「一般論ですが、教育実習というのは、教育職員免許法施行規則第6条に基づき、2〜4週間、教育現場で実習するものであって、教員の権限はありません。
先ほどの判例でいえば、『行為者と児童の関係』『児童の意思決定に対する影響の程度』が弱いです。そのため、今回のケースで、検察官は、児童淫行罪での起訴を断念したものと思います。
検察審査会の議決でも、次のような事実認定をしています。
『被害児童は、被疑者に対し友好的な感情を持ち、被疑者と被害児童との関係性については、常勤の教師と生徒に比べ相当緩やかな上下関係であった』
『被害児童が、被疑者は成績評価には関与しないため、不利益等を被る可能性があるとした不安を感じることはなかったこと、物品等を受け取ることで交際がなされていた事実はないこと、被疑者から威圧的な言動を受けたと認められる証拠もない』
したがって、児童淫行罪は成立しにくいと思います。検察官は再捜査して、『影響関係』の証拠を探すしかないと思います」
●規制が弱い地域がある状態「淫行特区」
――ほかの罪に該当しないのでしょうか?
「おおかたの自治体には、たとえば、『何人も、青少年に対し、みだらな性行為又はわいせつな行為をしてはならない』(兵庫県青少年愛護条例21条1項)というような淫行処罰規定があります。この条文には、『みだらな』という限定があります。
大阪府にも同様の規定(大阪府青少年健全育成条例39条2号)がありますが、『専ら性的欲望を満足させる目的で、青少年を威迫し、欺き、又は困惑させて、当該青少年に対し性行為又はわいせつな行為を行うこと』とされていて、『威迫し、欺き、困惑させて』という手段が限定されています。
出会い系やナンパなどで知り合って、一夜限りの性的関係をもつという場合には、『威迫し、欺き、困惑させて』という場面はあまりないので、大阪府条例での検挙件数はわずかになっています。
検察官が、師弟関係の児童淫行罪を念頭に捜査してきている場合には、『威迫し、欺き、困惑させて』の捜査をしていませんし、検察審査会の議決の事実認定でも『威迫し、欺き、困惑させて』という証拠も弱いと思われます。検察官は再捜査をして『威迫し、欺き、困惑させて』の証拠を探すしかないでしょう」
――大阪では「淫行」が処罰されにくいのでしょうか?
「青少年との性行為については、『威迫し、欺き、困惑させて』という手段の限定の点で、大阪府内では処罰されにくくなっています。同様の条例は、山口県や長野県でも見られます。
今どき、青少年も青少年と淫行しようとする者も、府県境を越えて移動しています。青少年保護は地域に関係ない要請であるのに、規制が弱い地域がある状態を私は『淫行特区』と呼んでいます」
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