過労死や過労自殺防止対策のための方針を定めた「過労死防止大綱」が7月24日、閣議決定された。2015年に策定され、今回が初めての改定となる。この改定で、長時間労働について特別に調査する対象業種にメディアと建設が加わり、計7業種となった。
働き方改革に向け、一歩進んだようにも思えるが、労働問題に詳しい弁護士はどのように評価しているのだろうか。川岸卓哉弁護士に聞いた。
●「仕事を最優先とする業界慣習」
「調査対象にメディアと建設が加わったのは、電通の高橋まつりさん(24歳・過労自殺)、NHK女性記者の佐戸未和さん(31歳・過労死)、新国立競技場の現場監督(23歳・過労自殺)の死が大きく報道され、この2業種の長時間労働への問題意識が高まったことが背景にあると考えられます。
メディアは裁量労働制が導入されるなどして労働時間管理が適正にされておらず、建設業界も納期優先の過酷労働が強いられており、過労死を生み出す温床となっていました。いずれも重層下請構造の特徴があり、仕事を最優先とする業界慣習と、それを認容して働く人の意識が根強く存在する業界です。
ここに調査のメスが入ることは、『働き方改革』のきっかけとなるもので、評価できます」
●「勤務間インターバル制度」こそ、真の労働時間上限規制
反対に、評価できない点はあるのだろうか。
「過労死撲滅に対する国の責任は、実態調査のみならず、かけがえのない命が過労死によって失われることがないように、速やかに実効性ある対策を制定することにあります。
そのために、どの業界にも共通して有効な規制となり得るのが、今回の大綱でも目標に掲げられた『勤務間インターバル規制』です。EUではすでに、勤務を終了してから次に仕事を始めるまでに最低11時間をあける勤務間インターバル規制が導入されています。
睡眠時間が確保されないことが過労死を招くという医学的知見があり、毎日の休憩・睡眠時間の観点から1日の労働時間を規制する勤務間インターバル制度は、過労死を撲滅するため有効な真の労働時間上限規制といえます。
しかしながら今回の大綱では、2020年までに勤務間インターバルを知らない企業を20%以下、導入企業を10%以上にすると目標を掲げるにとどまりました。非常に不十分な目標と言わざるを得ません。二度と過労死を生み出さないため、勤務間インターバル規制の導入のための国民的世論の盛り上がりが求められます」