2025年8月に名古屋拘置所で収容されていた被疑者の自殺をめぐり、その経緯を知った後、監視カメラ付きの居室に移されたことで精神的苦痛を受けたとして、名古屋拘置所に収容されている40代の男性が7月13日、国を相手取り44万円の損害賠償を求める訴訟を名古屋地裁に起こした。(弁護士ドットコムニュース・一宮俊介)
●当時20歳の被疑者が拘置所で自殺
訴状などによると、愛知県豊田市で交際相手の19歳女性を殺害したとして逮捕された安藤陸人氏(当時20歳)が2025年8月2日、収容先の名古屋拘置所で自殺した。
原告の男性は当時、別の事件で同拘置所に収容されていた。拘置所職員を通じて、安藤氏が自殺の1週間前にも自殺未遂を起こし、遺書が見つかっていたことや、その後、監視カメラ付きの居室(カメラ室)に移されていたことを知ったという。
しかし、安藤氏は再び自殺を図って死亡した。その3日後の8月5日、原告の男性は突然カメラ室に移され、9月1日まで監視下に置かれたとしている。
●「自殺は防げた」調査要請を検討する中「カメラ室」へ
訴状によると、拘置所が作成した内部報告書には、安藤氏が死亡前にカメラ室へ収容されていたことが記載されていた。一方、報道では、カメラ室への収容や遺書の存在には触れられていなかったという。
こうした事情を知った原告は、安藤氏の自殺について「十分に防ぐことのできた事案だった」と考え、法務省や検察庁に調査を要請することを検討していたという。
その矢先、原告自身もカメラ室へ移された。
●拘置所「本人の動静を視察する必要性があった」
原告が代理人弁護士を通じて名古屋拘置所長に問い合わせたところ、次のような回答が返ってきたという。
「本人が公表前に当該事案を聞知していた経緯があり、職員によるろう絡事案又は不適正処遇事案の疑いが生じたことから、実情を調査するとともに、嫌疑が解消されるまでの間、本人の動静を綿密に視察する必要性があったため、一時的に本人をカメラ付き居室に収容したものです」
「ろう絡」とは、自分の思い通りに相手を操ろうとすることを意味する。
これに対し原告側は、拘置所が問題とする「ろう絡」は原告ではなく職員によるもので、監視の対象となるべきは職員側だと主張している。
さらに、カメラ室から通常の居室へ戻された後も、職員が単独で対応する際にはウェアラブルカメラで撮影される対応が続いているという。
原告は、これらの一連の措置は国家賠償法上違法であり、プライバシーを著しく侵害されたとして、慰謝料や弁護士費用を合わせた計44万円の賠償を求めている。
●原告代理人「制裁としておこなわれた疑いがある」
原告代理人の大野鉄平弁護士は、提訴にあたって次のようにコメントした。
「本件のカメラ室収容は、拘置所内の自殺事案に関する重要な事実を知った原告に対する事実上の制裁として行われた疑いがあります。原告が把握した事実はいずれも本来社会に公表されるべき性質のものであり、それにもかかわらず常時監視下に置いたことは、原告のプライバシーと尊厳を不当に侵害するものです」
●名古屋拘置所「情報を精査して適切に対応していく」
名古屋拘置所は、弁護士ドットコムニュースの取材に対し「訴状が届いていないのでコメントできません。情報や状況を精査して適切に対応していきます」と回答した。