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積水ハウス「地面師詐欺」で55億円損失、見抜けなかった社長の損害賠償責任は?
詐欺事件の舞台とされる場所=東京・西五反田

積水ハウス「地面師詐欺」で55億円損失、見抜けなかった社長の損害賠償責任は?

土地取引の詐欺事件に絡んで約55億円の損失を計上した大手ハウスメーカー・積水ハウスに対し、個人株主が3月5日、事件当時に社長だった阿部俊則氏(現会長)に全額賠償を求めて提訴するよう、監査役に請求した。積水ハウスが3月6日発表した。「当社監査役は、本提訴請求書の内容について調査し、対応を検討します」としている。

個人株主は、阿部氏に、業務執行上の判断の誤りと他の取締役や社員に対する監督監視を行ったという任務懈怠(けたい、会社の取締役などがその業務を誠実に行わないなどの状態)があり、善管注意義務(能力・社会的地位などから考えて通常期待される注意義務)・忠実義務違反があると主張している。

積水ハウスは「分譲マンション用地の取引事故に関する経緯概要等のご報告」も公表。経営責任について、当時の社長(阿部氏)には「業務執行責任者として取引の全体像を把握せず、重大なリスクを認識できなかったことは経営上、重い責任がある」。会長(現取締役相談役の和田勇氏)にも「事態発生に責任がある。人事及び制度の責任者として再発防止のため不完全な部分を是正する責務がある」と、それぞれの責任を認めた。

個人株主の請求を受け、監査役が提訴する必要性を認め、現会長の阿部氏を相手取って損害賠償請求を求める可能性はどの程度あるのか。どういった論点があるか。企業法務に詳しい鎌田智弁護士に聞いた。

●社長にどれくらいの報告が上がっていたかがポイント

ーー監査役はどのように検討するのでしょうか

「適時開示の内容によると、個人株主はまず代表取締役社長(当時)に業務執行上の判断の誤りがあると主張しています。そこで監査役はこの『業務執行上の判断の誤り』を基礎づける具体的な事実があるかどうかを検討することになります。

この事件では、第三者が本人確認のためのパスポートなどを偽造して土地所有者本人になりすまして売買契約を締結し、代金をだまし取ったということです。相手方が本当の所有者であると認識した過程に不注意がないかどうかを、売買契約締結の時点、その後リスク情報が会社に届いた時点、さらに決済時点といった節目ごとに検討することになるでしょう」

ーー取引リスクに関する情報の取り扱い方も重要な要素でしょうか

「はい。特に、本件不動産取引に関するリスク情報自体や、関係部署がリスク情報を『取引妨害の嫌がらせの類であると判断』してしまった経過に関する情報が代表取締役まで報告されていたかどうかといった点はポイントになるでしょう」

ーー大企業ということもあり、代表取締役まで詳細に報告されていない可能性もあります

「もっとも、本質的には本人確認という個別の不動産取引の実務に関する事柄ですし、会社自体不動産取引に関する専門性のある会社でなおかつ大企業・大組織です。そのため、代表取締役まで報告された情報がある程度限られた内容だった場合には、代表取締役自身について法的責任という意味での不注意が認められるかどうかは慎重に検討されることになるのではないかと思います」

●具体的事実による主張と立証を要する

ーー監視監督を怠ったという主張はいかがでしょうか

「個人株主は、他の取締役・使用人に対する監視監督を怠ったと主張しています。代表取締役にこの点の善管注意義務違反があるとされるためには、担当取締役や従業員(東京マンション事業部、マンション事業本部、リスク管理部門、法務部門等)に任務懈怠が認められることがまず必要になります」

ーーそのうえで代表取締役が知りえたか、ということでしょうか

「はい。代表取締役自身に、必要な監視監督を行わなかったことを基礎づける具体的な事実、つまり担当取締役や従業員が任務を懈怠していることを知っていたことや、知ることが可能だったことが具体的に認められなければなりません。

ここでも、リスク情報に接したにもかかわらず取引妨害の類だと判断したことについてどのような情報収集過程、判断過程を経たのか、本人宅を訪問することまでは行わなかったことの当否などが検討されるでしょう。経営責任は別として、法的責任があると認められるためには、このように具体的な事実に基づく主張となおかつ立証が必要です」

(取材:弁護士ドットコムニュース記者 下山祐治)早稲田大卒。国家公務員1種試験合格(法律職)。2007年、農林水産省入省。2010年に朝日新聞社に移り、記者として経済部や富山総局、高松総局で勤務。2017年12月、弁護士ドットコム株式会社に入社。twitter : @Yuji_Shimoyama

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

鎌田 智
鎌田 智(かまた さとる)弁護士 鎌田法律事務所
上場企業の法務部長を務めた後、現在の事務所を開設。 企業内弁護士の経験を生かし、中小企業のビジネス法務に取り組む。

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