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勝手に土地の名義を書き換え売却する「地面師」…狙われないための注意点を徹底解説
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勝手に土地の名義を書き換え売却する「地面師」…狙われないための注意点を徹底解説

土地の所有者になりすまして無断で売却し、現金約2億4000万円をだまし取ったとして、警視庁は6月7日、男女3人を詐欺容疑で逮捕した。

報道によると、3人は東京都港区の土地と建物を所有していた70代女性(故人)になりすまして、購入を希望した会社経営の男性から不動産の売却代金をだまし取ったとみられる。その際、あらかじめ用意した偽の印鑑登録証明書や、住民基本台帳カードを示したという。

他人の土地を自分の名義に変えて、第三者に売却して不正にお金を騙し取る手口の詐欺師を「地面師」という。自分の知らない間に登記を書き換えられてしまうとは恐ろしいことだ。不正登記をされないようにするためには、どうしたらいいのか。瀬戸仲男弁護士に聞いた。

●更地で所有者が遠方にいる都心部の土地は、地面師に狙われやすい

「地面師」とは、土地の権利関係(所有者情報等)を偽造するなどして売買代金を詐取する専門的な詐欺師(詐欺グループ)のことです。最近も東京都の高齢者が被害にあいましたし、過去にはAPAホテルが被害にあったこともあります。

まず、地面師は住宅地図(航空地図)などを見て、対象地を探します。対象地として地面師に狙われる傾向にある土地として、次の点が考えられます。

第1に、更地(建物などが無い空き地)であること。建物が建っていると、居住者に聞くことで、詐欺だということがわかってしまう可能性があるからです。

第2に、同一の所有者(古くからの地主)が所有していること。遠方の所有者であればなお狙われやすい。放置されている可能性が高いからです。

第3に、抵当権など、担保として不動産を確保するよう設定登記されていないこと。担保権登記が残っていれば売りにくいし、担保権登記を消すためには担保権者の同意が必要であり、詐欺がばれる、あるいは、取り分が減る(担保権者に残債務額を支払わなければならない)からです。

第4に、都心部の好立地の土地であること。好立地の土地であれば、買い手が多く、早く売ることが可能だからです。

地面師は、このような条件に合った候補地をいくつか選び出し、実際に現地調査を行い、法務局(登記所)で権利関係(所有者は誰か、どこに住んでいるのか、など)の調査を行い、対象地を決めます。

対象地が決まったら、地面師は、必要書類を偽造するなどして、対象地の登記の所有者の名義を地面師に移転します。これにより、登記簿上は対象地の所有者が地面師であるという外観が出来上がります。そして、地面師は「自分が対象地の所有者だ」と嘘を言って、対象地を売って、売買代金を得て、雲隠れしてしまう、というわけです。

●一番の被害者は、地面師に騙されて土地を購入してしまった人

ここで、読者の皆さんは「もともとの所有者は、対象地を取り戻すことはできないのか?」と疑問に思うかもしれませんね。この点は、民法の教科書に出てくる有名な知識の問題ですが、ここでは、結論だけ示しておきましょう。

原則として、所有者は購入者から対象地を取り戻す(登記名義を戻す)ことができます。ただし、例外として、所有者に落ち度があり、購入者に落ち度がない場合には、取り戻すことができなくなることもあり得ます。

もっとも、地面師の事件の場合は、もともとの所有者に落ち度がない場合がほとんどでしょうから、結局、購入者は所有者に対象地を返す(登記名義を戻す)ことになりますね。

ということは、地面師の事件の場合の一番の被害者は所有者ではなく、購入者だということになります。もちろん、所有者も面倒なことに巻き込まれ、購入者に対して登記名義を返すよう請求する(訴える)労力を負担しなければならないという意味では被害者ですので、大変ですが。

所有者に登記名義を返すことになった購入者は、地面師に対して責任追及することになります。しかし、既に地面師は雲隠れして行方が分からないことがほとんどですから、多くの場合、購入者は泣き寝入りすることになりそうです。

●購入者は対象地の近所の人に聞いたり、司法書士に依頼を

そこで、地面師に騙されて対象地を購入しないためには、どうしたらよいのか、気を付けるべきポイントを挙げてみましょう。

第1に、地面師が「今月中に売りたい」などと、売買契約を急がせる場合は危険な場合が多いと思われます。「急いでくれないと、ほかの人に売る」と言われても、焦らずに「大事な(高価な)買い物だから、慎重にやりたい」と言って、地面師の様子を観察してみるのが良いでしょう。

第2に、対象地の近所の人に聞いてみる。あるいは、建物がある場合は、居住者に聞いてみる。もしも、地面師や居住者が建物の内部を見せてくれない場合は、怪しいと思ってよいでしょう。

第3に、自分で登記しないで、登記の専門家である司法書士に依頼することです。信用できて、経験豊富で、多めの賠償保険に加入している司法書士に依頼して、地面師が怪しいかどうかチェックしてもらいましょう。

●権利証を紛失していたら、不正登記防止申出書を提出しよう

次に、所有者の立場に立って、被害にあわないようにする対策を考えてみましょう。

地面師は、対象地の登記名義を所有者から地面師に無断で移転するわけですが、所有権の移転登記に必要な書類等として、(1)権利証(または登記識別情報)、(2)真の所有者の実印および印鑑証明書、(3)地面師の住民票、身分証明書(運転免許証など。司法書士が本人確認をするときに必要)が挙げられます。

このうち、地面師は、(3)の住民票を簡単に準備してしまいます。偽造される可能性があるは(1)と(2)です。

(1)の権利証は、紛失しなければ被害にあう可能性は高くはないはずですが、仮に、紛失した場合には、法務局(登記所)に対して「不正登記防止申出書」を提出できます。この申出をしておくと、もしも何らかの登記申請がなされた場合に、法務局から確認の通知がきますので、不正な登記申請であることを法務局に伝えて、被害を防止することができます。ただし、この不正登記防止申出の効力は3カ月だけですので、徹底したいのならば、役所で印鑑登録をやり直す(新しい実印で登録する)ことが必要です。

同様に、登記識別情報を紛失した場合は「登記識別情報の失効手続」をしておきましょう。これにより、紛失した登記識別情報は無効になり、その登記識別情報を利用した登記はできなくなります。

次に、(2)の実印の偽造です。最近は「3Dプリンター」なるものが使われるようになり、実印の偽造が簡単になったとも言われています。実印の保管は厳重にして、少しでもおかしなことがあったら、改印することを考えてみてもよいでしょう。

(3)の運転免許証(身分証明書)については、地面師が地面師の名義で売却する場合には運転免許証を偽造する必要はありませんが、地面師が自分の名義を出したくないと思えば、他人名義で登記するかもしれません。その際に、運転免許証を偽造するということもありそうです。

●運転免許証の偽造を見抜くには

ところで、運転免許証の偽造なんてできるのか、と思うかも知れませんが、地面師はプロの詐欺師です(詐欺師グループには運転免許証の偽造のプロもいるようです)。最近では、本物と見分けがつきにくい運転免許証が作られていると言われていますので、見破るのは容易ではありませんが、いくつかチェックすべきポイントがあります。

第1に、運転免許証の12桁の番号の羅列に注目しましょう。この羅列の最初の2個(1番目・2番目)は運転免許証を最初に取得した都道府県を表す番号になっています。例えば、東京は「30」、大阪は「62」、北海道は「10」、福岡は「90」などです。仮に、地面師が「東京で免許を取りました。」などと言っているのに、番号が「90」だったら、怪しいですね。

また、羅列の3番目・4番目は、免許を初めて取得した年の西暦の下二桁ですし、12桁の最後の数字は免許証の再発行回数です。通常は再発行を申請することは無いでしょうから、この最後は「0」ですね。

第2に、運転免許証には「透かし」があります。ライトを当てるとわかります。また、ICチップが埋め込まれていますので、ライトを当てると、ICチップと回路の線が見えます。

このようなことで、偽造免許証かどうかわかる可能性がありますので、慎重にやりたいということであれば、確認してみるのもよいでしょう。

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

瀬戸 仲男
瀬戸 仲男(せと なかお)弁護士 アルティ法律事務所
アルティ法律事務所代表弁護士。大学卒業後、不動産会社営業勤務。弁護士に転身後、不動産・建築・相続その他様々な案件に精力的に取り組む。我が日本国の歴史・伝統・文化をこよなく愛する下町生まれの江戸っ子。

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