人気配信者「がーどまん」が東京・原宿の人気クレープ店を訪れ、店員とトラブルになった様子をSNSやYouTubeでショート動画に投稿し、物議を醸しました。動画は現在非公開となっています。
動画によると、配信者が店の前で撮影を始めたところ、店員は「店の前でやるのやめてもらっていいですか」と求めました。配信者が「ごめんなさいね」と謝りつつ、「(クレープを)買うんですけど、今から」と答えると、店員は「買わないでいいです」と断りました。購入窓口のすぐそばには、店が出した撮影禁止の掲示が映っていました。
撮影に同行していた人が「別に買うのは自由じゃないですか」とカメラに向かって言うと、店員は「買わないでください」「そこ撮らないでください」と告げました。配信者はこれに「キッショ、この店」「路地裏に出せよ、こんな大通りに出して」と購入を拒否されたことに悪態をついていました。
配信者側は「買うのは自由」といいますが、本当にそうなのでしょうか。店側には拒否する自由はないのでしょうか。解説します。
●「買う自由」もあるが、「売る自由」もある
動画では、配信に同行した人が「別に買うのは自由じゃないですか」と発言しています。
たしかに、クレープを買う、買わない、というのは自由なのですが、その反面、クレープ屋さんが売る、売らない、というのも自由です。
売買契約(民法555条)は、当事者の意思(目的となるものと、それに対して代金を支払うことの合意)が合致することで成立します。
一見すると、クレープ屋さんは値段をつけてクレープを販売しているのですから、買いたい人が「買います」という意思表示をすれば、その時点で当事者の意思が合致し、売買契約が成立するようにも思えます。
しかし、このような対面販売のお店では、店頭の表示や品書きは「買いませんか」という誘いかけにとどまり、お客さんの「買います」という申し込みを店が承諾した場合に、売買契約が成立すると説明されることが一般的です。
契約を結ぶかどうかは当事者が自由に決められますから(同521条1項)、お店には承諾しない自由があります。
●店は「店の前で撮るな」と言える?
貼り紙があるのだから、店の前で撮るなと言えて当然だ、と思うのは自然なことだと思います。
ただし、店が「撮らないでください」と言えるのは、その場所を所有したり借りたりして、現に管理しているからです。所有権や占有にもとづくもので、施設管理権と呼ばれます。
ただ、この権限が及ぶのは、店が支配している敷地や建物の中までです。
店の前が公道であれば、そこは店の管理する場所ではありません。撮影禁止の掲示があっても、それを理由に、公道での撮影までやめさせることは難しいでしょう。
もちろん、撮影のために立っている場所が公道でも、映っているのが公道ではなく、お店ばかりが大きく映されているとか、そうでなくても、その撮影により、お店の営業に具体的な支障が出るような場合には、撮影行為が不法行為(民法709条)にあたるなどとして違法となる可能性はあります。
あまりにも悪質な場合には、威力業務妨害罪(刑法234条、3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金)などの刑事責任の問題にもなりえます。
●無断で映された人は、何を請求できる?
公道上の撮影では、配信者やスタッフだけでなく、そのお店や店員、居合わせただけの客や通行人なども映ってしまう可能性があります。
今回の動画でも、店舗や店員を撮影し、配信していますが、これが無断で行われている場合、公道上での撮影だから自由です、というわけにはいきません。
たとえば、無断で撮影・配信されたお店や店員などから、不法行為(民法709条)にもとづく損害賠償請求を受ける可能性があります。
無断の撮影や配信が、不法行為として違法となるかどうかは、いくつもの事情から決まります。
お店が請求する場合は営業上の利益の侵害なども問題になりそうです。個人が請求する場合は肖像権やプライバシー侵害が問題になると思われます。
肖像権侵害の場合、撮られた人がどういう人で、そのとき何をしていたか、撮影の場所、目的、態様、必要性、といった要素から、撮られた人が社会生活上我慢すべき限度を超えている場合に、不法行為となります(最高裁平成17年(2005年)11月10日判決)。
撮影場所が公道上であることは、我慢すべき限度内という方向に働きます。しかし、特定の人に顔を寄せて撮るとか、やめてほしいと言われても撮り続ける、お店をけなしたり嘲笑するような文脈で公開する、といった事情が重なれば、違法であるという評価に近づきます。
動画をみる限り、配信者側としては、このお店が大通りに面しており、多くの人がクレープを買った際に撮影も楽しんでいるはずであり、動画を撮影しても問題ないと考えていたように思われます。
また、動画のテロップからすると、配信者側は今回の撮影がお店に迷惑がかかるようなものではないと認識していたようです。
しかし、迷惑かどうかは、撮影する側の認識で決まる問題ではないことには注意が必要です。
実際に、路上で撮った動画をネットに公開した行為に賠償を命じた裁判例もあります(東京地裁令和4年(2022年)10月28日判決など)。
●規制が必要なのでは?という声もある
今回のケースでは「きちっと法整備して迷惑行為を厳しく取り締まらないといけない」というコメントにみられるように、配信者に厳しい意見が多いようです。
法整備、という点についていえば、現在の法律でも、無断で撮影され、配信された人には、これまでみてきたような損害賠償請求などの権利がありますし、動画の削除を求めることも、投稿した人を特定する手続きもあります。
しかし、個人で動画をインターネット上に配信するのが容易となっている現在では、今の法律では困った撮影行為への対応として必ずしも十分ではないのかもしれません。
2021年には、プロバイダ責任制限法が改正され(施行は2022年)、匿名の発信者の特定について発信者情報開示命令という手続きが創設されたり、ログイン型のサービスでも一定の情報の開示が可能であることが明確化されたりしています。
少しずつ制度は拡充されていますが、このような制度もあくまでも「配信された後」の責任を追及するための改正であって、迷惑な撮影や配信を事前に、もしくはその場で止めるための仕組みにはなっていません。
個人が容易に配信できる時代に、迷惑な撮影や配信を止める仕組みをどこまで作るべきかは、表現の自由との兼ね合いもあり非常に難しい問題です。
小倉匡洋(弁護士ドットコムニュース編集部記者・弁護士)