「もう限界。10年前は20人くらいスタッフがいたんだけどね」。関西エリアの郊外で大手コンビニのフランチャイズチェーン(FC)店を経営する片山みどりさん(仮名・50代)は溜息をついた。
人が集まらないーー。現在のスタッフは6人。70代が1人、60代が2人、40代が2人、30代が1人。全員主婦だ。「最近まで10代の子がいたんだけど、やめちゃいました。若い人がいなくて面白くなかったんでしょうね」
それでも都会なら外国人留学生が応募してくれたかもしれない。しかし、この街ではそれも期待できない。「大阪の中心部に行けば、多いんだろうけどね。若い学生さんもみんな都会に行っちゃう」
人手不足が深刻化する中、片山さんのように疲弊する地方のコンビニオーナーがいる。足りない分は家族で補う。片山さん一家の場合、深夜・早朝は治安の関係から夫のワンオペだ。休憩はできない。この1か月の総労働時間は、過労死しても不思議ではない290時間。日中は片山さんと子どもも店頭に立つ。
すべては24時間365日、店を開けるためにーー。
●「社会インフラ」に「上から目線」で接する客
「午前0時〜5時の客は20人ほど。売り上げは良くて2万円くらい。完全に赤字ですよ。夜、店を閉められたら今の人数でも何とか回せるのに」
片山さんは本部に24時間営業をやめさせてくれと頼んだことがある。しかし、本部の答えはNG。「コンビニは社会インフラ」「社会の期待を裏切る」というのが理由だ。
「本音は別でしょう。本部はFC店の売り上げが1円でも多い方が儲かるんだから。私たちは商売をやりたかったんであって、インフラをやりたかったわけじゃないのに…」
コンビニでは商品の種類だけでなく、受けられるサービスも飛躍的に増えた。チケットの発券やATM、宅配便の店頭受け取りなどに加え、住民税の支払いや住民票の取得といった行政サービスまで。防犯や災害時の拠点としても期待されている。しかし、「インフラ化」のしわ寄せは、従業員の業務量だけでなく、店と客側の力関係にも影響している。
「コンビニに行ったら何でもあって、何を言ってもオッケーという風潮がありますよね。こちらを見下して接して来るお客さんが、特に年配の方に多くて悲しいです。コンビニが社会インフラって誰が決めてるの」
●おちおち葬式にも出られない
業務が過酷さを増すのに、スタッフの時給は低いままだ。リクルートジョブズが発表している、パート・アルバイトの募集時平均時給調査(2017年12月度)によると、三大都市圏における全職種平均は1030円。コンビニに限ると948円。50以上ある職種のうち、下から2番目だ。
理由の一端を、九州で別の大手コンビニFC店を複数店舗、家族経営している今宮のぞみさん(仮名・30代)はこう説明する。
「儲かる場所には新しいコンビニやスーパーが入って来るので、よほど立地が良くないと、1店舗の利益はたかが知れています。オーナーは店舗を増やさないと儲からないけれど、お金が貯まらないから簡単には増やせない」
このほか、売り上げ金額から廃棄した商品の原価をさし引けない「コンビニ会計」などの影響もあり、人件費を削らないとオーナーも稼げない。最低賃金でスタッフを雇い、オーナーが店舗勤務することで、どうにか成り立つという店もある。
そんな忙しいオーナー家族だから、冠婚葬祭に出席できないことも。本部が人を派遣してくれる「オーナーヘルプ」という制度もあるが、必ず利用できる保証はない。今宮さんの祖父が亡くなる前後は、家族で代わり番こで店頭に立ったという。
●24時間をやめる気のない業界
すかいらーくやロイヤルホストなど、すでに外食産業では24時間営業を見直す動きが出ている。コンビニ業界だって、客が入る店は24時間を継続、成り立たない店は経営状態に合わせてといった風に、オーナーが営業時間や休みを決めて良いのではないか。
この問いに対し、セブン&アイ・ホールディングス役員は1月25日、中央労働委員会(東京)の審問の中で、「契約上、許されない」「納得してもらった上で契約している」「世の中がコンビニに24時間営業を期待している」という趣旨の回答をした。
オーナーの長時間労働の一因は、従業員を「うまく使えていない」「教育が不足している」点にあるという。しかし、その従業員は時給いくらで働いているのか。
報道を見る限り、業界大手は24時間営業をやめる気はないようだ。唯一ファミリーマートが一部店舗で実験的に24時間営業をやめたものの、まだ加盟店のオーナーからは「世間体を気にしたポーズでは」と半信半疑の声もある。
「そんなに(インフラを支える)『公務員』にしたいなら、給料払ってよ」。審問を傍聴していた男性オーナーの皮肉めいたつぶやきが聞こえた。(弁護士ドットコムニュース編集部・園田昌也)