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ミスした部下に「俺なら坊主にする」 上司の発言は指導か、パワハラか?
画像はイメージです(Shila / PIXTA)

ミスした部下に「俺なら坊主にする」 上司の発言は指導か、パワハラか?

仕事のミスをしたら「坊主になれ」と言われたーー。些細なケアレスミスを理由に、上司から令和の時代とは思われない言葉を投げかけられたら、それは「パワハラ」になるのでしょうか。弁護士ドットコムに、切実な相談が寄せられています。

相談者によると、書類の誤字や数字の記入漏れといった軽微なミスをした際に、上司から「こんなミスをしたら、俺なら辞めるか坊主にするけどな」と叱責されたそうです。後日、その上司から「まだやらないの?」と催促までされたといいます。

「強制ではない」という言い逃れのために「俺なら」という主語を使っているとしか思えず、その執拗な物言いに強い精神的苦痛を感じているそうです。

職場における「指導」と「パワハラ」の線引きは、常に議論の的となります。「冗談のつもりだった」「熱心に指導しただけ」という言い分は、どこまで通用するのでしょうか。「俺なら」という巧妙な言い回しで退職や丸刈りを迫る行為は、法的にどう判断されるのか。労働問題に詳しい前野陽平弁護士に聞きました。

●パワハラに該当するのか?

──仕事のミスで「俺なら辞めるか坊主にする」と半ば強制されるような発言があったといいます。これはパワハラに該当するのでしょうか?

まず初めに、相談者が坊主にしたり退職したりする必要性は全くありません。

これを前提として、上司の言動がいわゆるパワーハラスメント(以下「パワハラ」といいます。)に該当しないかが問題となります。

一般的に、パワハラとは、(1)職場における優越的な関係を背景とした言動であって、(2)業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、(3)労働者の就業環境が害されるものと理解されています。

今回のケースでは、相談者は書類の誤字や数字の記入漏れといった軽微なミスをしてしまったとのことです。仮に軽微なミスであったとしても、ミスを改善するために上司が部下に一定の指導を行うことは当然に認められます。

しかしながら、本件における上司の言葉は、ミスを改善するための対応策等を示すものではなく、必要性が全く認められません。また、上司の言葉は暴言と評価せざるを得ず、しかも、後日に「まだやらないのか?」と催促までしている点に鑑みれば、上司の言動は執拗かつ悪質であり、相当性を欠くといわざるを得ません。

したがって、上司の言動は、パワハラに該当する可能性が高く、上司や会社は部下に対して損害賠償責任を負う可能性があります。

●「俺なら」をつければパワハラにはならない?

──相談者としては「俺なら」と上司が付け加えたことで、パワハラと認められないのではと心配しています

上司は、「俺なら」という言葉を用いて、「坊主にしろ」等といった明示的な言葉を避けているようです。たしかに、「坊主にしろ」等といった明示的な言葉の方が、部下に与える精神的なダメージが大きいといえる場合もあるでしょう。

しかし、上司と部下という関係性を踏まえれば、たとえ「俺なら」という言葉を用いたとしても、部下にとっては坊主や退職を強要されているに等しく、坊主や退職を明示的に求める場合と大差はないといえますので、上記の結論に変わりはないと考えられます。

この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいています。

プロフィール

前野 陽平
前野 陽平(まえの ようへい)弁護士 堂島法律事務所
大阪大学法学部卒業、京都大学法科大学院修了。堂島法律事務所に入所後、三井物産株式会社、経済産業省・中小企業庁(内閣官房・フリーランス法制準備室を併任し、フリーランス保護新法の立案作業を担当)へ出向。企業法務全般、特に、労務、M&A、AI法務、スタートアップ法務等を多数取り扱っている。

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