夜景を撮影していた16歳の少女は、自転車で帰宅途中だった50代の男性から「もっときれいに夜景が見える場所がある」と声をかけられ、人気のない河川敷へ向かった。
その後の性的な行為は、恐怖で抵抗できなかった結果だったのか。それとも同意の上だったのか──。
東京都と神奈川県の境を流れる多摩川に架かる橋で起きた不同意性交事件の裁判は6月30日、東京地裁(村田千香子裁判長)で論告求刑と最終弁論が開かれた。
検察側は「極めて悪質な犯行」として拘禁刑8年を求刑。一方、弁護側は「黙示的な同意があった」として無罪を主張し、双方の主張は真っ向から対立している。
(編集部注:この記事には男性が罪に問われている性的行為の描写が含まれています。お読みになる際には十分ご注意ください)
●争点は「同意」と「証言の信用性」
起訴状などによると、被告人(当時51歳)は2025年6月16日、多摩川に架かる橋の上で夜景を撮影していたAさん(当時16歳)に「もっと夜景がきれいに見える場所がある」などと声をかけ、河川敷へ誘った。
その後、不同意のまま性的な行為をしたとして、不同意性交罪に問われている。
裁判の争点は、性的行為に同意があったかどうか、実際にどこまでの性的行為があったのか、そしてAさんの証言が信用できるかどうかだ。
●検察側「恐怖で体が固まり、抵抗できなかった」
検察側は、被告人が自らの年齢を30歳と偽ったうえ、人気のない河川敷へ誘導し、Aさんが逃げられない状況をつくったと主張した。
Aさんは「恐怖のあまり体が固まった」と証言。検察側によると、被告人は後頭部を押さえつけて口腔性交を強要し、さらに女性器に指を挿入したという。
検察側は「極めて悪質な犯行」と断じ、「Aさんの証言は具体的で一貫している」と信用性を強調した。
事件当日、Aさんは被告人と別れた直後を含め、2度にわたり110番通報して被害を訴えていたことも、その裏付けになると指摘した。
さらに、被告人には前科7犯があり、「出所からわずか2カ月で犯行に及んだ」として再犯のおそれを挙げ、拘禁刑8年を求刑した。
●弁護側「逃げる機会はいくらでもあった」
これに対し弁護側は「同意はあった」として無罪を主張した。
橋から犯行現場へ向かうまでには人通りがあり、コンビニや交番もあったことから、「嫌なら逃げ込むこともできたはずだ」と反論した。
また、被告人は暴力や脅迫をしておらず、「恐怖で体が固まる(フリーズ)」状態になる状況ではなかったと主張。「抵抗しなかったことは黙示的な同意と理解した」と述べた。
口腔性交についても、被告人は捜査段階から一貫して否定。女性器への指の挿入についても「していない」と主張した。
110番通報についても、「Aさんが想定していた以上の性的な行為があったため驚いただけで、犯罪ではない」と位置付け、無罪を求めた。
最終意見陳述で被告人は、「逮捕から1年2カ月が経ち、人生を真剣に考える時間を与えられました。軽率な行動でこのような状況になったことは反省しています」と述べた。
一方で、「私は真実を語りました。どうか賢明な判断をお願いします」と改めて無罪をうったえた。
●最初の食い違いは「年齢」だった
事件当日の経緯についても、両者の証言は多くの点で食い違っている。
被告人は当日夜、自転車で帰宅する途中、橋の上で一人で夜景を撮影していたAさんを見つけた。
法廷で被告人は、「自分も夜景を撮るので気になった。撮影している姿に魅了され、どんな気持ちで写真を撮っているのか知りたくなった」と説明した。
しばらく様子を見た後、「かわいいですね。いくつですか」と声をかけたという。
被告人によると、Aさんは「20歳です」と答えた。
しかし、Aさんは「未成年であることを伝えた」と証言しており、この点が最初の大きな争点となっている。
●「もっと夜景がきれいな場所がある」
被告人はAさんに「奥のほうにもっと夜景がきれいに撮れる場所がある。行ってみませんか」と誘った。
被告人によると、Aさんは「はい」と応じたという。
一方、Aさんは法廷で、「不審に思い、『嫌だな』と感じて強い警戒心を抱いた」と証言している。
橋の上では、仕事や写真撮影について会話を交わした後、2人は自転車で河川敷へ向かった。
先を走る被告人の後ろを、Aさんが約2メートルの距離を保ちながらついていく様子は、交番近くの防犯カメラにも映っていた。
弁護側は「途中には人通りもあり、交番やコンビニもあった。逃げることは十分可能だった」と主張する。
これに対しAさんは、「逃げれば自転車で追いかけられ、もっとひどいことをされると思った」と振り返り、恐怖から従うしかなかったと説明した。
●「笑ったら負け。負けたらキス」
夜景スポットに到着すると、2人は自転車を止め、階段を下りてベンチへ向かった。
被告人は夜景について話しかけたが、Aさんの反応は薄く、「興味がないのかなと思った」と証言した。
その後、お互いの名前を教え合い、被告人は自身のInstagramのアカウントも伝えた。
Aさんが年齢を尋ねると、被告人は「何歳に見える?」と聞き返した。
Aさんが「25歳くらい」と答えると、「惜しい。でも30歳だよ」と実際より20歳以上若い年齢を伝えた。
年齢を偽った理由について、被告人は「誰に対しても若く言っています」と説明した。
一方、検察側は、被告人が自分の年齢を偽ったにもかかわらず、Aさんの年齢を十分に確認しなかった点を問題視した。
その後、話題は恋愛経験へ移った。
被告人によると、「付き合ったことはある?」と尋ねると、Aさんは「ないです」と答えた。
そこで被告人は「じゃあ俺の彼女にならない?」と告白し、Aさんは「はい」と答えたため、交際を了承したと受け止めたという。
さらに被告人は、Aさんを笑わせた後、「ルールでは笑ったら負け。負けたらキスしないといけない」と言ってキスをし、その後、陰茎を触らせるなどの性的な行為に及んだと説明した。
●Aさん「恐怖で体が固まった」
これに対しAさんの証言は、大きく異なる。
Aさんは、「暗い河川敷のベンチで『彼女になってくれないか』と何度も迫られ、何度断っても繰り返されたため、『えー』と曖昧に返事をしただけでした」と説明した。
その直後、突然キスをされ、胸を触られたうえ、口腔性交を強要されたと証言。
「頭が真っ白になり、恐怖で体が固まってしまいました」と当時の状況を振り返った。
検察側は、さらに女性器への指の挿入もあったと主張しているが、被告人はこれを否定している。
●「恋人にも頼んだことはない」
検察官から「初対面の相手と性的な行為をした理由」を問われると、被告人はこう答えた。
「『はい』と言ってくれたので、嫌ではないと思いました。『こんなことをして大丈夫かな』とは少し思いましたが、部屋ではないので最後までするつもりはありませんでした」
また、Aさんが「口腔性交を強要された」と証言していることについては、
「していません。恋人にもお願いしたことはありませんし、そもそもしない主義です」と改めて否定した。
●被告人は約10日後に逮捕された
性的な行為の後、被告人はLINE交換を持ちかけた。
うまく登録できなかったため、2人は電話番号を交換した。
被告人は「彼女になってくれてありがとう」と声をかけたという。
一方、Aさんは、「恐怖の時間が終わった直後で、これ以上危害を加えられないよう要求に従うしかなかった」と説明した。
その後、2人は最寄り駅まで一緒に向かった。
途中、Aさんは母親へ電話をかけるふりをして110番通報したが、電話に出たのが男性警察官だったことや、被告人がすぐ近くにいたことから詳しい事情は話せなかったという。
駅で別れた後、再び110番し、「勝手に胸を触られた」などと被害を申告した。
被告人は約10日後に逮捕された。
●「私は真実を語りました」
逮捕後、被告人はAさんが16歳だったと知らされると、「違うだろう」と否認したという。
被告人には、強制わいせつや強姦、強姦未遂などの前科があり、この事件の数カ月前に刑期を終えたばかりだった。
裁判長から「自分の感覚が一般社会とずれていると思ったことはありますか」と尋ねられると、被告人はこう答えた。
「30代、40代のころはありました。50代になってからは気をつけないといけないと思っていました。でも、このような結果になった以上、自分の行動は軽率だったと思います」
一方で、最後まで「私は真実を語りました。どうか賢明な判断をお願いします」と無罪をうったえ続けた。
判決は8月に言い渡される。