軽度の知的障害がある男性に「特効薬」だと称して大量のウイスキーを飲ませ、スマートフォンを奪って電子決済を無断で利用したなどとして、強盗や強要、電子計算機使用詐欺、不同意わいせつの罪に問われている男女2人の公判が6月30日、東京地裁(戸刈左近裁判官)であった。(ライター・渋井哲也)
●わいせつな行為までさせられていた
起訴状などによると、被告人らは2025年6月5日夜、東京都中野区で被害男性に「特効薬だ、飲め」と言ってウイスキーを飲ませたうえで、スマートフォンを奪った。
その後、スマホに登録されていた電子決済アプリを無断で使ったほか、被害男性を自宅マンション前の植え込みに放置したとされる。
さらに別の日には静岡県内の山中へ連れ出し、わいせつな行為をさせたうえ、その動画を撮影した罪にも問われている。
●趣味のアニメを通じてXで知り合った
被害男性が、佐藤佳菜子被告人と知り合ったのは2024年11月ごろ。
Xを通じて、趣味であるアニメ「ラブライブ!」の情報を発信する佐藤被告人のアカウント「シグ」をフォローした。その後、別の男性2人も交えて居酒屋へ行く仲になった。
しかし、そうした交流は様相を変えていく。
被害男性によると、佐藤被告人から「ゲームを作った」と言われて、Xのパスワードを教えたところ、自分のアカウントにログインできなくなったという。
その後、自分のアカウントから、身に覚えのない誹謗中傷や殺害予告、自身のフォロワーに対する暴言が投稿されていたという。
「シグが『乗っ取りのゲームを作った』と言っていましたが、多分、それも私をだますための嘘だったと思います」
さらに佐藤被告人のLINEから、「事件について話があるので、中野警察署の警察官がLINEを交換したいと言っている」というメッセージが届いた。
被害男性が、「アイア」を名乗る鈴木大智被告人のLINEアカウントをブロックすると、今度はXのDMで「言う通りにしなければ逮捕される」と脅されたという。
●「警察署に来て」と言われた先にいたのは…
当初は中野警察署へ来るよう言われていたが、途中で「沼津警察署へ来てください」と連絡があった。
被害男性は2025年5月30日、仕事を終えたあと約4時間半かけて静岡県沼津市へ向かった。
しかし、待っていたのは警察官ではなく、鈴木被告人だった。そのまま車に乗せられ、「特効薬」などと言われてウイスキーを無理やり飲まされた。
被害男性は、それまで酒を飲んだ経験がなかったという。
「気持ち悪くなって吐きました。車の外で吐いているところを、鈴木被告人は笑いながら動画を撮っていました」
その後は記憶がほとんどなく、気が付くと鈴木被告人の部屋にいた。そこで裸になった姿を撮影され、SNSに投稿されたという。
●公園で逃げるとタックルされた
それから数日後の6月5日夕方、自宅へ戻った被害男性のもとへ、シグの番号から電話があった。電話に出たのは、アイアだった。
被害男性は、佐藤被告人と鈴木被告人らと合流したが、「誹謗中傷の件で警察へ行く」と連れて行かれたのは、自宅近くの公園だった。
逃げようとしたところ、鈴木被告人にタックルされ、転倒したという。
その後、「警察へ向かう」と言われて移動する途中、鈴木被告人は再び「特効薬」と称して、大きな瓶入りのウイスキーを差し出した。
「断ると『逮捕します』と脅されました。完全に酔っ払いました」
隣にいた佐藤被告人は、その様子を見ていたものの、止めなかったという。
その後、被害男性は気分が悪くなり、コンビニで休憩したところから記憶が途切れた。目を覚ますと、自宅の部屋で寝ていた。
あとで確認すると、スマートフォンの「d払い」で約9万5000円が使われていた。このときの被害男性の様子は、コンビニの防犯カメラにも記録されていたという。
●裸で放置され、写真もSNS投稿される
被害男性が意識を失っていたその夜、自宅近くの林で新聞紙の上に裸の状態で寝かされ、肛門に「鍵」や「小さな花」を突き刺されたという。その様子は撮影され、SNSにも投稿されたという。
佐藤被告人の供述調書によると、被害男性のズボンを脱がせたり、「小さな花」を肛門に入れたりした人物は「誰がやったかわからない」と説明する一方、「鍵」を入れたのは自分だったと認めている。
●わずか3日後、再び「警察へ」
しかし、被害男性への接触は終わらなかった。
6月7日夜、佐藤被告人から「明日、横浜に来られる?」とLINEが届き、翌朝には、秋葉原駅から小田原駅までの乗換案内が送られてきた。
さらに、「小田原警察署の『ウエマツ』という警察官が待っている。Xで誹謗中傷したフォロワーへの謝罪と正式な取り調べをする」と伝えられたため、被害男性は再び指示に従った。
小田原駅で待っていたのも警察官ではなく、鈴木被告人だった。
被害男性は駅近くの100円ショップへ連れて行かれ、ブルーシートや収納ボックスなどを購入させられた。代金は、奪われたスマートフォンの「d払い」で決済されたという。
続いてコンビニでは700ml入りのウイスキー「ブラックニッカ」を買わされた。鈴木被告人がスマートフォンを操作して決済し、被害男性は拒否できなかった。
「嫌でした。でも、公園でタックルされたことを思い出して、逆らえませんでした」
●「取調室」と呼ばれた山中
その後、車は小田原警察署とは反対方向へ向かった。連れて行かれたのは静岡県熱海市の山中だった。
携帯電話の電波も届かない山中には、ブルーシートと布団が敷かれた一角があり、鈴木被告人はそこを「取調室」と呼んだという。
被害男性は再びウイスキーを飲むよう命じられ、吸ったこともないたばこを渡されて、「思い切り吸って、煙を吐け」と指示された。
検察官から「なぜ断らなかったのですか」と問われると、被害男性はこう答えた。
「『断れば逮捕する』と脅されました。言うことを聞かなければ暴力を振るわれると思いました」
さらに性的補助器を渡され、「これで抜いてみろ」と命じられたという。
「ズボンは自分で半分くらい脱ぎました。でも、近くにアイアがいることはわかっていました」
その日は途中から雨が激しくなり、行為は中断された。被害男性は約2日間、山中に置かれた末、6月10日午前になってようやく解放され、自力で下山したという。
●PayPayでも約20万円送金
被害男性はこのほか、佐藤被告から繰り返しPayPayで送金を求められ、約20万円を送金したと証言した。
金額を減らしてほしいと頼んでも応じてもらえず、多めの送金を求められたこともあったという。
居酒屋での飲食代についても、「お金が足りないからPayPayで払って」と言われ、送金したと説明した。
●「佐藤さんは巻き込まれた立場だと思う」
佐藤被告人の弁護人は「佐藤さん自身も鈴木被告人の暴力や脅迫を恐れ、指示に従わざるを得なかったのではないか」と質問した。
これに対し、被害男性は「佐藤さんは巻き込まれた立場だと思います」「鈴木だけが強く処罰されればいい。佐藤さんについては、そこまで重い処罰を望んでいるわけではありません」と証言した。