スーパーに行くと、レジ前の通路や鮮魚コーナーなど、様々な場所で試食品が提供されています。「美味しそうだからちょっとだけ」と手を伸ばす人も多いでしょう。しかし、中には「買う気もないのに試食品を食べ続けてしまった。犯罪だとか言われないだろうか」という不安を感じる人もいるようです。
弁護士ドットコムニュース編集部に質問を寄せた女性(都内在住・40代)は、子どもと一緒に観光地の土産ショップを訪れた際の出来事を次のように振り返ります。
「その店は多くの商品に試食が置いてあったんです。子どもが試食できるものは全て食べ尽くす勢いで食べ始めたので、慌てて途中でとめたんですが、あまりに申し訳なく商品を買わざるを得ませんでした。許される試食の範囲ってあるんでしょうか」
お店側は「商品を買ってほしい」と思っているでしょうから、確かに「試食するだけ」では迷惑な行為かもしれません。買う気がないのに試食品を食べ続けた場合、何らかの罪に問われる可能性はあるのでしょうか。
●場合によっては「詐欺罪」や「窃盗罪」になりうるが‥
買う気が全くないにもかかわらず試食品を食べ続ける行為は、法律上「詐欺罪(刑法246条1項)」や「窃盗罪(刑法235条)」が成立する可能性が考えられます。
まず、試食品を提供する趣旨は、消費者に商品を試してもらい、その結果「買う気になってもらう」ことにあります。
もし、店員に「試食したい」と申し向けて提供を受けた場合、試食を提供する店員側の「後に商品を購入する可能性がある」という誤認を利用して、食べ物という財産的利益の交付を受けているため、刑法246条の詐欺罪にあたる可能性があります。
次に、店員がおらず、置いてある試食品を勝手に取って食べた場合、これは他人の占有する財物(食べ物)を無断で自己の占有下に移しているため、刑法235条の窃盗罪にあたる可能性があります。
●「買う気が全くないこと」の立証は非常に困難
ただし、これらの罪が実際に成立するかどうかの判断は非常に難しいのが実情です。
詐欺罪や窃盗罪が成立するには、行為の時点で「商品を購入する気が全くない」ことの立証が必要になります。
しかし、試食というのは、そもそもあまり買う気がないものでも、味見により買う気になってもらうというシステムです。 つまり、お店側としては、試食の段階では買う気がなくても、食べてみたら美味しくて購入に至る可能性があるということに賭けているわけで、お客さんが結局買わなくても犯罪にならないのは当然です。 そのため、単に「買う気が無かったが試食した」「結局買わなかった」という事情だけでは犯罪は成立しません。
仮に、ある利用客が何度も同じスーパーに通い、常に何も購入せずに試食品だけを食べ続けているといった客観的な事実が防犯カメラの映像などから立証されれば、「商品を購入する気が全くない」「購入するかどうかを判断するために試食しているのではないことが明らか」と判断され、お店側の被害申告に基づき警察が動く可能性も出てきます。
しかし、一般的な試食のケースでは、警察沙汰になる可能性は低いといえるでしょう。
もちろん、警察沙汰にならなくともお店から嫌な顔をされたり、場合によっては食べ過ぎを注意されたりすることはありえます。
試食品は「商品を販売する」という目的のために提供されるサービスであることを理解し、お店に迷惑をかけない節度ある利用が求められます。