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「継父=危険」のデータなし…京都男児殺害事件で広がる言説、ステップファミリー研究者が指摘「親にならなきゃ」の罠
菊地真理教授(本人提供)

「継父=危険」のデータなし…京都男児殺害事件で広がる言説、ステップファミリー研究者が指摘「親にならなきゃ」の罠

京都府南丹市で今年4月、小学生の安達結希さん(当時11歳)が遺体で見つかった事件。その後、継父の男性が逮捕され、殺人と死体遺棄の疑いで起訴された。

結希さんが「本当のお父さんじゃない」と口にしたことが引き金になったと報じられ、SNSでは「連れ子のいる再婚は危険」「養父・継父は危ない」といった言説が広がった。

だが、血のつながりの有無だけで、この事件やステップファミリー全体を語ってよいのだろうか。

ステップファミリー研究者で、当事者支援組織「SAJ」の運営委員もつとめる大阪産業大学の菊地真理教授は、継親や継子、同居親、別居親ら多くのインタビューを重ねてきた。

菊地教授は「ステップファミリーにも多様なかたちがあることを理解してほしい。初婚の家族をなぞらない家族観を肯定すること。そのための制度改革と支援の充実が必要だ」と訴える。(弁護士ドットコムニュース編集部・塚田賢慎)

●「危険」の根拠となるデータはない

菊地教授はまず、「継父が虐待するリスクが高い」とする見方を明確に否定する。

こうした言説はよく語られるが、裏づけとなるデータはないという。

「継父が虐待するリスクが高いというデータはありません。ステップファミリー自体の母数もわからない。警察庁や子ども家庭庁が公表する虐待事件や相談件数の中でも、継父や養父が突出して高いという根拠はありません」

「問題は、血縁の有無ではありません。ステップファミリーには初婚の家族とは違う特有の家族構造があります。その理解が、当事者にも周囲にもあるかどうかです。問題なく良好な関係を築いている継親子のケースはいくらでもあります」

●報道が映す「家族観」

その理解の欠如は、報道にも表れていると菊地教授は指摘する。

今回の事件では、全国紙も継父を「父親」と表現した。

「メディアの表現には、その社会で共有されている家族観が反映されます。継父を『父親』と書く背景には、ステップファミリーも初婚家族と同じような家族だ、あるいは目指すべきだ、という発想があるように思えます」

●初婚家族とは「構造」が違う

菊地教授が繰り返し強調するのが、ステップファミリーと初婚家族の「構造」の違いだ。

「親子関係が先にあって、その後に再婚カップル、夫婦関係が形成される。この順番はステップファミリーに特有のものです」

しかし、同居しているメンバーだけに限定すると、親が2人いて子どもがいる「核家族」であるかのように見える。

「離婚や死別という経験もあって、これから再婚してどういう家族を築くかとなったとき、2人の親と子どもからなる初婚のような核家族を理想像として思い描きやすい。逆に、それ以外の家族のあり方を想像しにくい。家族の形が多様化している日本社会でも、ステップファミリーに適当な家族モデルは簡単には見つからないのです」

●「親にならなきゃ」という圧力

事件の報道から菊地教授が読み取るのは、典型的な葛藤のパターンだった。

結希さんの母親が継父と再婚したのは前年12月とされ、1年経たないうちに事件は起きたことになる。

「結希さんが『本当のお父さんじゃない』と口にしたことが引き金となったとも報じられています。関係が浅く、信頼関係が十分にできていない段階で、『早く親にならなくては』『父親として認められたい』というプレッシャーを背負って継子に接し、しつけをしようとすると、子どもは抵抗・反発し、継親子の関係が悪化してしまうのはよくあるパターンです」

一般的に、なぜ継親は追い詰められていくのか。その鍵は家族の構造にあるという。

2人だけの時間を共有してきた同居親と子どもに、継親が加わると、継親も子どもも家族の中で孤立感を抱えやすい(アウトサイダーになりやすい)という。

「初婚から離婚そして再婚へという家族移行の過程を、親子はともに経験しています。日常のなかでの生活習慣やさまざまな思い出、そして価値観を共有しているのです。途中から加わる継親は、これらを共有していないため、疎外感や孤立感を抱えやすい」

その一方で、同居親や周囲から『親代わり』として期待され、プレッシャーを抱え込むという。

●子ども側にも「喪失と反発」

「そして子ども側でも、再婚にともない生活環境が大きく変化したり、愛着と信頼関係を築いてきた親(同居親、別居親)を喪失したり、自分の居場所を奪われたように感じられると、再婚や同居親、継親に反発するのも珍しくありません」

継親子に、いきなり「親子」の関係を求めるのは酷だと菊地教授は言う。

「子どもは継親を親として受け入れられず、継親も『親でなければ何者なのか』と思い悩む。そこで関係がこじれやすいのです。

同居親は両方との関係を持つポジションにいるので、継親子が親子に成り代わるのではない形で関係を築けるようにサポートしていく必要があります。こうした情報は非常に大切なのに、当事者になかなか届いていません」

●日本社会の制度が「代替モデル/スクラップ&ビルド型」へ導く

こうした行き違いの背景には、日本特有の制度があると指摘する。

日本は離婚後の単独親権制を採用してきたため、一方の親(多くは父親)との関係が切れやすい。一方で、継親子の養子縁組は比較的容易に成立する。

「離婚制度と養子制度の組み合わせによって、継親が『親代わり』として位置づけられやすい制度的な背景があります。大人も気づかぬうちに、初婚家族をなぞる形のステップファミリー(代替モデル/スクラップ&ビルド型)を目指してしまうのです」

制度的には子どもと別居親の関係が途切れやすい。だが、子どもにとって、家族の経験は初婚時から地続きだ。

「大人が考える家族の範囲と、子どもが考える家族の範囲は異なります。そこに利害の対立が生まれやすいのです」

●うまくいくステップファミリーは継親が「親役割から降りる」

菊地教授は、うまくいくステップファミリーに共通するのは、継親が「親代わり」となることを目指さないケースだと指摘する。

しつけや教育は同居親が担う。継親はそのサポート役に回り、継子との信頼関係ができてから、進路選択やトラブルの場面で子どもの「アドバイザー」になる──。

「継父であれ継母であれ。『親』というポジションに立とうとするともうひとりの実親と競合してしまい、『よりよい親』と認められようとして苦しくなる。むしろ、そのポジションから降りたほうがいい。そのうえで、継親その人にしかできない関わり方で、継親子関係を創造する。初婚家族にはない関係が追加されるので、子どもにとってもプラスになります」

●「早く『家族』になりたい」それは大人側の願望

これまでの調査によると、別居親との関係を保ち続けることも重要だという。同居親が、新しいパートナー(継親)との法律婚や同居を急がず、子どもと継親の信頼関係がつくられるのを優先したケースは、子どもにも受け入れられやすかったという。

「早く『家族』になろうとするのは大人の願望です。子どもも同じ願望をもっているとはかぎらないし、むしろ大人の願望を受け入れようとして本心は伝えられず、心に蓋をしてしまうのではないかと思います」

●「継続モデル/連鎖・拡張するネットワーク型」の家族形成へ期待

今年4月に施行された改正民法を、菊地教授は一定程度評価する。

選択的共同親権が新たに導入されたことそのものではなく、親の責務が明示されたことにより、親権の有無や婚姻関係に関わらず、父母に互いの人格を尊重し「親」として子どもの扶養への協力を求めている点を重視する。

「この理念が広まれば、子どもにとって一方の親がいなくなることが起きにくくなる。父母の婚姻関係にかかわらず、子どもが父と母、そして継親、両方の祖父母や継祖父母ともつながり続ける『継続モデル/連鎖・拡張するネットワーク型』のステップファミリーへと進むルートが開かれたのではないかと期待しています」

なかにはDVなどが原因で離婚し、加害親に子どもを会わせられないケースもあるが、「それはまた別途で、男性でも女性でも加害親に対しての支援プログラムが必要です」と付け加えた。

●「語れない子ども」をどう支えるか、救うか

今回の事件は最悪の結末を迎えてしまった。見えにくい"子どものSOS"をどう拾うかは、何より優先されるべき課題だ。

菊地教授が出会ってきた、ステップファミリーで育った子どもたちの多くは「自分の家族経験や想いを打ち明けたことはない」と語っていたという。明かせる相手は、同じように親が離婚した経験をもつ友人などに限られ、極めて少ないという。

子どもの心のなかは、父母の離婚や再婚により生活環境や家族関係が変わっていくことへの戸惑いや不安・不信感と、同居親や継親が望む家族形成への配慮や忠誠心との間で揺れる。

なかには、学校の課題で「自分史をつくる」という宿題が出され、交流の無くなった父親の写真を探していたところ、継父から「そんなに前の父親がいいんだったら出て行け」と叱られた子もいたそうだ。語ること自体がタブーになっていく。

●子どものSOSに気付ける立場の人から理解を広げる

求められるのは、子どもの意見表明を支える仕組み、だ。SOSに気付くことができる立場の人への理解がまずは求められる。

子どもの心身の変化にいち早く気づけるのは、保育や教育現場など、日常的に子どもに接する専門職や実務家たちだ。

「子どもが本当に信頼して、気持ちを語れる場をつくれるとよいでしょう。子どもの変化をキャッチしたうえで、ステップファミリーへの理解を踏まえながら、必要な支援につなぐとともに、保護者にもどう伝え家族をサポートできるか。それも重要な役割です。まずは保育や教育現場にステップファミリーへの理解が広まることを願っています」

さらに「行政には、子育て支援の通常のメニューのなかにステップファミリーを加えてほしい」と強調する。

たとえば、自治体から妊娠時に母親学級や父親学級の案内があるように、再婚の入り口の段階で、大人側にステップファミリーがうまくいくやり方や子どもに配慮すべきことを知る(学ぶ)機会があれば、それが子どもの生きやすさにもつながることが期待できるという。

●多様な「家族の形」への理解を

血のつながりの有無で「危険か安全か」を語るのは、問題の核心を外している。菊地教授はそう繰り返す。

「血縁ではなく、家族の構造を理解すること。そして、ステップファミリーの大人も子どもも、孤立を防ぐ仕組みや情報を社会が整えることが大切です」

ステップファミリーの多様性を認め、初婚家族をなぞらない家族のかたちを肯定する。それを支える制度と支援があって初めて、子どもを守る土台が作られるのではないだろうか。

【プロフィール】菊地 真理(きくち・まり)。大阪産業大学経済学部教授。家庭裁判所調査官試験委員会臨時委員(最高裁判所)。共著などに『ステップファミリー―子どもから見た離婚・再婚』(KADOKAWA)、『ステップファミリーのきほんをまなぶ―離婚・再婚と子どもたち』(金剛出版)。SAJ(ステップファミリー・アソシエーション・オブ・ジャパン)の運営委員。

この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいています。

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