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ほろ酔いで帰宅中の「職務質問」、任意なのに断れず…複数人に「あの中」まで見られる
画像はイメージです(Haru photography / PIXTA)

ほろ酔いで帰宅中の「職務質問」、任意なのに断れず…複数人に「あの中」まで見られる

ここは都内有数の繁華街のはずれ。週の半ばということもあり、酒量はほどほど、ほろ酔い気分で、悠人(仮名)は家に向かっていた。時刻は夜10時すぎである。

オフィスや居酒屋のあかりは、ほとんど消えてしまっているが、飲酒後の全能感と街灯が彼の行き先を照らしているようだった。

明日も良い日になるといいな――。そう思った矢先、後ろからやってきた複数の警察官に悠人は囲まれてしまった。そして、このうちの1人、リーダー格が言い放った。

「職務質問させてもらっていい?」

●「任意」でも断りきれない

地方出身の悠人にとって、生まれて初めての職務質問、都会の洗礼だった。せっかくの気分が台無しにされたようにも思えた。

「職務質問って、任意なんですよね?」

少し呂律の回っていない言葉でたずねると、先ほどの警察官は「任意です」と返した。そう聞いて、安心して歩きだそうとしたところ、さらに「任意です」と重ねてくる。

どうやら、その警察官が言う「任意」とは、「やましいことがなければ、ふつうは受け入れるべきものだ」という意味のようである。

元警察官で、ライターの鷹橋公宣氏によると、警察官は「任意」という文句に慣れているという。むしろ、かえって挑発してしまうそうだ。

(参考)「『任意でしょ?』という断り文句には慣れています」 元警察官が教える職務質問のウラ側
https://www.bengo4.com/c_1009/n_14937/

●悠人は大きめのバッグを背負っていた

とはいえ、悠人にやましいことはない。浮気グセすらない(かもしれない)。以前にネット記事で読んだことがあったので、立ち止まり、たずねてみた。

「警職法(警察官職務執行法)にあたりますか?」

「けいしょくほうって何のこと? それより、あなたは信号を使わずに道路を横断したでしょ。だからです」

警職法、つまり警察官職務執行法2条1項こそが「職務質問」の根拠法だ。次のように記されている。

<警察官は、異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断して何らかの犯罪を犯し、若しくは犯そうとしていると疑うに足りる相当な理由のある者又は既に行われた犯罪について、若しくは犯罪が行われようとしていることについて知つていると認められる者を停止させて質問することができる>

しかし、警察官たちは真顔である。一方の悠人にも心当たりはない。たしかに横断歩道のないところで道を横切ったが、赤信号を無視した記憶はない。

鷹橋氏によると、実務上、職務質問の要件は「警察官の目からみて『不自然だ』『怪しい』と感じられるかどうか」だという。

また、同氏によると、警察官の不文律があるそうだ。「旅行者のような様子もないのに大きな荷物を持っていたら家出人や逃亡犯を疑え」。

警察官たちの目には、悠人が「あやしい奴」と映ったのかもしれない。そして、悠人はノートパソコンを入れた大きめのバッグを背負っていた。

(参考)職務質問はやっぱり「見た目」で判断される? 元警察官は「直感と状況のハイブリッドで判断」
https://www.bengo4.com/c_18/n_15151/

●職務質問に応じることにしたが・・・

まったく埒が明かず、早く帰宅したい思いで、悠人は職務質問に応じることにした。だが、のっけから、彼のバッグの中身を見せろと言ってくる警察官。

さすがに腹が立った悠人が、その様子をスマホで撮影させてほしいと伝えると、別の警察官が「プライバシー侵害になる」と言った。

プライバシーを侵害されているのは一体どちらか――。そう思いながら、バッグの中身を一つずつ丁寧に見せていく悠人。

ものの1、2分のことだったが、不愉快な気分になった彼にとっては、数十分のことに思えた。翌日、大事な会議が控えていることも、ついでに思い出した。

ようやく帰れるとホッとしたところ、リーダー格の警察官がさらに「財布の中身も見せてもらえる?」と言うではないか。

理由は「他人のクレカを持ち歩いている可能性があるから」。

悠人はあきれてしまった。そして、考えることをやめた。運転免許証のほか、クレジットカードなど、自分の名前の入ったものを洗いざらい提示した。

「ご協力ありがとうございました」

立ち去る悠人の背中から、警察官たちの声が聞こえてくるが、アルコールのせいからか、怒りで頭に血がのぼっているからか、言葉は耳に入らなかった。

その場所から十数メートル先で、明らかに不審な車両が停車していた。悠人は窓越しに車内をのぞいたが、暗くてよくわからなかった。

「これだ!」と思って振り返ると、警察官たちは、いつまでも悠人のほうを見つめていた。

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