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コンビニ「出店ラッシュ」の歯止めに? 加盟前の「誇大説明」をけん制…公取委報告書
愛知大学の木村義和准教授(本人提供)

コンビニ「出店ラッシュ」の歯止めに? 加盟前の「誇大説明」をけん制…公取委報告書

コンビニ業界に対して、公正取引委員会も変化を求める一石を投じた。

公取委は9月2日に発表したコンビニの実態調査の報告書で、「24時間営業の強制」や近隣に店舗をかためる「ドミナント出店」などが独占禁止法違反になる恐れがあると明言。コンビニ8社に対して、点検と改善を求めている。

コンビニ問題やフランチャイズ契約について研究している愛知大学の木村義和准教授は、報告書について次のように語る。

「24時間営業やドミナント出店については、加盟前にリスクなどをきちんと説明するようにも求めている。これまでのような、誰でもいいから新しいオーナーを見つけて、どんどん新店をつくるというやり方はより難しくなっていくでしょう」

●オーナーの苦境より鮮明に

調査の中心になったのは、2020年1~2月に実施された加盟店へのアンケートだ。8社の5万7524店に回答を依頼し、1万2093店(21.0%)から回答があった。オーナー数ベースだと回収率は27.1%。

質問数は最大129問あり、自由記述も豊富。実施当時に話を聞いたオーナーが「本気で回答したら1、2時間はかかる」と言うほどのものだった。それだけにできあがった報告書は全227ページもある。

報告書では、オーナーが置かれた厳しい状況が改めて浮き彫りになった。年間休日は平均21.3日で、10日以下というオーナーが6割以上。深夜勤務をみてみると、半数以上は年間0~12日以下に収まっているものの、300日を超えたオーナーが13.9%いた。

オーナーの直近1年間の休暇日数、報告書p155

オーナーの直近1年間の深夜勤務日数、同p159

一方、加盟間もないオーナーがいることに留意する必要はあるものの、世帯資産は債務超過状態(17.3%)と500万円未満(43.5%)があわせて6割超。1店舗あたりの利益の中央値も586万円で、5会計年度前と比べて192万円減っている。

オーナーの個人(世帯)資産額、同p68

オーナーの個人(世帯)資産額(加盟年数別)、同p70

「経産省もコンビニ加盟店の調査を公表していますが、ここまで具体的ではありませんでした。

個別の加盟店の事例はよく聞くのですが、業界全体の苦境であることが明確になり、改めて驚いています。調査はコロナ流行の前で、加盟店は現在もっと苦しい立場にある。本部の早急なサポートが必要といえるでしょう」(木村准教授)

●24時間やドミナント、無断発注などを問題視

では、独禁法との関係ではどうか。

年中無休24時間営業については、本部が時短営業を容認する姿勢を示しているにもかかわらず、時短を希望した加盟店オーナーの8.7%が交渉にすら応じてもらえていない。

この点、公取委は本部が時短営業を一方的に拒絶した場合には、優越的地位の濫用に当たるとしている。

時短営業についての本部の交渉態度(赤枠は編集部)、同p181

ドミナント出店についても、それ自体が直ちに独禁法違反になるわけではないが、本部が「配慮する」などと定めておきながら、支援をしなかったり、一方的な出店をしたりした場合には優越的地位の濫用になりうると示した。

また、公取委はオーナーの半数前後が「必要以上の発注を強要されたことがある」「指導員に無断で発注されたことがある」と回答している点にも触れ、優越的地位の濫用に当たる恐れがあるとして、早期の改善を求めている。

必要以上の数量を仕入れるよう強要された経験の有無、同p132

指導員に無断で発注された経験の有無、同p137

特に廃棄の大部分がオーナー負担となる「コンビニ会計」を採用している場合には、加盟店側が一方的に負担を負うことになりかねないとして、無断発注などが生じないよう強く留意する必要があると記されている。

●加盟時の説明が不足? 出店数競争の弊害か

木村准教授はさらに、公取委が加盟前の説明のあり方を丁寧に検討していることにも着目する。

まずオーナーが本部と接触してから契約するまでの平均は4.4カ月だが、最頻値は1カ月(24.3%)だった。「本部から契約を急かされた経験がある」と回答したオーナーが27.3%おり、この群は加盟したことに対する満足度が低い。

加盟までの検討期間、同p89

本部から契約を急かされた経験の有無、同p94

契約を急かされた経験の有無と本部に対する満足度の関係、同p95

また、加盟前に受けた予想売上または予想収益の額について、オーナーの41.1%が「実際の状況の方が悪かった」と回答している。

予想売上又は予想収益の額に関する説明、同p109

このほか、次のような回答も見られた。

・ドミナントについて、「説明より実際の状況の方が悪かった」(22.6%)、「説明を受けていない」(19.6%)

・アルバイト採用の難しさについて「説明を受けなかった」(40.1%)

・臨時休業などのサポートが実際には使えないなど、営業時間に関する説明について、「実際の状況の方が悪かった」(14.4%)、「説明を受けていない」(30.9%)

「チェーン間の出店競争の中で、(新店の物件とオーナーを見つける)本部の一部リクルーターが自身の実績のため、十分なリスクを説明しないままオーナーに契約させてしまっていたのではないでしょうか」(木村准教授)

しかし、オーナーの7割以上は事業の経験がない。公取委はこうした実態も踏まえて、加盟前に十分な説明をしなかったり、虚偽もしくは誇大な説明をしたりした場合には、独禁法が規制する「ぎまん的顧客誘引」にも当たりうると判断している。

「いいかげんな勧誘はできなくなった。リスクについてきちんと説明することが徹底させていく流れになるのではないでしょうか。単純な拡大路線は難しくなると考えられます」(木村准教授)

●新しくオーナーになる人は?

これだけ苦境が伝えられるコンビニ業界だ。すでに経営実績のあるオーナーならともかく、丁寧にリスクを説明して、新しくオーナーになってくれる人がどのくらいいるだろうか。

コンビニをめぐっては2020年2月、経産省の「新たなコンビニのあり方検討会」も報告書を出し、ビジネスモデルの再構築を求めている。

木村准教授も猶予はあまりないと見ている。

「今回の公取委の報告書で、加盟店がどれだけ苦しんでいるのかという実態が、具体的な原因つきで明らかになった。本部はそこを改めて、加盟店との共存共栄のビジネスモデルを構築することがより強く求められることになります」

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